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アデノウイルスによる肺炎が疑われたマイコプラズマ肺炎の1例

(IASR Vol. 38 p.141-143: 2017年7月号)

症例:3歳 男児
 主訴:発熱・嘔吐
 既往歴・家族歴:特記事項なし

 現病歴

2017年1月X-12日に左眼球結膜充血あり, 近医眼科受診, アデノウイルス(Ad)による結膜炎の疑いと診断された。X-9日より発熱・咳嗽出現したため近医内科受診。咽頭でのAd迅速検査陽性, インフルエンザ迅速検査陰性であった。X-1日に嘔吐頻回となり, 前医再診, 胸部レントゲンおよび血液検査所見からウイルス性肺炎と診断された。X日に全身状態不良のため当科紹介受診, 入院となった。

入院時現症

vital signは体温:39.9℃, SpO2:97%, 心拍数:144回/分。努力呼吸は認めず, 胸部聴診にて両側下肺野に湿性ラ音を聴取した。左顎下および後頚部に径1cm未満のリンパ節を蝕知した。咽頭発赤は軽度で扁桃腫大なし, 白苔付着なし。眼球結膜充血なし。

入院時検査

血液検査では白血球7,100/μL, CRP 2.76 mg/dL, 肝腎機能に異常なし, Na 131 mEq/Lと低Na血症あり, LDH 503 IU/L, フェリチン179.50 ng/mL, マイコプラズマ(MP)抗体価<40倍であった。尿検査は異常なし。インフルエンザ(IMMUNO AG FluAB®)・MP(プロラストMyco®)・Ad(クイックチェイサーAdeno®)・RSウイルス(クイックチェイサーRSV®)・ヒトメタニューモウイルス(チェックhMPV®)についての迅速検査はすべて陰性であった。血液・鼻汁培養検査では有意な菌は検出されなかった。胸部レントゲンでは両側肺門部および右下肺野に浸潤影を認めた。

入院経過

に経過を示す。臨床症状, 理学所見, 胸部レントゲンでの肺炎像から肺炎と診断した。入院時点で発症10日目であったが, 血液検査からは細菌感染は否定的であった。各種ウイルス迅速検査は陰性, この時点でMP抗原迅速検査も陰性であったため, 前医でのAd迅速検査陽性を有意なものと考え, 抗生剤は使用せず, 呼吸障害に対する定型的な対症療法および輸液のみで経過を見た。その後も発熱・呼吸障害が遷延し, 入院3日目の胸部レントゲンで浸潤影の明らかな増悪はなかったが右下肺野に胸水貯留を認め, 血液検査で白血球 7,000/μL, CRP 3.07 mg/dL, AST 284 IU/L, ALT 165 IU/L, Na 131 mEq/L, LDH 1,058 IU/L, フェリチン701.30 ng/mL, MP抗体価160倍(入院7日目では1,280倍)と, 高サイトカイン血症を示唆する所見を得た。同日よりアジスロマイシン(AZM)10mg/kg 3日間内服, メチルプレドニゾロン(mPSL)1mg/kg・6時間ごと静脈内投与を開始したところ, 速やかに解熱が得られ, 呼吸状態も徐々に改善傾向となり, 入院11日目に軽快退院となった。

ウイルス同定検査

入院3日目(発症12日目)に兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター(感染症部)に咽頭ぬぐい液による検体を提出した。センターでは同検体からウイルスDNAを抽出し, AdのヘキソンC4領域を増幅するPCR法を実施し, Ad DNA(554bp)を検出した。ダイレクトシークエンス法により, ペントン領域, ヘキソンのループ1領域, ファイバー領域の塩基配列を決定した結果, すべての領域においてAd54(accession no. AB4487701))と100%一致していたため, Ad54と同定した。ウイルス分離のため, 咽頭ぬぐい液をA549細胞とRD-18S細胞に接種し3代継代したが, CPEは観察されなかった。

考 察

小児領域において, 臨床上経験することが多い肺炎の起因病原体はRSウイルス, MP, インフルエンザ桿菌, 肺炎球菌などである2)。近年ではHibワクチンや肺炎球菌ワクチンが浸透したためか細菌性肺炎は稀となり, 代わって迅速検査で診断が可能となったこともありヒトメタニューモウイルスによる肺炎がしばしばみかけられるようになってきた。今回の症例では発症10日目での検査で上記病原体は検出されず, 周囲の流行状況および前医でのAd迅速検査陽性の結果からAdによる肺炎を疑った。Adは感染局所での症状で終わることが多く, 種によりその特異性が高い3)。通常, Adによる肺炎で多いものは3型であるが, 重症度が高いのは7型とされている。7型は1995年から分離が報告されるようになっており, 重症肺炎からの死亡例も報告されている4,5)。今回もAd迅速検査陽性, 重症肺炎, 発症10日目でもMP抗体価上昇なしとのことでAd7による肺炎を疑いAdの精査を実施したが, 発症12日目にしてMP抗体価上昇あり, 最終的にはMP肺炎の診断に至った。本症例で疑問が残るのは, 通常結膜炎をきたすとされているAd54が咽頭ぬぐい液から検出されたことである。結膜炎症状をきたしたAd54が咽頭粘膜でも検出されただけなのか, 今回の呼吸器感染症状にも関与していたのかの判断は, 今後他症例での報告を待って検討したい。

 

参考文献
  1. Kaneko H, et al., J Gen Virol 90: 1471-1476, 2009
  2. 岡部信彦ら, 小児感染症学: 55-57, 2011
  3. 藤本嗣人, 日本臨牀 領域別症候群シリーズNo.24: 373-376, 2013
  4. IASR 17: 99-100, 1996
  5. 西村 章, IASR 19: 155-156, 1998

 

公立豊岡病院組合立豊岡病院小児科
 藤林洋美 榎本真紀子 港 敏則
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター感染症部
 荻 美貴 近平雅嗣

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