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百日咳の抗体保有状況および乳幼児の百日咳予防接種状況の推移―感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 38 p.31-33: 2017年2月号)

はじめに

感染症流行予測調査は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とし, 国立感染症研究所ならびに都道府県・都道府県衛生研究所が協力して実施しており, 予防接種法に基づく定期接種対象疾患に関する感受性調査(抗体保有状況調査)および予防接種歴調査などが行われている。

 百日咳の感受性調査は1975年度に開始され, 1990年度までは毎年実施されていたが, 以降, 4~5年ごとに調査が実施されている(1994, 1995, 1998, 2003, 2008, 2013年度)。また, 1998年度までは主に小児を対象とした調査であったが, 2003年度以降は全年齢層を対象とした調査が行われている。血清中の抗体価は, 1975~1983年度は百日咳菌凝集素価, 1983~1990年度は百日咳菌凝集素価に加え, ELISA-PLATE法による百日咳毒素(PT)および繊維状赤血球凝集素(FHA)に対する抗体価, 1994~2003年度はELISA-BALL法による抗PTおよび抗FHA抗体価, 2008年度はELISA-BALL法による抗PT・抗FHA抗体価および百日咳菌凝集素価, 2013年度はEIA法による抗PT・抗FHA抗体価と測定方法が変更されている。

また, 定期接種として百日咳に対する予防接種には長らく三種混合(百日せきジフテリア破傷風混合: DPT)ワクチンが使用されてきたが, 2012年11月に四種混合(百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合:DPT-IPV)が導入された。

ここでは, 2013年度に実施された感受性調査の結果および2010~2015年度の予防接種歴調査の結果について述べる。

対象および方法

2013年度の百日咳感受性調査は, 北海道, 東京都, 福井県, 愛知県, 愛媛県, 高知県, 福岡県の7都道県で実施され, 合計1,308名の対象者における抗体価が測定された。抗PT IgGおよび抗FHA IgG抗体価の測定は, 市販のEIAキットを用いて各都道県の衛生研究所で行われた。

また, 予防接種歴調査は上記以外の地域でも実施され, 2010年度は3,762名, 2011年度は3,630名, 2012年度は3,577名, 2013年度は4,236名, 2014年度は3,424名, 2015年度は3,614名の予防接種歴が報告された。

結 果

1)抗体保有状況

年齢別の抗PT IgG抗体および抗FHA IgG抗体の保有状況について図1に示した。乳児の発症防御レベルとされる10 EU/mL以上の抗PT IgG抗体の保有率についてみると, 0-5か月では33%であったが, 6-11か月で93%に上昇した。1~3歳は50%前後(41~57%)の抗体保有率であったが, 4~7歳は40%未満(26~38%)に低下した。以降, 加齢とともに上昇傾向がみられ, 8~10歳は50%前後(43~54%), 11~16歳は概ね60~70%台(57~75%), 17歳以上は概ね70~80%台(65~88%)の抗体保有率であった。一方, 抗FHA IgG抗体価の10 EU/mL以上の保有率についてみると, 全体的に抗PT IgG抗体の保有率より高かったが, 0-5か月(67%)から6-11か月(100%)の上昇, 1~3歳(79~86%)から4~7歳の低下(63~71%)は抗PT IgG抗体と同様にみられた。

2)予防接種状況

予防接種歴が得られた対象者のうち, 5歳未満(2010年度:514名, 2011年度:515名, 2012年度:534名, 2013年度:494名, 2014年度:597名, 2015年度:647名)の百日せき含有ワクチン(DPT, DPT-IPV)接種状況について調査年度別に図2に示した。なお, 2010~2012年度はDPTワクチンの接種歴, 2013~2015年度はDPTワクチンあるいはDPT-IPVワクチンの接種歴となる。

5歳未満で接種歴が不明であった者は2010~2012年度が3~4%, 2013~2015年度が11~12%であった。これら接種歴不明者を除き1回以上の接種歴(有:1~4回, 回数不明)があった者の割合をみると, 2010年度の0-5か月児は25%であったが, 2011年度は75%に増加し, 2012年度以降は概ね70~80%(2012年度67%, 2013年度80%, 2014年度82%, 2015年度72%)であった。また, 接種回数別にみると, 0-5か月児で第1期初回(3回)の接種を完了した割合は, 2013年度以降増加傾向がみられた(2013年度10%, 2014年度18%, 2015年度32%)。6-11か月以上の児においては, いずれの調査年度も概ね95%以上に1回以上の接種歴があり, その多くは3回以上の接種歴があった。

考 察

2013年度の百日咳感受性調査において, 抗PT IgG抗体および抗FHA IgG抗体の保有率は0-5か月児から6-11か月児に上昇がみられ, これは百日せき含有ワクチンの1回以上接種率の上昇に加え, 第1期初回3回接種の完了者が増加したためと考えられた。また, 4~7歳でみられた抗体保有率の低下については, ワクチン接種後の抗体価の減衰が考えられた。以降の年齢で抗体保有率が上昇しているが, わが国の定期接種の制度では7歳半以降に百日せき含有ワクチンの接種機会はないことから, 自然感染による抗体保有率の上昇が考えられた。なお, 2013年度の調査は抗体測定方法がEIA法に変更になった1回目の結果である。今後も継続して検討が必要である。

一方, 百日せき含有ワクチン接種状況の年次推移について, 2011年度の0-5か月児でみられた接種歴有の割合の増加は, 全国の小児科医が生後2か月からのワクチン開始を啓発したことにより, 百日せき含有ワクチンの最低接種月齢である生後3か月からの接種開始者が増加したためと考えられた。また, 2013年度以降でみられた0-5か月児における3回接種者の割合の増加は, 2013年4月にHibワクチン, 小児用肺炎球菌ワクチンが定期接種に導入され, 百日せき含有ワクチンとの同時接種者が増加したことで0歳早期での接種者が増加した可能性が考えられた。

今後も引き続き, 百日せき含有ワクチンの接種状況ならびに百日咳抗体保有状況を含めた継続した調査が必要である。


国立感染症研究所感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子
国立感染症研究所細菌第二部 大塚菜緒 蒲地一成
2013年度百日咳感受性調査実施都道府県:
 北海道 東京都 福井県 愛知県 愛媛県 高知県 福岡県

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