国立感染症研究所

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結核サーベイランスからみた日本の薬剤耐性結核と結核患者の治療成績の現状

(IASR Vol. 38 p235-237: 2017年12月号)

薬剤耐性結核

日本の結核サーベイランスでは一次抗結核薬のうちリファンピシン(RFP), イソニアジド(INH), ストレプトマイシン(SM), エタンブトール(EB)の4剤について薬剤耐性情報を収集している。サーベイランスの薬剤耐性結核の統計をみる上で前提となるのが, 培養検査結果把握と薬剤耐性情報の収集率(入力率)である。薬剤耐性結果は, 培養陽性患者を薬剤耐性率等の分母としているため, 薬剤耐性情報把握率とともに統計の信頼性に影響することになる。これらの情報は年々把握率の向上がみられているが, 2016年新届出肺結核患者においては培養検査把握率90.1%, 培養陽性患者のうち薬剤耐性情報把握率は78.3%となっている。

2016年新届出肺結核患者13,608人のうち, 培養陽性患者は9,878人(72.6%)で, そのうち薬剤耐性情報把握患者は7,732人であった。INHとRFP両剤に耐性である多剤耐性結核(MDR-TB)は49人で, 感受性検査把握者の0.6%であった。MDR-TB以外でINHに耐性であった患者は320人(4.1%), MDR-TB以外でRFPに耐性であった患者は25人(0.3%), これら以外でSMまたはEB耐性であった患者が347人(4.5%) であった。したがって, RFP, INH, SM, EBいずれかに耐性を持っていた患者は741人(9.6%)であった。MDR-TB患者49人のうち外国出生者は15人であった。

に2012~2016年の5年間の薬剤耐性結核患者の推移を示した。MDR-TB患者数は60人から49人へと減少しているが, 感受性検査把握者の割合では, ほぼ0.6~0.7%で一定であった。

治療成績

現在, 結核サーベイランスにおいては肺結核患者の治療成績を使用薬剤や治療状況・期間等の入力情報を基にした算出アルゴリズムに従って自動算出を行っている。そのため, 副作用や薬剤耐性などの理由により標準的な治療が行われなかったなどでアルゴリズムが適用できない場合, 治療成績は判定不能となることに注意をいただきたい。

2015年に新登録となった肺結核患者で2016年の結核年報で評価対象となった患者は13,971人であった。治療成績は治癒14.6%, 治療完了38.3%, 死亡17.0%, 治療失敗0.4%, 脱落中断5.6%, 転出3.7%, 12カ月を超える治療7.9%, 判定不能12.6%であった。治癒と治療完了をあわせた治療成功率は52.9%で, 世界保健機関(WHO)の目標としていた85%には達していない。これは日本の新届出結核患者の高齢化に起因するところが大きいと考えられる。図1に肺結核喀痰塗抹陽性初回治療者6,630人の年齢階層別治療成績を示した。60歳以上で死亡割合が増加し, 90歳以上では死亡が48.6%と約半数にのぼっている。2016年の新届出結核患者の約3人に2人が65歳以上, 3人に1人が80歳以上という状況が治療成績の死亡割合を高め, 治療成功率を圧迫していると考えられる。図2に死亡の影響が大きくない50歳未満の肺結核喀痰塗抹陽性初回治療者の治療成績の年次推移を示した。治療成功率はおよそ70%前後で推移している。

また, 若中年層で増加している外国出生結核患者の治療成績は, 2015年の新届出肺結核患者で2016年の結核年報で評価対象となった患者は905人であり, 治癒15.5%, 治療完了45.4%, 死亡1.0%, 治療失敗0.2%, 脱落中断7.2%, 転出17.2%, 12カ月を超える治療4.2%, 判定不能9.3%であった。治療成功率は60.9%と全体より高いが, これは患者の年齢が若中年層に多いことで死亡の影響が少ないことによる。一方で脱落中断および治療途中での転出が多くみられている。脱落中断および転出の中には, 母国への帰国者が含まれていると推定され, 帰国後の治療継続を確保することが重要である。

 
結核予防会結核研究所臨床・疫学部 内村和広

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