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秋田県のつつが虫病患者発生状況(2007~2016年)

(IASR Vol. 38 p.113-114: 2017年6月号)

2007~2016年に秋田県において届出されたつつが虫病患者数178例のうち, 当センターが間接免疫ペルオキシダーゼ法(IP法)1)による血清抗体検出で確定診断を行ったのは174例(98%)であった。抗体価から推定された感染Orientia tsutsugamushiの血清型はKarp型152例(87.4%), Shimokoshi型7例(4.0%), Gilliam型4例(2.3%), Kato型3例(1.7%), 不明8例(4.6%)であった。本稿では秋田県における各血清型の発生状況およびつつが虫病対策を紹介する。

1. 秋田県のつつが虫患者の発症月と血清型(

Karp型つつが虫病患者は県内ほぼ全域で発生し, 発生時期は4月~11月と長期間にわたるが, 最多は5月であった。感染機会は農作業が最も多く53例(34.9%), 次いで山菜採りなどの山野・野原でのレジャー39例(25.7%)であった。また, 庭の手入れなど住宅地内での作業も25例(16.4%)と, 身近な場所での感染を疑う例も多くみられた。

本県では, 気温低下が早く雪解けが遅い年は, Karp型を主とする春~初夏の患者数が多く, 雪解けが早い年は少ない傾向にある。これは春に活動するフトゲツツガムシなどの越冬未吸着幼虫の絶対数が影響していると考えられている。実際, 暖冬であった2016年の患者数はわずか3例と届出制度開始以降, 本県では最も少ない数であった。患者数激減の理由として, ツツガムシの生態の他に“つつが虫病の啓発”の効果も考えられている。例えば, 啓発が充足すれば, 「感染予防法が徹底され感染者が少ない」, 逆に, 啓発が不十分であれば, 「つつが虫病が疑われずに検査依頼・報告がされない」など様々な状況が想定される。しかし, これらは統計に表れないため, 今年度以降も啓発を充実させ, 患者発生状況を注視する必要がある。

Kato型つつが虫病患者は2008年8月に本県で15年ぶりに発生したが, その後も2010年9月と2014年8月に1例ずつ計3例確認され, いずれも感染機会は雄物川中流以南河川敷での釣りであった。当該地域は江戸時代から知られたつつが虫病発生地であるが, 3例の患者に聞き取りをしたところ, 「つつが虫病」 を知らなかった, あるいは知っていたが注意していなかった。こうした住民の認識不足は, 近年, 春~初夏の患者が圧倒的多数となり, 当該地域において夏季の患者が確認されていなかったためと推察される。媒介種であるアカツツガムシ幼虫の活動が確認される河川敷は, 現在も数多く, 全国的に有名な花火大会の会場付近も含まれる。会場を訪れた後に発病した患者は1991年以降現在まで確認されていないが, 地元自治体は会場の除草と殺虫剤散布の他, 2010年以降は公式パンフレットに注意喚起文を掲載するなど, 積極的な対策を行っている。

Shimokoshi型のつつが虫病患者は5月に5例, 11月に2例の計7例確認され, このうち1例の血液からは国内2株目の分離株が得られた。発生は県南部と北部に分かれ, 感染機会は農作業が3例, 山地での作業が2例, 河川敷での活動が2例であった。Shimokoshi型は最近まで発生は稀とされてきた。しかし, 本県では, 2009年以降発生が続いたため日常検査項目に取り入れたところ, この10年間では古くから知られるGilliam型, Kato型よりも多い発生数となった。Shimokoshi型は他の型との交差反応性が低いため, つつが虫病様の症状にもかかわらず抗体不検出あるいは非常に低値であるといった症例は, Shimokoshi型の検討も必要と思われる。なお, これまで発生が確認されているのは, 本県の他に新潟県・山形県・福島県・福井県である。

2. 秋田県のつつが虫病対策

本県におけるつつが虫病対策の主柱は, 全県一貫の迅速な診断~届出~公表の体制である。前述のとおり, 2007~2016年の届出患者の98%が当センターで確定診断されたものであり, 民間検査機関で診断された例は2%に過ぎない。これは秋田県内どこの医療機関からでもつつが虫病が疑われた場合は, 当センターがすべて無料で診断を受付する診断体制が広く浸透していることを示している。つつが虫病は進行が早く, 発病から10日程度で重症化や死亡することもあるため, 届出受理後の公表は患者発生ごとに報道機関を通じて速やかに行っている。さらに, 啓発リーフレット「つつが虫病のしおり」は毎年患者情報を更新して作成し, 医師会を通じて全県の医療機関に配布している。こうした本県独自の啓発方法はIP法開発者である須藤恒久・秋田大学名誉教授が中心となり1980年から開始され, 一般県民へは感染予防と早期受診を, 医療機関へは早期の適正治療開始を呼びかけ, つつが虫病に対する日頃の意識向上を図り重症化例発生の抑制を担ってきた。ところが, 数十年続けてきたこの体制のうち, 報道機関への公表を年度最初の1例のみとし, 以降は週1回, 感染症情報センターHP内に週報として掲載するとした時期があった。この対応は6年続いたが, この間に播種性血管内凝固症候群(DIC)併発例数が以前の4.7倍に上昇した。ついには死亡例も発生したため, これらの患者情報を精査したところ, 受診の遅れが影響したと思われる例が多数見受けられた。啓発機会が減ったことが受診の遅れに繋がったと考えられたことから, 再び元の公表体制に戻され, 現在, DIC併発例の発生頻度は減少傾向となっている。

情報提供の手段が多様化した現代, インターネットは利便性が高く効果的と思われがちだが, 一方で自ら情報を求める者を対象としたプル型方式であり, 対象者が限られる。つつが虫病のみならず, 幅広い世代に迅速かつ確実に伝えるべき感染症情報は, 多様な伝達手段を並行, かつ反復・継続することの重要性を再認識して, 取り組む必要がある。

  

参考文献
  1. 須藤恒久, 臨床とウイルス 11: 23-30, 1983

 

秋田県健康環境センター保健衛生部ウイルス班
 佐藤寛子 柴田ちひろ 藤谷陽子 秋野和華子 斎藤博之

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