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日本脳炎ワクチンの需給体制

(IASR Vol. 38 p.165-166: 2017年8月号)

はじめに

日本脳炎は日本脳炎ウイルスにより発生する疾病で, ウイルス保有蚊が人の血液を吸う際に, その唾液によって感染する1), 以前は子どもや高齢者に多くみられた疾病である2)。一般に, 日本脳炎ウイルスに感染した場合であっても, 大部分の人は不顕性感染で終わり, 脳炎の発症はおよそ1,000人に1人といわれる。脳炎の発症は突然の高熱, 頭痛, 嘔吐で始まり, 第2病日には髄膜刺激症状など神経症状が出現し, 第3~5病日には意識障害, けいれん, 異常運動, 筋強直などが現れる。死亡は第7病日ころの極期に起こることが多い。発症者の20~40%が死亡し, 生存者の45~70%に精神障害などの後遺症が残ると言われている。これに対し, 予防接種により日本脳炎の罹患リスクを75~95%減らすことができると報告されている。

定期接種における積極的勧奨について

日本脳炎は, 1994(平成6)年の予防接種法改正に伴い, 予防接種法に基づく定期の予防接種の対象疾病に追加されたが, マウス脳による製法の日本脳炎ワクチンを接種した後に重症ADEM(急性散在性脳脊髄炎)を発生した事例があったことから, 2005(平成17)年5月以降, 積極的勧奨が差し控えられた。

2009(平成21)年2月, 乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが薬事法(現, 医薬品医療機器等法)に基づく承認を受けたことから, 「予防接種に関する検討会」において, 定期接種における位置づけに係る検討が行われ, 同年3月に, 乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンを速やかに定期の第1期の予防接種に使用できるワクチンとして位置付けることが必要であるとした「日本脳炎の予防接種の進め方に関する提言」がまとめられた。同提言を受けて, 同年6月, 乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが定期の第1期の予防接種に使用できるワクチンとして位置づけられ, 翌2010(平成22)年4月より, 第1期の標準的な接種期間に該当する者に対する積極的勧奨を再開した。その後, ワクチンの供給状況を踏まえつつ, 標準的な接種期間に該当する者, および積極的勧奨の差し控えが行われた期間に定期の予防接種の対象者であった者に対して, 順次, 積極的勧奨を再開している。

2017(平成29)年度現在, 日本脳炎ワクチンの標準的な接種年齢(3歳, 4歳, および9歳)となる者に対し, 第1期および第2期接種それぞれについて積極的勧奨を行っている。また, 積極的勧奨の差し控えが行われた期間に定期の予防接種の対象者であった者のうち, 当該年度に18歳となる者について第2期接種の積極的勧奨を行っているほか, それ以外の年齢の者についても, 第1期接種を完了している者に対しては, 市町村長が実施可能な範囲で, 第2期接種の積極的勧奨を行っている。

日本脳炎ワクチンの需給体制について

2017(平成29)年 5月8日, 一般財団法人化学及血清療法研究所(化血研)から『「平成28年熊本地震」による影響について』 が公表され, 一定期間, 供給がなされない見込みが示された。日本脳炎ワクチンについては, 化血研のほか, 一般財団法人阪大微生物病研究会が製造販売する製剤が供給されており, 化血研製剤の状況を考慮しても, 全国的な不足は生じない見込みであるが, 製造販売業者が異なる製剤への切り替え等に伴い, 一部の地域や医療機関において, 日本脳炎ワクチンの偏在等が発生することが懸念されている。そのため, 日本脳炎ワクチンの安定供給のため, 関係者において必要な取り組みを行うこととし, 同日, 厚生労働省健康局健康課事務連絡を発出した。取り組みのうち, 主なものを以下に挙げる。

①定期接種対象者に対し, 接種の機会が確保できるよう配慮するとともに, 引き続き定期接種の確実な実施に努める。

②各都道府県は, 管内関係者と協議の上で, 管内の卸売販売業者, 医療機関等における在庫状況等を短期間に把握することが可能な体制づくりや, 一部の医療機関等でワクチンが不足した場合の調整方法, 特定の医療機関から過剰な発注が認められる場合の情報共有に係る取り決めを行い, 偏在等が生じないように努める。

③日本脳炎ワクチンの偏在等が懸念される場合には, 市区町村は必要に応じて管内医療機関における在庫状況の把握に努め, 偏在等を確認した場合, 卸売販売業者等関係者との情報共有, 未接種対象者からの問い合わせへの対応等適切な措置をとる。

④各都道府県は, 地域的な不足や偏在等を認めた場合, 地域間の調整を行い, また, その上でなお管内全体で供給不足が明らかになった時は, 国にその状況を連絡する。

⑤医療機関等は日本脳炎ワクチンの予約・注文を行う場合にあっては, 過剰な発注は控える。

⑥製造販売業者から卸売販売業者等に対して, ワクチンに関する今後の製造状況, 納入時期等の正確な情報提供を行うよう努める。また, 卸売販売業者も医療機関等の関係者に対して, これらの情報を正確に提供するよう努める。

⑦卸売販売業者は, 地域間, 営業所間の在庫融通を積極的に行い, 必要量の供給を随時行い, 偏在が起こらないように配慮する。また, 都道府県および市区町村と必要な連携を行う。

厚生労働省としては, これらの取り組みを関係者と連携して行いつつ, 接種者数の動向等を把握し, ワクチンの需給状況に留意しながら, ワクチンの安定供給に引き続き努めてまいりたい。

 

参考文献
  1. 予防接種の手びき<第14版>
  2. 厚生労働省ホームページ 日本脳炎
 
厚生労働省健康局健康課予防接種室
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan