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アデノウイルス性尿道炎について

(IASR Vol. 38 p.145-146: 2017年7月号)

性感染症は性行動が多様化している現代社会において世界的に問題となっている疾患であり, 特に男子尿道炎は最も患者数の多い性感染症の一つである1)。これまで, case-control studyを含む大規模解析等によって, 尿道炎に関連する微生物が報告されている2-4)。最も患者数の多い病原体は, 淋菌:Neisseria gonorrhoeaeやクラミジア:Chlamydia trachomatisであり, およそ全体の6~7割を占める。その他は, 非クラミジア性非淋菌性尿道炎(NCNGU: non-chlamydial non-gonococcal urethritis)として知られ, Mycoplasma genitalium, Neisseria meningitidis, Ureaplasma urealyticum, Haemophilus influenzae, Herpes simplex virus, Streptococcus pneumoniae, Trichomonas vaginalis等の様々な微生物の関与が指摘されるが, まだ不明な点も多い。近年, いくつかの疫学的な調査解析によってヒトアデノウイルス:Human mastadenovirus(Ad)による尿道炎が報告され着目されている2-9)。Adによる尿道炎の病原性や病態の詳細は不明な点が多いが, 現在までにわかっている点について報告する。

Adは1953年に扁桃(adenoid)から分離され同定されたDNAウイルスであり, family nameの語源にもなっている。発見当初は, 新しいウイルスとして注目され, 様々な器官から多くの種類のAdが分離同定された。泌尿器関連Adとしては, 1968年には小児出血性膀胱炎の原因ウイルスとしてB種-11型10)が, 1977年にはD種-19型11), 1981年にはD種-37型が尿道炎や子宮頸管炎の原因ウイルスとして報告されている12)。しかしながら, Adの研究の中心が, 発癌性の研究へと移行し, さらには, 遺伝子ベクターへの研究へと進展していくにつれ, 1984年のHarnett GBらによる男子尿道炎へのAdの関連の指摘5)以降, Adの泌尿器への病原性に関する研究はほとんど進んでこなかった。1990年代にはHIV患者関連のAdが数多く報告されたが, 病原性の解明には至らなかった。2002年Bradshawらのグループによる尿道炎に関連するAdの報告6)と, 同グループによる2006年の大規模な男子尿道炎患者における原因微生物探索(case-control study)によって, 初めて尿道炎患者におけるAd検出率の有意性が証明された4)。その後, いくつかのグループから尿道炎とAdに関する報告が行われ, すべてにおいてAdが尿道炎関連微生物であることが示されている2,3)。また, MSM(men who have sex with men)におけるAd尿道炎についても検討されており, これまでの報告と差が無いことも報告されている8)。2012年には, わが国においてもAd D種-56型による男子尿道炎症例も報告された7)。我々も2016年に尿道炎患者約400名における網羅的な病原体探索を行い報告した2)。同報告を元にした尿道炎患者における微生物検出割合をに示した。またこれまでの報告等を元に, Ad尿道炎の特徴をにまとめた。

尿道炎におけるAd検出割合は, 検査した尿道炎患者中およそ2~6.6%であることが報告されている2-4,8)よりAd尿道炎の症状は, 尿道分泌物は無い場合が多くあっても透明で漿液性である。外尿道口周囲に発赤を認める場合が多く, 強い排尿痛を有するが, 1~2週間で快方する。また, 結膜炎症状を有する症例が多い。予後は良好だが, 症状消失後のAdの尿中への排出が確認されており, 感染拡大に注意が必要である。

これまでの報告では, 尿道炎患者の尿から検出されたAdは主にD種であり, 流行性角結膜炎関連Adとの関連が指摘されている6-9)。B種-11型も尿道炎との関連が指摘されているが, 主には出血性膀胱炎との関連が指摘され, 腎臓移植患者や, 移植患者における, 日和見感染Adとして注目されている13)

これまでの報告から, 推定されるAd尿道炎の感染パターンは大きく分けて以下の3パターンであると推測される。①咽頭を介した感染(oral sex): パートナー(男女)のAd感染咽頭から尿道上皮への感染, またはその逆。②膣や子宮頸部を介した感染(genital sex): Ad感染子宮頸部から男性器尿道上皮への感染, またはその逆。③眼を介した感染:パートナーのAd感染眼から, 手指等を介した尿道上皮への感染。または, 自分自身のAd感染眼から自分自身の手指を介した感染。またはその逆。が考えられている。

尿道炎と関連するAdの型と病態等はいまだ不明な点が多く, さらなる研究が求められている。

  

参考文献
  1. Bachmann LH, et al., Clin Infect Dis 61: S763-S769, 2015
  2. Ito S, et al., Int J Urol 23: 325-331, 2016
  3. Frølund M, et al., Acta Derm Venereol 96: 689-694, 2016
  4. Bradshaw CS, et al., J Infect Dis 193: 336-345, 2006
  5. Harnett GB, et al., Med J Aust 141: 337-338, 1984
  6. Bradshaw CS, et al., Sex Transm Infect 78: 445-447, 2002
  7. Hiroi S, et al., Jpn J Infect Dis 65: 273-274, 2012
  8. Samaraweera GR, et al., Sex Transm Infect 92: 172-174, 2016
  9. Liddle OL, et al., Sex Transm Infect 91: 87-90, 2015
  10. Numazaki Y, et al., N Engl J Med 278: 700-704, 1968
  11. Laverty CR, et al., Acta Cytol 21: 114-117, 1977
  12. De Jong JC, et al., J Med Virol 7: 105-118, 1981
  13. Mellon G, et al., J Clin Virol 78: 53-56, 2016

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 花岡 希 藤本嗣人
あいクリニック 伊藤 晋
岐阜大学大学院医学系研究科泌尿器科学分野 出口 隆 安田 満

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