国立感染症研究所

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流入水から検出された新型アデノウイルス79型について―福岡県

(IASR Vol. 38 p.140-141: 2017年7月号)

2014年12月および2015年1月に九州北部に位置する終末処理場において採取された流入水から, 新型アデノウイルス79型(以下, Ad79)が検出された1)ので報告する。

 我々は, 2014年4月~2015年3月までの期間, A549細胞を用いて流入水から複数のアデノウイルス(Ad)を分離した。すべてのAd分離株は, 松島らの方法2)を用いてPenton base領域, Hexon loop1領域およびFiber knob領域を解析し型別した。その結果, 既知の遺伝子型に分類できないAd分離株(以下, T150125株)を発見し, 次世代シークエンサーを用いて塩基配列全長を決定した。決定した塩基配列(34,779塩基)はGenBank/EMBL/DDBJ databaseに登録した(HAdV-B/JPN/T150125/2015/79 strain, アクセッション番号:LC177352)。T150125株のGC%は49.0%であり, B2種に分類された。そこで, 既知のB2種であるAd11, 14, 34, 35, 55と相同性を比較した結果, それぞれ98.3%, 97.5%, 97.8%, 97.3%, 97.2%であった。次に, 組換え解析を行った結果, 組換え部位は19,831塩基付近(99%CI: 19,586-20,901)と推定され, T150125株はAd34(1-19,831)とAd11(19,831-34,779)の組換え体であることが示唆された(図示せず)。さらに, 他のB種の参照株配列を用いて系統樹解析を行った結果, 全長解析では他の遺伝子型と異なるクラスタを形成した(図示せず)。個々の遺伝子領域では, Penton base領域およびHexon領域はAd34, Fiber領域はAd11と同じクラスタに分類された()。

Penton base領域は系統樹解析ではAd34に分類されたが, 相同性に基づく分類からP11とした。以上の結果から, T150125株はP11/H34/F11の組み合わせを持つB2種の新変異株であることが示唆された。2016年12月, T150125株はHuman Adenovirus Working Group(HAWG)3)によりAd79型と認定された。BLAST検索を行った結果, 韓国で検出されたIC763株と最も相同性が高く99.9%一致(34,779塩基中19塩基の違い)であった。このことは, Ad79が日本だけでなく他国でも流行していることを示唆している。

Adは血清型別に基づく51種類と, 遺伝子配列に基づき分類される52型以降の遺伝型を合わせて82種の遺伝型とA~Gの7種に分類される(2017年4月時点)。2007年以降, 新型Adは全塩基配列の決定によりなされるようになった。3つの主要な抗原タンパクであるPenton, HexonおよびFiberの組み合わせに基づいて報告される新型組換えAdには新たな型番がつけられる。しかしGenBankで得られる最新の型番号が既にオープンにならない形でサブミットされていることがある。我々も当初はT150125株を72型候補株として投稿したが, HAWG3)からのコメントにより79型とすることとなった。新型組換えAdを報告する場合は, 日本および他国からの型番号の重複した提案による混乱を避けるためアデノウイルスレファレンスセンターと事前に相談することが推奨される。

Ad79が分類されるB2種は出血性膀胱炎や急性呼吸器疾患の原因となることが知られている。Ad79による感染症は未報告であるが, 他のB2種と同様であることが予想される。また, Ad79はAd11と同様, 出血性膀胱炎患者由来の尿や血液などの臨床検体から検出されると考えられる。感染症発生動向調査事業におけるAdサーベイランスの対象疾病は咽頭結膜熱, 流行性角結膜炎, 感染性胃腸炎であるため, 出血性膀胱炎, 肺炎などに関与するAdを調査することは困難である。一方, 今回の流入水を用いた調査は臨床症状との関連を評価できない反面, 臨床検体が十分に収集されにくい, あるいは不顕性感染を引き起こすAdを検出できる調査法として有用である。今後, 臨床現場におけるサーベイランスの強化により, Ad79の病原性や疫学的性状が明らかになることが望まれる。

謝辞:本研究は大同生命厚生事業団の地域保健福祉研究助成を受けて行われました。本報告を行うにあたり, 試料採取および情報提供にご協力いただいた関係機関の諸先生方および関係各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. Yoshitomi H, et al., J Med Virol 2016, doi:10.1002/jmv.24749
  2. Matsushima Y, et al., Jpn J Infect Dis 67: 495-502, 2014
  3. Human Adenovirus Working Group
    http://hadvwg.gmu.edu/

 

福岡県保健環境研究所
 吉冨秀亮 小林孝行 中村麻子 芦塚由紀 世良暢之 梶原淳睦
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター Gabriel Gonzalez
国立感染症研究所 花岡 希 藤本嗣人

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