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福岡県のHIV感染者・AIDS患者の動向

(IASR Vol. 38 p.180-181: 2017年9月号)

1.2016年度のHIV感染者・AIDS患者報告数
1)

福岡県において2016年に新たに報告されたHIV感染者数は46人, AIDS患者数46人, 総数92人であった。2016年末までの累計でHIV感染者・AIDS患者総数は788人, 国籍別では日本人男性733人, 外国籍男性17人, 国籍不明男性1人, 日本人女性32人, 外国籍女性5人, 感染経路別では同性間性的接触485人(61.5%), 異性間性的接触197人(25%), 不明その他106人(13.5%)であった。

2.近年の発生動向について

新規HIV感染者とAIDS患者の推移

福岡県における1999~2016年までの保健所等における抗体検査受検者数の推移およびHIV感染者とAIDS患者の報告数の推移を示した2)図1)。福岡県における検査件数は全国の検査件数とほぼ併行して推移しており, 2008年の7,753件をピークに減少し2016年は5,361件であった。HIV感染者・AIDS患者報告数は全国的には2007年以降, それぞれ1,000~1,100人, 400~500人前後で増減なく推移しているが, 福岡県では2015年にHIV感染者の報告数が一過性に減少したが, それ以外の年はHIV感染者・AIDS患者ともに増加している。特にいきなりエイズ率(AIDS患者率=AIDS患者報告数/HIV感染者+AIDS患者報告数)に関しては, 全国では30%前後で推移している一方, 福岡では2013年以降急激に上昇している(26%→50%)。このことはハイリスクグループにおける受検行動の低下とも考えられるため, 福岡においては受検促進を含めた予防啓発活動が十分でないことを示唆している。九州医療センターでは, 新たにHIV感染が判明した患者は年間40名前後であるが, やはりAIDS発症者の比率は増大している。その一方, 昨今普及している郵送検査による陽性判明者の受診は少なく, 郵送検査が医療につながっていない可能性がある。

新規患者の年齢分布1)

年齢別の割合をみると, HIV感染者では20代~30代が最も多く, AIDS患者では30代~40代が最も多く推移しているが, 2011年以降50歳以上の新規HIV感染者・AIDS患者総数が増加し, 特にAIDS患者に占める50歳以上の患者の割合が急増している(図2)。また, 70代, 80代の新規感染者の報告がある一方で10代の新規感染者も認められており, 感染年齢層の拡大が懸念される。

HIVサブタイプの解析

福岡県の新規HIV患者の発生動向を検討するため, 2003年以降九州医療センターを受診した新規感染患者のHIVサブタイプの解析を行っている。例年サブタイプBが90%以上を占めてきたが, 2015年は82%, 2016年は85%とサブタイプBが90%を切っており, non-Bタイプが増加している。その内訳はCRF01_AEが主体であるが, サブタイプC, G, CRF02_AG, CRF07_BCなど様々である(図3)。感染者の国籍は, CRF01_AEは日本および中国, CRF07_BCはインド, その他のサブタイプは日本であった。感染地に関しては, CRF01_ AEは日本以外に中国, タイなどのアジア近隣国, CRF07_BCはインド, それ以外は不明もしくは日本国内での感染であった。福岡はアジア諸国を中心に海外からの留学生および外国人登録者が多く, その数は年々増加している3)。また交通の便も良いため福岡から海外へ, 海外から福岡への旅行者も多い。近年の感染サブタイプの多様化はこのような人の移動(ツーリズム)に関連しているものと思われる。

以上より, 近年の福岡でのHIV感染者発生動向の特徴は, 感染者層の多様化およびエイズ患者の増加である。特に高齢者や就学期を含む若年者, 海外からの渡航者は孤立しやすくHIV感染予防のための情報やHIV抗体検査についての情報提供が不十分な可能性がある。また, 医療へのアクセスが困難であるために発見が遅れ, エイズ発症につながったと考えられる例もある。特に福岡では多様化した感染リスク層への対応が早急に必要と考えられる。

 

参考文献
  1. 福岡県HIV記者発表資料 2017年
  2. 厚生労働省エイズ動向委員会:平成28年エイズ発生動向年報
  3. 外国人登録者数・留学生に関するデータ:公益財団法人 福岡県国際交流センター, 2017年6月

国立病院機構九州医療センター免疫感染症内科 南 留美

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