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南九州地方における日本紅斑熱・つつが虫病の地域特性について(10年前と比較して)

(IASR Vol. 38 p.118-119: 2017年6月号)

鹿児島県と宮崎県の位置する南九州地方は, 日本紅斑熱, つつが虫病等, ダニ媒介性感染症の多い地域であり, 感染症発生動向調査事業における2016年の患者数は, 日本紅斑熱が鹿児島県20名(全体の約7.3%), 宮崎県6名(約2.2%)。つつが虫病は鹿児島県70名(約14.4%), 宮崎県49名(約10.1%)を占める。

 今回, 両県の日本紅斑熱およびつつが虫病の地域特性について10年前(2006年度)と比較した。

1.発生件数と検査依頼数

鹿児島県は依頼検査として医療機関から, 宮崎県では, 行政検査として保健所からの依頼に基づき日本紅斑熱, つつが虫病検査を実施している他, リケッチアレファレンスセンターとして技術支援を目的に他県や他市からの検査も実施している。

依頼, 行政検査に基づく2016年度の検査依頼は, 鹿児島県では247件であり, 陽性件数115件(日本紅斑熱33件, つつが虫病82件)となり, 陽性率46.6%であった。一方, 宮崎県では108件であり, 陽性件数47件(日本紅斑熱7件, つつが虫病40件), 陽性率は43.5%となった。

10年前の2006年度は鹿児島県が186件の検査依頼があり, 陽性件数62件(日本紅斑熱17件, つつが虫病45件)で陽性率33.3%となり, 宮崎県では41件の検査依頼に対し陽性数は17件(日本紅斑熱4件, つつが虫病13件), 陽性率41.5%であった。

10年前と比較し, 両県とも検査依頼数, 患者数, 陽性率すべてが増加傾向にある。原因として, 郊外地域の宅地化等の感染機会の増加, 医師や県民の両感染症に対する認知度の高まりと, 両感染症に遭遇したことによる医師の的確な検査依頼が増加したことによる陽性率の上昇が考えられる。

2.発生地域

図1に両県の2006年度と2016年度における日本紅斑熱とつつが虫病の発生地域を示した。 

① 日本紅斑熱

鹿児島県では2006年度, 日本紅斑熱は県東部の大隅半島中央部, その他奄美大島で散発的に発生が確認された。2016年度では前記発生場所の他に, 大隅半島北部の宮崎県との県境および薩摩半島中部・南部地方でも散発的に発生が確認された。

宮崎県では2006年度, 県南部を中心に中部地方で散発的な発生が確認されていたが, 2016年度は県中部での発生が増加し, 県西部でも発生が確認された。

日本紅斑熱は, 以前から鹿児島県大隅半島に隣接する宮崎県南部, 西部が発生地であったが, 近年は鹿児島県, 宮崎県ともに発生地域が拡大傾向にある。

② つつが虫病

鹿児島県では本土全域で発生しており, 特に東部で発生が多く, 2016年度には種子島での発生があった。

宮崎県では, 鹿児島県と隣接する県西部・南部での発生がほとんどであり, 県中部がそれに次ぎ, 他地域では年間数件の散発的な発生がみられるのみであった。

3.発生時期

図2~5に両県の日本紅斑熱, つつが虫病の月別発生件数を示した。

① 日本紅斑熱

2016年度は鹿児島県が4~12月, 宮崎県では4~9月までの発生となっており, 2006年度は鹿児島県が5~10月, 宮崎県では6~10月であった。

鹿児島県, 宮崎県ともに流行期間が10年前より長くなっている傾向にあった。

② つつが虫病

2006年度は鹿児島県が10~2月, 宮崎県では11~2月にかけて発生しており, 発生のピークはそれぞれ12月, 11~12月であった。鹿児島県では2月まで患者が発生しており, 2016年度は鹿児島県が10~2月, 宮崎県では10~1月にかけて発生し, 発生のピークはそれぞれ12月, 11月であった。両県ともつつが虫病は秋から冬にかけて発生という傾向に違いはみられなかった。

おわりに

鹿児島, 宮崎両県は以前から, 日本紅斑熱, つつが虫病の流行地域として知られているが, 10年前と比べ発生地域, 陽性件数が増えていることが明らかとなった。さらに, 検査依頼数, 陽性率ともに増加した。発生報告は鹿児島県と宮崎県との県境に沿って拡大しており, 新たに薩摩半島, 宮崎県中部での発生もみられていることから, 発生地の拡大に注意が必要である。なお, 宮崎県ではつつが虫病の発生時期がやや早くなる傾向がみられており, 今後, 九州地区リケッチアレファレンスセンター, 九州地区ブロック協議会等を通じて情報提供を行うとともに, 両県医療機関, 県民への周知を図っていきたいと考えている。

 

宮崎県衛生環境研究所
 野町太朗 吉野修司 元明秀成 甲斐俊亮
鹿児島県環境保健センター
 山本真実 御供田睦代 大坪充寛

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