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2016/17シーズン夏季に注意報が発令されたインフルエンザウイルスの流行―沖縄県

(IASR Vol. 38 p.226-227: 2017年11月号)

沖縄県では, 近年, 一年を通してインフルエンザ患者の発生が報告されている(IASR 33: 242, 2012)。2016/17シーズン(2016年第3週/9月~2017年第35週/8月)は, 例年よりインフルエンザ流行の立ち上がりが早く注意報レベルの流行が長期間継続し, 冬季(1~3月)流行後も終息することなく7月には再び流行が認められたので, その概要を報告する。なお, 沖縄県ではインフルエンザの県全体の注意報レベルを定点当たり報告数10人以上, 警報レベルを同30人以上と定めている。

患者発生状況

2016/17シーズンの本県におけるインフルエンザ流行は, 第42週(10/17~10/23)に定点当たり患者報告数10.07人と注意報レベルに達し, 第4週(1/23~1/29)には29.66人でピークとなった。その後, 増減を繰り返しながらも第14週(4/3~4/9)まで16週間の長期にわたり注意報レベルが継続した()。その後も流行は終息することなく, 第28週(7/10~7/16)の夏季にも定点当たり11.26人と再び注意報レベルに達した()。過去10シーズンにおいてピークは2番目に低く, 一年を通して警報レベルに達しなかったのは9シーズンぶりであった。また, 5シーズンぶりに夏季に注意報レベルの流行が認められた。

病原体検出状況

患者から採取された咽頭ぬぐい液156例を検査材料とし, リアルタイムPCR法によりインフルエンザウイルスの遺伝子検出およびMDCK細胞によるウイルス分離を実施した。その結果, 141例(90.4%)がPCR陽性であり, このうちAH3亜型とB型Victoria系統の重複感染が1例あった。また, PCR陽性141例のうち103例(73.0%)でウイルスが分離された。

シーズン開始当初(2016年9~12月)はA/H3亜型が33例と流行の主流であり, 冬季流行期(2017年1~3月)はA/H3亜型が35例, B型Victoria系統が6例, B型山形系統が2例検出された。その後はB型山形系統が33例, A/H3亜型が24例, A/H1pdm09亜型が5例, B型Victoria系統が4例検出され, 4種類のウイルスによる混合流行となった()。2016/17シーズンのVictoria系統と山形系統の検出割合は, 全国では1.6:1であったが(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/590-idsc/7323-fludoko-2016.html), 本県では1:3.5と山形系統の割合が多かった。

抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいては, 今シーズン検出された5例のA/H1pdm09亜型についてH275Yオセルタミビル耐性マーカーの有無を検索したところ, すべての株が感受性を示した。

まとめ

2016/17シーズンにおける本県のインフルエンザ流行は, 例年より流行の立ち上がりが早く, 注意報レベルの流行が長期間継続したが, ピークは過去10シーズンで2番目に低く, 9シーズンぶりに一年を通して警報レベルに達しなかった。一方, 冬季流行後も流行は終息することなく, 夏季にも再び注意報レベルの流行が認められた。今シーズンは一年を通して警報は発令されなかったものの, インフルエンザ定点からの患者報告数は過去5シーズンで最多であった。

沖縄県においては, 今シーズン一年を通して継続的に流行が認められた。その要因に関する仮説としては, まず例年よりも冬季のピークが低かったため, インフルエンザウイルスへの曝露が夏季を含めて長期間維持された可能性が考えられた。また, 冬季の流行以降は4種類のインフルエンザウイルスが混合流行したため, 複数の型のインフルエンザウイルスへの感染機会があったことも, 流行が継続した要因の一つの可能性として考えられた。かつて2013/14シーズンにおいて, 県内では冬季に警報レベルの流行が12週間にわたり継続したことがあった。その際には, 4種類のインフルエンザウイルスの混合流行が認められており (IASR 35: 262-263, 2014), 複数種のインフルエンザウイルスの混合流行と流行の長期化との関連が示唆された。今シーズンの流行の要因について, これらの仮説を支持する直接的な証拠は無いものの, 上述のような複数の要因が可能性として考えられた。

このように, インフルエンザ患者の流行時期など, 本県のインフルエンザ流行は全国とは異なる様相を呈しており, 今後も引き続き通年でインフルエンザの発生動向に注視するとともに幅広い年齢層に対して感染予防の普及啓発に努めていく必要がある。

 

沖縄県衛生環境研究所
 久場由真仁 喜屋武向子 加藤峰史 宮平勝人 柿田徹也 髙良武俊 久高 潤
沖縄県感染症情報センター 伊波善之
沖縄県保健医療部地域保健課 仁平 稔 山内美幸

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