IASR-logo

アデノウイルスの血清型から遺伝型へ:型別と同定法

(IASR Vol. 38 p.136: 2017年7月号)

アデノウイルス(Ad)の型別手法は2007年までウイルス分離および分離後のウイルスの中和反応による同定がゴールドスタンダードとされてきた。ところが, 2007年以降にAd52が全塩基配列を基にして新型として論文報告され, それ以降の型がすべて全塩基配列の決定により新型として定義されてきた1)

 日本国内で市販されており入手可能なAd中和抗血清はAd1~7, 11, 19, 31および37の11種類のみである。51種類の血清型が知られているので, 中和反応のみで型同定をすることは困難であった。そのため, 中和反応の抗原性を規定しているとされるヘキソンのループ1および2領域の部分配列を決定することによる型別がモレキュラータイピングとして1990年代からなされてきた2)。ところがファイバー領域がHI抗原性を規定するほか中和抗原性にも関与することや, ペントンベースも中和抗原性に関与することが報告され, Adの表面タンパクとしてヘキソンだけでなくペントンベースおよびファイバーも考慮されるようになった。組換え型が多いAdではペントンベースおよびヘキソン, ファイバー領域の配列決定も必要となり, 単純にヘキソン部分配列を決定するだけでは型別ができない状況となっている3)。血清型という呼称は 「型」 とされるようになった。

2014年に国内の地方衛生研究所(地衛研, 77カ所)を対象にアデノウイルスレファレンスセンターが実施したアンケートによると, 84%の施設がAdの分離を実施していた。型別には中和反応とPCR-シークエンスを併用している施設が最も多く, 75%の施設が塩基配列による同定法を実施していた4)

日本国内で流行性角結膜炎(EKC)の主要な起因病原体は血清型でAd8, 19および37とされてきた。しかし遺伝型となってからAd19の中で標準株がEKCを引き起こさないことが示され, Ad19aがAd64と再定義された。ペントン, ヘキソンおよびファイバーが何型に近いかによってP〇H〇F〇と表記すると, Ad53はP22H22F8, Ad54はP54H54F8, Ad56はP9H15F8, Ad64はP22H19F37であり, いずれも組換え型である。Adのうち最も病原性が強いとされるB種のAd7の変異株Ad7h(P7H7F3)がAd66とされたことは, Ad19aがAd64(P22H19F37)とされたのと同様に, 既に制限酵素切断パターン解析によるゲノム型として報告されていた型が新型とされた例といえる。

検査法が複雑になり, その状況に対処するため国立感染症研究所(感染研)と地衛研は協議を続けてきた。ペントン, ヘキソンおよびファイバーの重要な領域を決定するための方法をまとめて「流行性角結膜炎・咽頭結膜熱, 診断マニュアル(第3版)」としてホームページで公開している(https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Adeno20170215.pdf)。血清学的な血清型別では判定がしにくいことが考えられるので, 中和法でAd型別不能として報告されてきた可能性がある。何らかのアウトブレイクや臨床的に重篤な症状を示す感染症が多発するなどしてAdの関与が疑われる場合は, 正確な型別が疫学的に重要である。アデノウイルスレファレンス活動の一環として, 型別が困難な検出株に関しては感染研感染症疫学センター第四室において地衛研等からの行政依頼検査を受け入れている。また, 型別手法についても簡便に同定できる手法の開発に継続して取り組んでいる。地区レファレンスセンターはもちろん, 全国の地衛研と協力して型別の問題に取り組んでいる。遺伝型に型別法が変化したことにより, より正確な疫学情報が得られる状況となったことは一つの進歩と捉えられる。

 

参考文献
  1. Seto D, et al., J Virol 85: 5701-5702, 2011
  2. Pring-Akerblom P, et al., J Med Virol 58: 87-92, 1999
  3. Matsushima Y, et al., Jpn J Infect Dis 67: 495-502, 2014
  4. 花岡 希ら, 感染症学雑誌 90: 507-511, 2016

 

国立感染症研究所感染症疫学センター
 藤本嗣人 小長谷昌未 川村朋子 花岡 希

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan