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乳飲みマウスによるエンテロウイルスD68型の分離―秋田県

(IASR Vol. 38 p.200-201: 2017年10月号)

2015年秋に, わが国においてエンテロウイルスD68型(EV-D68)の大きな流行があり, その際, 急性弛緩性麻痺との関連が疑われたものの, 未だ原因の解明には至っていない。秋田県健康環境センターでは, 感染症発生動向調査で収集された検体からのウイルス分離の一環として, 咽頭ぬぐい液, 便, 髄液を乳飲みマウスに接種している。図1には2015年の乳飲みマウスによるエンテロウイルスの分離状況を示した。コクサッキーウイルスA(CV-A)については, 手足口病やヘルパンギーナと臨床診断された患者の検体からの分離がほとんどであり, 例年通りの傾向であった。ところが8~10月にかけて, 喘息を主訴とする患者の咽頭ぬぐい液を腹腔内に接種したところ, 4~8日後に著明な弛緩性麻痺を呈する例が相次ぎ, 最終的に13株を分離した。

これらの株について, 既存のCV-Aに対する抗血清で中和試験を試みたものの, 同定することはできなかった。そこで, プライマーEVP4/OL68-1によるRT-PCRでVP4領域を増幅し, プライマー直近の571bpをBLAST検索したところ, EV-D68に対する相同性が最も高く90%以上であった(accession no.: LC102815)。確認のために, 国立感染症研究所ウイルス第二部第二室よりEV-D68に対する抗血清の分与を受け, 20単位を100LD50のウイルスと反応させた後, 乳飲みマウスに接種した結果, 13株すべてが中和された。また, 一連の乳飲みマウスを用いた試験において, EV-D68を接種した際に出現する弛緩性麻痺が, 前肢にまで及ぶことが観察された(図2)。一般的にCV-Aは乳飲みマウスに弛緩性麻痺を起こすことが知られているが, 後肢のみの麻痺にとどまることが多く(図3), 今回の結果はEV-D68の特徴の一つとして示唆される。

EV-D68については, 検出例そのものがCV-Aに比べて少ないこともあり, 動物実験による知見はほとんど得られていない。培養細胞による分離株を乳飲みマウスに継代接種して弛緩性麻痺を観察した報告1-3)があるものの, 臨床検体を直接接種して初代で分離した例はこれまで知られていない。今回, 我々が分離した13株のEV-D68は, 乳飲みマウスにおいて前肢にまで及ぶ弛緩性麻痺が再現的に観察できるという特徴がある。冒頭に述べたとおり, ヒトの弛緩性麻痺との関連で, 今後はEV-D68の病原性に関する研究の進展が望まれることから, 実験動物モデルが得られたことには重要な意義が見出せるものと考えられる。

 

参考文献
  1. Schieble JH, et al., Am J Epidemiol 85: 297-310, 1967
  2. Patel MC, et al., PLoS One, DOI:10.1371/journal. pone.0166336, 2016
  3. Hixon AM, et al., PLoS Pathog, DOI:10.1371/journal.ppat.1006199, 2017

 

秋田県健康環境センター保健衛生部ウイルス班
 斎藤博之 秋野和華子 佐藤寛子 藤谷陽子 柴田ちひろ 佐藤了悦
国立感染症研究所ウイルス第二部第二室 清水博之

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