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平成29年度(2017/18シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経緯

(IASR Vol. 38 p.225-226: 2017年11月号)

2017/18シーズンに向けてのインフルエンザワクチン株の決定については, A(H3N2)亜型株の選定に関して, 再検討する経過をたどった。A(H1N1)亜型株およびB型株については, 当初の国立感染症研究所長からの回答に従い, その後の変更もなかったため, 本稿では, A(H3N2)亜型ワクチン株の決定に至るまでの経緯を中心に記述する。

1. 製造株の当初の検討結果について

厚生労働省健康局長より国立感染症研究所長宛て, 平成29年インフルエンザHAワクチン株検討について依頼したところ, 下記のように回答があった。

国立感染症研究所インフルエンザワクチン株のための検討会議(議長:インフルエンザウイルス研究センター長)において, 感染症発生動向調査事業で分離され, 各地方衛生研究所および当所において行われた国内ウイルス株の抗原分析および遺伝子解析の結果, ならびに世界保健機関におけるワクチン推奨株検討会議の議論およびワクチン接種後のヒト血清抗体の反応性の評価を踏まえて, 平成29年のインフルエンザ流行予測を行い, ワクチン製造株の選定を検討いたしました。

その結果にもとづいて, 平成29年度のインフルエンザHAワクチン製造株はA型2株およびB型2株を入れた4価ワクチンとし, 下記の通り選定致しましたので, 回答致します。

A型株
  A/シンガポール/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
  A/埼玉/103/2014(CEXP002)(H3N2)
 B型株
  B/プーケット/3073/2013(山形系統)
  B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)

注1)インフルエンザHAワクチン製造株は, これまで, 発育鶏卵を用いて分離されたウイルス株であった。一方, A/埼玉/103/2014(CEXP002)株は, ワクチン製造にも使用可能な品質を有するNIID-MDCK細胞を用いて分離されたウイルス株を, さらに発育鶏卵により継代培養することにより得られた株である。鶏卵馴化による抗原変異は他の検討候補株より小さく, 比較対象とされたA/香港/4801/2014(X-263)株に比べ有効性の改善が期待される。

注2)A/埼玉/103/2014(CEXP002)株に関しては, 迷入ウイルス等否定試験により迷入ウイルス等が否定されていること, また, 本所におけるリスク評価から, 発育鶏卵を用いて分離されたウイルス株と比較してリスクが高くなることはないと結論される。なお, NIID- MDCK細胞の樹立および分離の過程で使用された原料は, 生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示210号)に適合していることを確認している。

2.埼玉株の増殖効率および株再検討の依頼について

1. の決定を受けて, 各製造販売業者は, A(H3N2)亜型について, A/埼玉/103/2014(CEXP002)株による製造について検討を開始したが, 実生産規模のエーテルによるスプリット工程において, 想定されていなかった大幅な収量低下が明らかとなり, その旨厚生労働省に報告があった。この段階の増殖性は, 昨年のA/香港/4801/2014(X-263)株に比して33%と判明し, インフルエンザワクチンの生産量も, 昨年度比で71%程度と大幅に減少する見込みとなった。これらの状況を受け, 厚生労働省は, 国立感染症研究所長に宛てて, 下記のようにA(H3N2)亜型に関する再検討を依頼した。

前回回答通知により選定のあった4株のうち, A/埼玉/103/2014(CEXP002)(H3N2)については, 前回回答通知別紙「平成29年度インフルエンザワクチン株選定理由」において示された通り, 「昨シーズンのワクチン株A/香港/4801/2014(X-263)と比較して, 約84%の蛋白収量」であることを前提に, 選定がなされたと承知しています。しかしながら, 今般, 実際の蛋白収量(暫定値)が昨シーズンのワクチン株A/香港/ 4801/2014(X-263)と比較して約33%程度と大幅に低下し, 最大限の生産を行った場合であっても, 平成29年度インフルエンザHAワクチンの総生産量は, 昨年度比で約71%程度にとどまる可能性が明らかとなりました。

仮に, 最終的に上記のような生産量となった場合, 希望してもワクチンの接種が困難となる事例が相当数発生し, 社会的に極めて大きな混乱が生じる可能性が高いと考えられます。

そのため, 上記の通り蛋白収量に係る大幅な低下の見込みが報告されていること, また, H3N2亜型以外のインフルエンザウイルスに対する効果を考慮すればワクチンを接種する機会を幅広く確保することが非常に重要と考えられることから, 平成29年度インフルエンザHAワクチンのH3N2亜型に係る製造株として, 昨シーズンのワクチン株であるA/香港/4801/2014(X-263)を使用することを可とすべきではないかと考えています。

つきましては, 貴職において, 国立感染症研究所インフルエンザワクチン株選定のための検討会議における従前の結論を見直し「A/香港/4801/2014(X-263)の使用を可」としていただくことの可否について, 検討をお願いします。

また, 当該検討結果については, その理由を含めてご報告頂きますようお願いします。

3.国立感染症研究所からの再検討結果回答

2. の依頼に対し, 国立感染症研究所長より, 以下の通り回答があった。

当初のA/埼玉/103/2014(CEXP002)を選定した結論とそれに至った考え方には変わりがないものの, 製造供給量の大幅な減少が見込まれ, A/H1pdm09およびB型ワクチンの供給にも影響が出るという状況を考慮すれば, 厚生労働省の提案である, A/H3N2ワクチンとして「香港株(A/香港/4801/2014(X-263)の使用を可」 とすることについて了承する。

4.株決定通知の発出

3. の回答を受け, 厚生労働省は, 平成29年度のインフルエンザHAワクチン製造株を以下のとおり決定し, 健康局長通知を発出した。

A型株
  A/シンガポール/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09
  A/香港/4801/2014(X-263)(H3N2)
 B型株
  B/プーケット/3073/2013(山形系統)
  B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)

 

厚生労働省健康局健康課予防接種室

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