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2000~2017年におけるエンテロウイルスA71の日本および世界における検出状況

(IASR Vol. 38 p.201-202: 2017年10月号)

手足口病は予後の良い一般的なエンテロウイルス感染症だが, 1990年代後半以降, 東アジア地域では, エンテロウイルスA71(EV-A71)による大規模な手足口病のアウトブレイク時に小児の急死例が多発し, 大きな社会問題となっている(IASR 30: 9-10, 2009)。EV-A71は世界的に手足口病のアウトブレイクを引き起こしたが, 特にアジアの子供たちに稀ではあるが脳幹脳炎を含む重篤な中枢神経疾患を引き起こしていることが, CDCから報告されている(https://www.cdc.gov/non-polio-enterovirus/outbreaks-surveillance.html)。

日本では2000年に死亡例を含む脳炎を伴うEV-A71による手足口病のアウトブレイクが発生した1)。2000年以降, EV-A71による手足口病のアウトブレイクが3~4年ごとにみられ, 2000, 2003, 2006, 2010および2013年にEV-A71の検出報告が多かった(本号3ページ特集図5)。しかし2013年以降には, 2017年にEV-A71が少数検出されているものの, 大きなEV-A71のアウトブレイクがみられておらず, 今後のアウトブレイクに注意が必要である。

2008年にはシンガポールで過去最大のEV-A71が関与する手足口病のアウトブレイクがあり2), 東アジアの多くの国で手足口病の多発がみられた。中国においては, 2008年以降, 大規模な手足口病アウトブレイクが報告されており, 2010年には約175万人の手足口病患者と905人の死亡が, 2011年には約160万人の手足口病患者と509人の死亡が報告され, EV-A71が重症例の主要な起因病原体であったことが報告されている(WPRO: http://www.wpro.who.int/china/mediacentre/factsheets/hfmd/en/3)。ベトナムでは, 2011~2012年にかけて, 多くの重症例・死亡例をともなう大規模な手足口病アウトブレイクが発生し, 2011年には南部ベトナムを中心に11万人以上の手足口病患者が報告され, そのうち170人が死亡例であった4,5)。カンボジアでは, 2012年に探知された当初は原因不明の致死的疾患とされた症例がEV-A71感染に関与していた可能性が報告されている6)。2013年, オーストラリアのシドニーにおけるEV-A71アウトブレイク時には, 61例のエンテロウイルス陽性中枢神経症例のうち死亡例4例が報告されている7)

以上, アジア太平洋地域が重症EV-A71感染症の最も多い地域となっているが, その他の地域, たとえばヨーロッパにおいては, ドイツで2006~2014年にエンテロウイルスサーベイランスが実施され, EV-A71が検出されている8)。フランスや英国では散発的なEV-A71の検出が報告され9), イタリアやその他のヨーロッパ諸国でも検出報告がみられる。EV-A71検出・分子疫学解析については, インド, アフリカを含め, 世界各地からの報告があるが, 疾患および病原体サーベイランス体制が整備されていない国・地域も多いことから, 臨床疫学的な解釈には留意が必要とされる10)

近年のEV-A71についてはアジアがアウトブレイクの中心地域であったことは間違いない。アジアでの死亡例および重篤例の多発が, その後の中国をはじめとするアジアにおけるEV-A71ワクチン開発・実用に結実したと思われる (本号13ページ参照)。ポリオの世界的な根絶が近い今, EV-A71は非ポリオエンテロウイルスとして, 最も神経病原性が高く, かつ継続して世界的規模で手足口病を引き起こしている。近隣アジア諸国で脳幹脳炎等の重症例のアウトブレイクを引き起こし, 死亡にもつながることがあるEV-A71に対して, 日本においてもワクチンが開発されることが望まれる。

 

参考文献
  1. Fujimoto T, et al., Microbiol Immunol 46(9): 621 -627, 2002
  2. Wu Y, et al., Int J Infect Dis 14(12): e1076- e1081, 2010
  3. Xing W, et al., Lancet Infect Dis 14(4): 308-318, 2014
  4. Nguyen NT, et al., BMC Infect Dis 14(1): 341, 2014
  5. Geoghegan JL, et al., J Virol 89(17): 8871-8879, 2015
  6. Duong V, et al., Emerg Microbes Infect 5(9): 9, 2016
  7. Teoh H-L, et al., JAMA Neurol 73(3): 1-8, 2016
  8. Obermeier PE, et al., Emerg Infect Dis 22(10): 1843-1846, 2016
  9. Schuffenecker I, et al., J Clin Virol 50(1): 50-56, 2011
  10. Chakraborty R, et al., AIDS 18(14): 1968-1970, 2004

 

国立感染症研究所感染症疫学センター
 藤本嗣人 花岡 希 小長谷昌未
国立感染症研究所ウイルス第二部
 清水博之

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