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ハンセン病に伴うらい反応のコントロール

(IASR Vol. 39 p17-18: 2018年2月号)

らい菌は増殖の遅い菌であるから, ハンセン病の進行も全体として年単位であり緩徐である。ところが本稿で扱う「らい反応」だけはハンセン病の関連疾患としては例外的で大変急性で進行が速い。ハンセン病の病態は菌の増加に対する宿主のゆっくりとした免疫反応といわれるのに対し, らい反応の中心的な役割をするのは, 破壊されたらい菌の菌体成分に対する宿主の急激な免疫反応であり, この反応は抗酸菌治療の経過とともに出現することが多いといわれる。らい反応はtype1とtype2に分類されており, type1反応は境界反応, リバーサル反応などといわれ, 細胞性免疫が上昇する時に生じ, アレルギー反応のIV型をとるといわれる。神経や皮膚において炎症が誘導され, 神経破壊・麻痺と皮疹となって表れる1)。治療のレジメによっても反応の強弱が存在し, 従来の静菌的なジアフェニルスルホン(DDS)単剤ではB群の50%にみられるが, 強力な治療である多剤併用療法(MDT)では25%と少ない2)。よってそのコントロールには炎症反応の鎮静化が必要であり, しばしばステロイドなどの免疫抑制剤の使用が必要となる。Type2反応はらい性結節性紅斑(ENL)ともいわれ, 俗称は「熱こぶ」といわれていた。こちらは菌由来の抗原と抗体や補体と結合して形成された免疫複合体が組織内や血管内に沈着して生じるアレルギー反応のIII型がその機序とされる3)。ENLは多菌型の患者に起こり, LL型の半数以上, BL型の2割以上に起こるとされる。抗菌薬の違いで発生頻度に相違があるのはtype1と同様であるが, こちらはMDT開始半年以内で半数の症例に生じるとされる4)。ENLの主症状は皮疹であるが, 重症例は末梢神経炎, 発熱, タンパク尿, 関節炎の全身性変化を起こすことがある。治療は軽症例には鎮静剤が有効であるが, 通常はクロファジミンやステロイド, サリドマイドを必要とする。サリドマイドは1998年にハンセン病のENLに対する治療薬として, 米国で承認された。日本でも2012年にはENLの治療薬として承認された5)。サリドマイドの使用は, 薬害防止への観点から, 日本での使用では「サリドマイド製剤安全管理手順」(Thalidomide Education and Risk Management System: TERMS®)の遵守が求められている5)

 

参考文献
  1. Vijayakumaran P, et al., Int J Lepr Other Mycobact Dis 63: 18-22, 1995
  2. Roche PW, et al., Lancet 338: 654-657, 1991
  3. Ridley MJ & Ridley DS, Lepr Rev 54: 95-107, 1983
  4. Fajardo TT Jr, et al., Int J Lepr Other Mycobact Dis 63: 8-17, 1995
  5. 石井則久ら, 日ハンセン病会誌 80: 275-285, 2011

国立感染症研究所
ハンセン病研究センター感染制御部 星野仁彦

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan