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エンテロウイルス検査の信頼性確保について

(IASR Vol. 38 p.199-200: 2017年10月号)

急性灰白髄炎(ポリオ), 手足口病等のエンテロウイルス感染症の多くは不顕性である。このうちポリオに関しては既にワクチンが開発されており, わが国でも長年にわたり経口生ポリオワクチン(OPV)が使用されてきた。定期接種用ワクチンとして不活化ポリオワクチン(IPV)へ切り替えた2012年9月以前は, 小児科定点把握疾患を対象とした病原体サーベイランス(感染性胃腸炎, 手足口病等の検査)によって, OPV接種時期(春, 秋)に紛れ込みと考えられるポリオウイルスワクチン株が恒常的に検出されていた。

手足口病等のエンテロウイルス感染症の検査はポリオウイルス検査と共通の手技が多く, ルーチン検査を行うことで, ポリオ検査体制の維持にも貢献している。

感染症発生動向調査は1981年より国の予算事業として始まり, 1999年の感染症法制定に伴い法定化された。感染症法では疾患を類型で分類し, 主にエンテロウイルス感染が起因となる疾患は, 2類感染症として急性灰白髄炎(ポリオ), 5類定点把握対象疾患には手足口病, へルパンギーナ, 無菌性髄膜炎が含まれている。これらのウイルス検査は, 主に自治体が設置した地方衛生研究所(地衛研)等が担当している。

5類定点把握対象疾患は, 患者数が多く全数把握が困難なため, 定点報告にて発生動向を把握し, 各自治体は積極的疫学調査の一環で, 病原体定点医療機関を受診した患者の一部より提供を受けた検体に対して検査を行いウイルスの流行状況を監視してきた。しかし, 事業開始から4半世紀以上経過し, 検査体制を取り巻く状況も変化している。その結果, 各自治体において病原体サーベイランスの取り組み方に差がみられるようになってきた。

2014年の感染症法改正では感染症の情報収集強化を目的とし, 病原体サーベイランスに法的根拠が付与された。同時に収集した検体には知事による検査義務が生じ, 一定の信頼性が求められることとなっている。

改正ではポリオを含む2類感染症の検査は, 迅速な危機管理対応が必要なことから, 知事による検体の提出要請, 採取措置などの措置が新たに規定されるとともに, 入手した検体に対する検査の質確保の取り組みが省令で定められている。また, 「検査施設における病原体等検査の業務管理要領」1)では感染症法に基づき検査を行う地衛研等を対象とした業務管理が規定された。

要領には, 標準作業書(SOP)として検査SOP, 検査の信頼性確保試験SOPの他, 試薬等管理, 培養細胞管理, 機械器具保守管理, 検体取り扱いに関わる各SOPの作成要領とそのひな形が含まれており, これらの技術文書作成の他, 組織, 研修等の体制を整備し, 組織として検査の質を確保するための必要な項目が記載されている。

一方, 地衛研の設備, 人員配置などの検査体制は設置自治体等により大きく異なるため, 各々の状況に合わせた検査体制を整備することが想定されている。

また, 感染症法の類型により, 整備すべきSOPの種類が異なる旨, 省令で規定された。すなわち, ポリオウイルス検査の場合, まん延防止の観点から偽陰性対策を念頭に置きつつ, 要領に基づき各種技術文書の整備, 検査の信頼性評価, 内部監査体制等の検査体制を整備する必要がある(表1)。

他方, エンテロウイルス血清型等の情報収集を主目的とする手足口病, ヘルパンギーナ, 無菌性髄膜炎の検査には, 必要最小限の技術文書(検査SOP, 検査の信頼性確保試験SOP)を作成し, 自治体の調査目的に合致した検査体制を各地衛研等に整備することとしている。つまり各地衛研で実施するウイルス検査方法は異なることから, 各々の検査体制に応じて, 結果の妥当性を担保することとなる(表2)。

今般, 感染症発生動向調査実施要綱において定点把握疾患の病原体サーベイランスについても改訂されている2)。病原体検査の業務管理要領で検査結果の質を担保し, 実施要綱で病原体定点の選定, 報告時期など, 一定の基準を示すことで, 手足口病, ヘルパンギーナ, 無菌性髄膜炎の起因ウイルスの流行像をより適切に把握できるよう内容が変更されている。こうして得られた結果は疫学的な解析により自治体の感染症対策に用いられることが期待されている。

このように一定の採取基準により収集された検体と検査の質が担保された結果は, 感染症サーベイランスシステム(NESID)登録を通じて, 全国レベルの起因ウイルスの流行状況に反映されることとなる。

改正感染症法完全施行(2016年4月)から1年半経過したが, エンテロウイルスに限らず, 病原体検査法は変化してゆくため, 検査の信頼性確保の取り組みについても, 衛生微生物技術協議会等の機会を通じ関係者間で情報共有し, 検査の質を維持する必要がある。

 

資 料
  1. 「検査施設における病原体等検査の業務管理要領の策定について」健感発1117第2号平成27年11月17日
  2. 「感染症発生動向調査事業実施要綱の一部改正について」健発1109第3号平成27年11月9日

 

国立感染症研究所 吉田 弘
岩手県環境保健研究センター 高橋雅輝
福岡県保健環境研究所 濱崎光宏
愛媛県立衛生環境研究所 山下育孝* 四宮博人(*現 愛媛県宇和島保健所)
愛知県衛生研究所 山下照夫** 皆川洋子(**現 修文大学)
埼玉県衛生研究所 岸本 剛
山口県環境保健センター 調 恒明

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