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非政府組織(NGO)としてのハンセン病への取り組み

(IASR Vol. 39 p22-23: 2018年2月号)

世界保健機関(WHO)ハンセン病制圧大使および日本財団会長である笹川陽平は, 「私は, ハンセン病との闘いをオートバイの両輪にたとえている。病気からの解放とスティグマや差別からの解放。このふたつはオートバイの前輪と後輪であり, 両方が機能しなければ前進はない。」 と述べている。現在, 世界各国のNGOは「医療面」と「社会面」の双方から「ハンセン病のない世界」の実現に向けて様々な取り組みを行っている。本稿では, 日本に拠点を置く日本財団を中心に, 世界的なレベルで展開されているNGO活動全般について述べる。

日本財団は1962年に設立された非営利組織で, 過去40年以上にわたり, ハンセン病問題に取り組んできた。たとえば日本財団は, ハンセン病治療薬グルコスルホンナトリウム(商品名プロミン)の合成に日本で初めて成功した故石館守三博士(東京大学名誉教授)と協力し, 1974年にハンセン病問題へ専門的に取り組む笹川記念保健協力財団を設立している。同財団は日本財団と様々な分野で緊密に連携し, ハンセン病に関する調査研究・人材育成, 回復者のエンパワメント, ハンセン病に関する歴史保存などの分野で事業を支援・実施してきた。また, 日本財団は公衆衛生上の問題として世界のハンセン病制圧に取り組むために, 1975年にWHOへの支援を開始し, すでに総計183,791,700ドル(2017年5月現在)の支援を行っている。1995~1999年には, ハンセン病の特効薬である多剤併用療法(MDT)薬の無償配布を行い, 患者数の減少に貢献した。2000年代に入ると, 日本財団はハンセン病患者・回復者に対する差別を人権問題として位置づけ, 国連高等人権弁務官事務所(OHCHR)への働きかけを開始した。その結果, 国連人権理事会は過去5回にわたり, 「ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別撤廃決議」を採択し(2008年, 2009年, 2010年, 2015年, 2017年), 同財団はその過程で中心的な役割を果たした。特に2010年の決議は, 国連総会でも全会一致で採択されるとともに, 各国政府が取り組むべき方向性を示した「ハンセン病差別撤廃原則およびガイドライン」(P&G)が併せて承認されている。また, 2017年6月には新たな決議が採択され, 「ハンセン病患者・回復者・その家族への差別撤廃に関する特別報告者」の設置が認められた。

日本財団や笹川記念保健協力財団に加え, ハンセン病問題に取り組むいくつかのNGOについても簡単に触れたい。まず, 世界救らい団体連合(ILEP)が挙げられる。ILEPは1966年に設立された国際NGOのネットワークで, 欧米や日本でハンセン病問題に取り組む14の団体から構成されている。ILEPはハンセン病蔓延国を中心に61カ国で活動しており, WHOや各国保健省と連携し, ハンセン病患者の発見・治療, 患者・回復者の社会統合や生計向上支援, 医療従事者の人材育成などを行っている。このほかに, ノバルティス財団(スイス)の存在も明記される必要がある。同財団は, スイスの製薬会社ノバルティス社が設立した企業財団で, 2000年以降, 日本財団の後を受けてハンセン病の特効薬であるMDTの無償配布を実施している。

また近年は, 当事者であるハンセン病の回復者自らがNGOを立ち上げている。共生・尊厳・経済向上のための国際ネットワーク(IDEA)は1994年に設立され, 日本を含む19カ国に支部がある。このほかにも, ブラジルでハンセン病回復者の社会復帰を推進する運動体であるモーハン(MORHAN, 1981年設立), インドハンセン病回復者協会(APAL, 2006年設立), エチオピアハンセン病回復者協会(ENAPAL, 1996年設立)などがあり, 各国において当事者組織の活動が活発化しつつある。

これらハンセン病問題に取り組むNGOは, 「ハンセン病のない世界」の実現に向けて, 様々な分野で互いに連携しつつ, それぞれが活発な活動を展開している。先に挙げた日本財団やノバルティス財団によるMDT薬の無償配布や国連人権理事会で日本財団が果たした役割などの例をみれば明らかであるように, NGOは国際機関や各国政府と並び, 現状に「変化」を起こしうる重要なアクターとして, 欠かせない存在となっている。

 

参考文献
  1. 笹川陽平, 『残心 世界のハンセン病を征圧する』, 幻冬舎, 2014
  2. 財団法人 人権教育啓発推進センター, 『ハンセン病差別撤廃原則及びガイドライン』(日本語訳), 人権教育啓発推進センター, 2011
  3. United Nations General Assembly, A/HRC/35/L.14. Elimination of discrimination against persons affected by leprosy and their family members, 19 June 2017
  4. United Nations General Assembly, A/RES/65/ 215. Resolution adopted by General Assembly. 65/ 215. Elimination of discrimination against persons affected by leprosy and their family members, 6 October 2010
  5. “About IDEA”, International Association for Integration Dignity and Economic Advancement(IDEA)
    http://www.idealeprosydignity.org/About%20IDEA%20-%20Leprosy%20and%20Human%20Rights.html, (2018-01-09)
  6. “Zero Discrimination”, International Federation of Anti-Leprosy Associations
    http://www.ilepfederation.org/what-we-do/zero-discrimination/, (2018-01-09)
  7. “ハンセン病制圧に向けて”, 日本財団
    http://www.nippon-foundation.or.jp/what/spotlight/leprosy/index.html, (2018-01-09)

笹川記念保健協力財団常務理事
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部准教授
 南里隆宏

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