IASR-logo

新型アデノウイルス57型の日本における発見と過去10年間の分離株の後方視的調査―島根県

(IASR Vol. 38 p.143-144: 2017年7月号)

当所におけるアデノウイルス(Ad)の検出は, A549, FL, HEp-2細胞などを用いてウイルス分離培養を行い, その後の型同定については中和試験を主体に行っている。また, 中和試験において同定不能である場合には遺伝子検査を実施している。

 2014年, 島根県松江市においてアデノウイルス感染症(気管支炎)と診断された患者からヒトアデノウイルス57型 (Ad57) が分離された。この株(sp474-14)はAd6中和抗血清でCPEが抑えられたが完全に中和することはできなかったため, ペントン, ヘキソン, ファイバーの全塩基配列からAd57(P1H57F6)と決定された1)

Ad57(strain16700, accession no.HQ003817)はWHO Polio Eradication Initiativeの中で, アゼルバイジャンの健康児の便から分離され, このほか, ロシア・中国でも分離されている2-4)。Ad57はC種に属し, 特異的なヘキソンループ2配列とAd6類似のファイバーをもつ組換えウイルスである(P1H57F6)。また抗血清を用いた中和試験では, Ad6中和抗血清に対して交差反応を示すことが報告されている3)

Sp474-14も同様の傾向が認められたことから, これまで当所で分離されAd6と同定された分離株にAd57が混在している可能性が考えられた1)

このことから, 2005~2014年の10年間に, 分離後, 中和試験によってAd6と同定された株の再検査を行った。さらに, Ad57のAd6中和抗血清に対する反応性を調べるため, 定量的中和試験を行ったのでこれを報告する。

2005~2014年の10年間で, 6,476検体がAd分離を目的として細胞に接種されていた。このうちAd陽性であったものが, 352(5.4%)であった。またこのうちC種(Ad1, 2, 5, 6, 57)に属するものは, 225(64%)であった。その内訳は, Ad1(n=70), Ad2(n=90), Ad5(n=37), Ad6(n=27)である。中和試験においてAd6と同定されたものについて, 遺伝子検査を行ったところ, 2005年に1株(sp57-05), 2007年に1株(sp272-07)がAd57と同定された。そこで, この2株についてもペントン, ヘキソン, ファイバー3領域の全塩基配列を決定した。

その結果, sp57-05とsp272-07の配列は3領域で完全に一致した。ヘキソン領域については3株の配列は完全に一致した。ペントン領域ではsp474-14とその他の株(sp57-05, sp272-07)の間に1塩基の差があったが, アミノ酸配列の変化はなかった。ファイバー領域でも同じくsp474-14とその他の株(sp57-05, sp272-07)の間に1塩基の差があり, これはアミノ酸配列の置換を伴っていた。

一方, この3株が分離された患者の共通の症状として39℃を超える高熱が認められた。また, 2例(sp474-14, sp272-07)は下気道炎などの呼吸器症状を伴っていた。

アデノウイルス種と症状には関連があるとされており, そのうちC種は呼吸器症状と関連があると報告されているが, Ad57の特異的な症状は認められなかった。

次に, Ad57に対する交差反応を試験するため, Ad1~ 6中和抗血清(デンカ生研)を用いて定量的中和試験を実施した。

分離されたAd57および2010年に当所で分離され純化したAd1~6を各型1株ずつ用いた。

Ad1~5の中和抗血清ではAd57に対して中和反応は認められなかった。しかしAd6中和抗血清では, 抗体価はホモ価に比べて32~64倍低いものの, 中和活性が認められた()。この結果からも, 中和試験でAd57をAd6と誤判定する可能性があることが示された。Ad57とAd6の鑑別にはAd57に特異的なループ2領域の遺伝子配列を決定することが重要であると考えられた。

我々の報告の後, 大阪府で2005年に分離され, 判定不能とされていたアデノウイルスがAd57であったことが報告された5)。すなわち今回の結果と合わせ, すでに2005年には日本国内にAd57が侵淫していたことがわかった。

当所ではこれまでに, 3株のAd57が検出され, 分離年は10年の期間にわたったが, ペントン, ヘキソン, ファイバーの3領域についてはほとんど変化が認められなかった。偶然に似た塩基配列をもつ株が検出されたのか, もともと遺伝的多様性が少ないのか, さらなる検討が必要である。また, Ad57の疫学的な知見も少なく, 3株中2株は下気道炎を発症しており, 通常のC種より重症例が多い可能性も示唆された。さらなるAd57症例の蓄積が公衆衛生学上重要と考える。

 

参考文献
  1. 辰己智香ら, IASR 35: 222-223, 2014
  2. Michael PW, et al., J Clin Microbio l49: 3482-3490, 2011
  3. Alexander NL, et al., J Clin Microbio l89: 380-388, 2008
  4. Wang Y, et al., PLoS One 8: e53614, 2013
  5. 森川佐依子ら, IASR 35: 278, 2014

 

島根県保健環境科学研究所 辰己智香 大城 等
島根県食肉衛生検査所 三田哲朗
島根県薬事衛生課 和田美枝子
松江赤十字病院小児科 樋口 強
国立感染症研究所感染症疫学センター 花岡 希 藤本嗣人

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan