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福岡大学病院で経験したアデノウイルス8型および54型の流行

(IASR Vol. 38 p.144-145: 2017年7月号)

はじめに

流行性角結膜炎(EKC)は, ヒトアデノウイルス(Ad)8, 19(64), 37型などのD種や, B種により発症することが知られているが, 臨床症状が強いことに加え, しばしば院内感染の原因になり苦慮することがある。また近年では53, 54および56型などの2007年以降に遺伝型として報告されたAdによるEKCが国内で流行している。そこで我々は近年当科で流行したEKC患者からアデノウイルスを検出・型別し, 検出された患者の臨床症状について検討した。

対象と方法

2014年1月1日~2015年12月31日までに福岡大学病院眼科でAdイムノクロマト法(IC), 臨床症状からEKCと診断された患者から角結膜ぬぐい液が確保できた検体について型別した。

臨床症状については診療録をもとに後ろ向きに検討した。検体はHigh Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)によりDNAを抽出し, 咽頭結膜熱・流行性角結膜炎検査,診断マニュアル(第3版)(国立感染症研究所)に基づきリアルタイムPCR法でAdのゲノムコピー数を測定した。また併せてループ1領域を増幅するnested-PCR1)を実施し, その塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定し, BLAST解析および系統樹解析により型別した。

結果と考察

症例は13例14検体で詳細はに示す。平均年齢42.0歳で, 2014年5例はすべてアデノウイルス8型(Ad8), 2015年のうち5例はアデノウイルス54型(Ad54)であった。Ad8による院内感染が発生したことが推定され, 2例で発症2週間以内に入院歴, 2例で2週間以内に外来受診歴があり, 残り1例は入院中にEKCを発症した患者の家族だった。急性期の臨床症状はAd8, Ad54ともに非常に強く, 特にAd54は強い眼痛を訴える症例が含まれた。両眼発症, 多発性角膜上皮下混濁はAd8, Ad54とも同程度認めた。ICは陰性でPCR陽性は14例中2例認め, どちらも検体採取から検査まで5日以上経過していた。IC陽性でPCR陰性は3例認め, すべて2015年の症例だった。Ad8の5検体すべてのループ1領域の塩基配列は同じであり, この配列はドイツで2005年(アクセッション番号KT862548.1), 2006年(KT862546.1), 2014年(KT862547.1, KT862549.1)に流行した株2)と, 2012年にアメリカで流行した株(KT340070.1, 340071.1, 340055.1)と100%一致した。また, Ad54の5検体すべてのループ1領域の配列は相同であり, 2000年に神戸から報告された株(AB333801.2)と100%配列が一致した。

Ad8は感染力も, 臨床症状も非常に強いことが知られており(日本眼科学会:ウイルス性結膜炎ガイドライン), 国内外で大流行し, 院内感染の原因として現在まで多数報告されている。しかし国内での検出は, 1982~1996年と1997~2007年を比較して後者で有意に低く3), 国内でのAd8に関する論文報告は我々が調べたところ2012年以降はみられない。一方, 海外ではAd8の流行は報告されており4,5), 主要なEKCの起因病原体である。今回の症例でもドイツ株, アメリカ株と一部塩基配列が一致しており, 全塩基配列を決定して外国株と比較をする予定である。

またAd54は近年国内で大規模に流行している型で, 既報では多発性角膜上皮下混濁を生じる頻度が高く6), 角膜病変が遷延化する症例や細菌重複感染が重症化する症例もあったと報告されている7)。2015年の全国サーベイランスではAd54が最も多く検出され, 当科の流行は全国流行時の感染コントロールが極めて難しいことを示す。今回Ad8とAd54では臨床症状には大きな違いはなく, どちらも強い角結膜炎症状を生じ, その臨床症状や感染力の強さを考えると, 院内感染や大規模感染の大きな危険因子となり得るため, 型別判定と感染予防が重要であると考える。眼科領域におけるAdに対する抗ウイルス薬の開発導入が待たれる。

 

参考文献
  1. Okada M, et al., Arch Virol 152: 1-9, 2007
  2. Hage E, et al., Sci Rep 1-9, 2017
  3. Fujimoto T, et al., Jpn J Infect Dis, 65: 260-263, 2012
  4. MMWR, 65(14): 382-383, 2016
  5. Gopalkrishna V, et al., J Med Virol 88(12): 2100- 2105, 2016
  6. Akiyoshi K, et al., Jpn J Infect Dis 65: 260-263, 2012
  7. 内尾英一, 日本の眼科 87: 730-734, 2016

 

福岡大学医学部眼科学教室
 川村朋子 佐伯有祐 内尾英一
国立感染症研究所感染症疫学センター
 藤本嗣人 花岡 希 小長谷昌未

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan