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アメーバ赤痢患者数と同性間感染「HIV感染者」数の同調した年次変動

(IASR Vol. 37 p.242-243: 2016年12月号)

伝染病統計(1998年)をみると,アメーバ赤痢は,細菌性赤痢とともに赤痢として大括りにされている。つまり,腸管感染症として扱われていた。図Aは,1949~2009年までのアメーバ赤痢の患者を14歳以下か15歳以上,男性か女性かに分け実数をプロットしたものである。戦後衛生状況の悪い時期から東京オリンピックの1965年にかけ,衛生状況の改善とともにアメーバ赤痢は激減し,その状況が1980年くらいまで維持され,そこから急に,男性の,しかも,15歳以上の疾患として増加した。腸管感染であれば,このような性や年齢による偏在は現れないはずである。

 この年齢的性的偏在に加え,近年わが国の同性間HIV感染男性にアメーバ赤痢が頻発していることから1),このアメーバ赤痢の増加は主に同性間性交渉男性間感染によることが疑われた。実際,1999~2013年間の各年のアメーバ赤痢,梅毒,ジアルジア症,淋病の頻度を縦軸に,相当年のHIV/AIDS患者の数を横軸にプロットすると(各点は各年に当たる)(図B),アメーバ赤痢のみがHIV/AIDS患者と高い頻度相関(相関係数0.96)を示す。日本のエイズ統計では,HIV感染がエイズ発症前に見つかった者を「HIV感染者」,発症後に見つかった者を「エイズ患者」というが,同性間「HIV感染者」男性あるいは異性間「HIV感染者」男性と男性アメーバ赤痢との相関を見ると(図C),アメーバ赤痢は同性間「HIV感染者」と相関し,異性間「HIV感染者」とは相関しない。即ち,アメーバ赤痢患者数の年次変動は,同性間「HIV感染者」数の年次変動とのみ同期している2)

アメーバ赤痢が急性感染症(潜伏期は2~4週間)であり,「HIV感染」は,教科書的には,感染から約10年後のAIDS発症の間のどの時点でも検出され得る,どちらかと言えば慢性疾患とされているが,そうすると,上記の観察は,急性疾患と慢性疾患が同期して年次変動することになる。これはあり得ない。むしろ,同性間性行為による男性 「HIV感染者」 が,同時感染したアメーバ赤痢の急性症状により感染早期(<1年)に見つかっていると考える方が理屈に合う。しかし,エイズ診療の場では,HIV感染者の中でのアメーバ赤痢感染の頻度が常に高い訳ではない3)。この一見矛盾する事象を説明するには,男性の同性間性交渉において多量のウイルスを含む精液を直腸に受け入れるため,感染初期の血中ウイルス量が高くなり,急性期症状が強く出て早期に診療を受けている可能性が考えられる。この仮説は,女性HIV感染者が同性間性交渉男性同様の割合で「HIV感染者」として頻度高く見つかることとも話が合う4)

同性間 「HIV感染者」 男性の年次変動と男性アメーバ赤痢患者の年次変動が同期するのは,HIVと赤痢アメーバが男性同性間性行為者という共通の感染の場を共有しているためと思われる。

 

参考文献
  1. Watanabe K,et al.,PLoS Negl Trop Dis 2011 Sep; 5(9): e1318,2011
  2. Yoshikura H,Jpn J Infect Dis 69: 266-269,2016
  3. Nagata N,et al.,Emerging Infect Dis 2012; 18: 717-724
  4. Yoshikura H,Jpn J Infect Dis 68: 98-105,2015

国立感染症研究所名誉所員 吉倉 廣

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan