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きゅうりのゆかり和えによる腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事例―千葉県, 東京都

(IASR Vol. 38 p.92-94: 2017年5月号)

2016(平成28)年8月末, 千葉県北西部並びに東京都西部の老人福祉施設において, きゅうりのゆかり和えを原因としたShiga toxin 1&2産生の腸管出血性大腸菌O157(EHEC O157)による集団食中毒が発生した。本事例では, 新たな分子疫学的解析法であるmultiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA法)を用いたことで, 集団食中毒事例の早い段階で, きゅうりのゆかり和えが原因食品であるとの解析結果を関係部署に提供できた。

 事例概要

8月27日, 千葉県北西部にある老人福祉施設の職員から管轄保健所に「25日から入居者数名が下痢や血便等の症状を呈している」と連絡が入り, 同日, 積極的疫学調査を開始した。調査の結果, 入所者201名中51名, 入所者家族1名の計52名が消化器症状を発症しており, 発症状況は一峰性であることが明らかになった。当該施設内の厨房では, 委託業者が給食を調理して提供していた。当該保健所によって, 発症者の検便および給食の検査が実施され, 30日に発症者から, 9月1日にきゅうりのゆかり和え(22日の検食)からEHEC O157の菌株が検出された。

一方, 東京都においても, 8月28日, 都内の老人福祉施設から「複数の入居者が下痢, 発熱, おう吐等の症状を呈している」との連絡があり, 都内管轄保健所が直ちに調査を開始していた。調査の結果, 都内の施設でも千葉県の施設と同一の委託業者が, 施設内の厨房で給食を調理して入居者に提供していた。また, 複数の感染者ふん便からEHEC O157の菌株が検出され, 本件を食中毒と断定したことを, 9月1日に報道発表した。さらに, 9月5日には, 「きゅうりのゆかり和え」からもEHEC O157の菌株が検出されたことを報道発表した。

最終的に, 千葉県および東京都の両施設において, 患者数は84名となった。

分子疫学的解析

9月1日, 千葉県衛生研究所に, 千葉県の老人福祉施設で分離された10菌株のEHEC O157(感染者由来の9菌株, きゅうりのゆかり和え由来の1菌株)が搬入され, これらの菌株についてMLVA法で解析を行った1)。9月4日, 感染者由来の7菌株は, きゅうりのゆかり和え由来の1菌株とすべての遺伝子座位でリピート数が一致したが, 感染者由来の2菌株は1つの遺伝子座位でリピート数が異なっていた(single locus variant: SLV)()。同一の汚染食品が原因となり発生した食中毒事例由来の菌株間であっても, SLVが認められる場合があることから1), 感染者由来の9菌株ときゅうりのゆかり和え由来の1菌株は, 同じクローンから発生したEHEC O157であると考えられた。以上より, 本事例の原因食品は, きゅうりのゆかり和えであると明らかになった。9月2日~14日に, 千葉県衛生研究所に新たに32菌株のEHEC O157が搬入され, これら菌株ときゅうりのゆかり和え由来の菌株も同一クローン由来であることが確認された。

9月9日, 千葉県衛生研究所と東京都健康安全研究センター間で, 互いに分離したEHEC O157菌株(感染者由来の3菌株, きゅうりのゆかり和え由来の1菌株)について, 相互に譲渡・分与を行った。これら菌株をMLVA法で解析したところ, 千葉県と東京都で分離された菌株は類似性が高く, 同一クローン由来であることが確認された()。なお, 東京都ではパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法を実施しており, 同様に, 菌株間でのバンドパターンの一致が確認された()。以上より, 千葉県と東京都の施設で提供されたきゅうりのゆかり和えが同一クローン由来のEHEC O157菌株に汚染されていたことが明らかとなった。しかし, きゅうりのゆかり和えの原材料がいずれの施設においても保存されていなかったため, EHEC O157菌株の汚染源は明らかにはならなかった。

考 察

本事例では, きゅうりのゆかり和えを調理する過程で, 食材の洗浄が不十分であったことが, EHEC O157による集団食中毒発生の原因になった可能性がある。厚生労働省が定めた 「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成9年3月24日付け衛食第85号)」では, 野菜や果物を加熱せずに提供する場合, 食材を流水と中性洗剤で洗浄後, 必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌をするとされている。本事例の厨房は大量調理施設には該当しないが, きゅうりを流水で洗浄しただけで, 加熱や殺菌を行わず, きゅうりのゆかり和えを調理していた。一方で, 熱湯あるいは, 次亜塩素酸ナトリウムによる消毒後, きゅうりのゆかり和えを調理した東京都内施設(同一給食事業者)では, 食中毒の発生が無かったことから, EHECの食中毒発生防止には同マニュアルを遵守することの重要性が示唆された。

集団食中毒における原因食品の特定のために, 分子疫学的解析法により, 食品と感染者由来菌株の類似性を解析することは非常に重要である。これまで, 各地方自治体は, PFGE法で集団食中毒事例に対応してきた。PFGE法は菌の分子疫学解析として汎用性が高い手法であるが, 手技が煩雑である。菌株間の相同性は電気泳動後のパターンを直接比較するため, 感染者が複数自治体にまたがる場合は, 相互に菌株の分与を行わなければ正確な解析結果が得られない。

2002年に, PFGE法に代わるEHEC O157の分子疫学的解析法として開発されたMLVA法は1), 病原菌の特定遺伝子座位における繰り返し配列のリピート数の解析により, 菌株間の類似性を判定する方法である。MLVA法の結果は数値であるため, 自治体間での結果の比較が容易であるという利点がある。また, MLVA法ではPCR法を用いるので, PFGE法と比較して短時間で解析結果を出すことが可能である。本事例でも, EHEC O157菌株の搬入から3日以内にはMLVA法の解析結果が得られている。さらに, MLVA法の分離能(菌株間の類似性の違いを判定する能力)はPFGE法と同程度以上である2)。実際, 本事例において, PFGE法ではバンドパターンが一致した菌株をMLVA法で解析すると, リピート数が一致またはSLVであった(データ示さず)。

MLVA法は, 解析結果の共有性・迅速性・分離能に優れた分子疫学的解析法である。今後, 多くの自治体の検査機関でもMLVA法を導入し, PFGE法と併用することで, 広域的な集団食中毒事例にも迅速に対応することができるだろう。

 

参考文献
  1. Noller, et al., J Clin Microbiol 41: 5389-5397, 2002
  2. Izumiya, et al., Microbiol Immunol 54: 569-577, 2010

 

千葉県衛生研究所
 平井晋一郎 横山栄二 涌井 拓
東京都健康安全研究センター
 小西典子 尾畑浩魅 赤瀬 悟 原田幸子 小林惠子 森 功次 門間千枝
 平井昭彦 貞升健志
千葉県市川保健所
 生活衛生課
 疾病対策課
千葉県習志野保健所
 検査課

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