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 2014(平成26)年4月~2016(平成28)年12月に感染症発生動向調査に報告された風疹症例の検査実施状況

(IASR Vol. 39 p34-35: 2018年3月号)

はじめに

国は, 早期に先天性風しん症候群の発生をなくすとともに, 2020(平成32)年度までに風疹の排除を達成することを目標とし, 2018(平成30)年1月1日から風疹患者診断時に①直ちの届出, ②1例での積極的疫学調査, ③遺伝子検査の全例実施を行うよう省令と「風しんに関する特定感染症予防指針」(以下「指針」とする) を改正した。この改正により, ウイルス遺伝子検査結果と患者情報とを組み合わせて疫学調査を行うことが可能となった。遺伝子検査を全例実施するに当たり, 現在の状況を解析し, 今後の課題を明らかにすることが重要と考えられたため, 省令改正前の平成26年4月1日~平成28年12月31日までに感染症発生動向調査に報告された風疹症例の検査実施状況についてまとめた。

全例における診断分類および検査診断の報告状況の結果

報告された風疹症例は470例あり, うち臨床診断例153例(33%), 検査診断例317例(67%)であった。検査診断例について検査の種類別にみると, 血清IgM抗体検査が最も多く228例(72%), PCR検査74例(23%), ペア血清による有意な抗体価の上昇43例(14%), 分離・同定による病原体の検出は9例(3%)であった(重複例含む,図1)。風疹患者の届出は41都道府県から報告があったが, 1例以上検査診断例を報告した都道府県は40カ所, うち1例以上PCR検査を実施した都道府県は21カ所であった。なお, 遺伝子型が報告されていたのは27例(6%)であった(図2)。

PCR検査診断例を1例以上報告している都道府県に限定した診断分類別特徴

PCR検査診断例を1例以上報告している21都道府県から報告された421例に限定し, ①臨床診断例で検査結果が記載されていた症例(制度上は, 検査診断例になる), ②検査診断例でPCR検査とその他の検査の結果が両方記載されていた症例, 計25例を除外した396例について診断状況の詳細を比較した。

臨床診断例127例, PCR検査診断例56例(以下 「PCR診断例」 とする), PCR検査以外の検査診断例 (以下「その他検査診断例」とする) 213例の3群(以下「3群」という)について, 特徴を比較した()。臨床診断例のうち105例(83%)が診療所からの届出であり, 22例(17%)が病院からの届出であった。また, 風疹の三主徴(発疹, 発熱, リンパ節腫脹)のうち, 2症状および1症状での届出がそれぞれPCR診断例では32/56例(57%), 8/56例(14%), その他検査診断例では108/213例(51%), 33 /213例(15%)であった。三主徴が揃っていない症例は届出時に検査診断を必要とするが, 全検査診断例181例のうち40例(22%)がPCR診断例であった。

まとめ

平成26年4月~平成28年12月に感染症発生動向調査で報告された風疹症例のPCR検査実施例は検査診断例全体の約2割であり, PCR診断例が報告された都道府県は検査診断を報告した40都道府県のうち21カ所(53%)にとどまった。また, PCR検査診断例を1例以上報告した都道府県に限定した3群比較の結果, 臨床診断例の83%が診療所から, 17%が病院からの届出であった。届出時に検査診断を必要とする三主徴が揃っていない症例の大半がPCR以外の検査診断であった。このことから, 現状では風疹届出例におけるPCR診断例は地域および症例数ともに限られており, PCR検査全例実施に向けて診療所を含めた医療機関に対し, 風疹の届出時に全例PCR検査が求められていることを周知していくことが必要であることが明らかになった。また, 届出に検査診断が必要な症例については, PCR検査は発疹出現前後数日が最も検出率が高く, 1週間を過ぎると検出率が著しく低下することを踏まえ, 検体の確保時期についても併せて医療機関へ周知しておくことが重要と考えられる。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター

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