国立感染症研究所

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“風疹ゼロ” プロジェクト2018 進行中!

(IASR Vol. 39 p43-44: 2018年3月号)

はじめに

“風疹ゼロ” プロジェクトをみなさんご存知ですか? 日本産婦人科医会, 日本産科婦人科学会, 日本周産期・新生児医学会, 日本小児科学会, 日本小児科医会, 国立感染症研究所(感染研)の6団体による自主啓発活動として目下発信されている。本稿では本邦における先天性風疹症候群の新たな発生をゼロにするための試みと本プロジェクトの経緯について解説することとした。

2004年, 2013年の全国風疹流行を受けて

それまではおおよそ5年ごとに反復していた全国的な風疹の流行は久しく期間をおいて2004年に全国流行の兆しを見せた。当時, 連日のマスメディアでの報道, 迫る先天性風疹症候群(CRS)への危機感が募る中, 「風疹流行にともなう母児感染の予防対策構築に関する研究班(班長:平原史樹・横浜市立大学大学院医学研究科教授:当時)」が, 厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業(主任研究者:岡部信彦・感染研感染症情報センター長:当時)」のもとに組織され, 産科, 小児科, 感染症疫学, ウイルス学, ワクチン学, 等々の専門家が総力を挙げて2004年8月に『風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言』が策定された。そこでは①全国に妊婦2次相談施設設置, 相談事業開始, ②風疹の全数報告制度への転換, ③2回定期接種の実現へ, ④予防接種の実施を妊婦周辺で少しでも増やす, との提言がなされ, その後速やかに①~③は実施へと移行された。しかしながらワクチン未接種の世代, 特に感受性世代の男性が取り残されたまま, やがて2012~2013年の風疹再流行が生じるに至った。

2012~2013年の流行では, 全国から報告されたCRSは45例を数え, 大きな社会問題となり, 2014年3月には厚生労働省(厚労省)は『風疹に関する特定感染症予防指針』を発し, そこでは①2020年度までに風疹の排除を達成することを目標とし, ②国は「風疹対策推進会議」, 都道府県は「風疹対策の会議」を進める一方, ③特に1962(昭和37)年度~1989(平成元)年度までに出生した30~50代の男性のリスクを指摘し, 職域での風疹予防対策の必要性を説くとともに, とりわけ海外渡航者などヘの風疹対策の検討や予防接種を促している。また, ④国の予算からなる風疹抗体価検査助成事業は各都道府県において妊娠を計画, 希望するカップルなどへの実施が進められることとなった。

“風疹ゼロ”プロジェクトへの幕開け・・・なにかせねば!

2004年の流行時に発足した『先天性風疹症候群の抑制に関する厚生労働科学研究班』は, その後も産科, 小児科, 感染症疫学, ウイルス学, 等の専門家により絶えることなく継続され, 2016年からはAMED:日本医療研究開発機構・感染症実用化研究事業のなかでワクチンによって予防可能な疾患のサーベイランス強化と新規ワクチンの創出等に関する研究班(研究代表者:大石和徳・感染研感染症疫学センター長)の分担研究班として継続され, 爾来, 熱い議論の中, 検討策が提言されてきた。

その中でなかなか底上げできない接種率, 相変らず外国から散発的に輸入感染症として認識される風疹発症例などの事実が積み重なる中, 各専門家が各地, 各場面で啓発を繰り返している行動を一本にまとめてマスメディアにも協力いただき, 一気に情報シャワーを起こせないかとの考えから “風疹ゼロ” プロジェクトのコンセプトが具体化してきた。

なによりも「本邦では風疹のリスクは消えていません」とのメッセージを国民へ発することは2013年当時社会を一過性に席巻していた風疹への警戒感を再度リマインドしてもらいたいことと, また, 少しでも接種率向上へと進めたい気持ちの表れでもあった。『2(ふー)月4(しん)日』をシンボル日として2月4日を『風疹(ゼロ)の日』とし, この日を中心にして, 2月を “風疹ゼロ” 月間と定め, 多くの関係学会, 団体, 組織の方々のご賛同をいただき, 一斉に情報発信, 啓発活動を展開することとした。第1回のキックオフは2017年2月4日であり, 多くのマスメディアでも報道され, その後の種々の審議でも話題に上るなど一定の波及効果が得られるに至った。

“風疹ゼロ” プロジェクト2018

今回は, 2年目を迎えた “風疹ゼロ” プロジェクトではあるが, 2020年度の風疹排除達成目標とすると, 今回も含めて4回, 2020年オリンピック・パラリンピックの時期までとすると, わずか3回しか残されていない。本質的には, 風疹排除こそCRSの新たな発生ゼロへの究極の到達目標ではあるが, “風疹ゼロ” プロジェクトでは「可能なこと」, 「できること」, 「やりやすいこと」からまずは精一杯の最大努力をしましょうとの呼びかけをしており, 表1のようなスローガンを掲げて, 表2に掲げる約50組織へ協力を要請している。

また, 2018年2月4日『風疹(ゼロ)の日』には, 厚労省と “風疹ゼロ” プロジェクトの共催で, 初の海外渡航者向け「風しん啓発イベント」が成田国際空港で実施された。無料の風疹予防相談窓口や風疹抗体検査ブースが設けられ, 記念講演, リーフレット・ノベルティの配布, トークショーやクイズショーが実施された。また, “風疹ゼロ” プロジェクトのロゴ()が作成され, 公表された。

詳しくは日本産婦人科医会や感染研等のホームページから参照されたい。多くの読者のさらなる社会への呼びかけを期待しております。

※“風疹ゼロ” プロジェクト:日本産婦人科医会, 日本産科婦人科学会, 日本周産期・新生児学会, 日本小児科学会, 日本小児科医会, 感染研からなる, 2020年度までの風疹排除を目的に啓発活動を行っている団体。

 

国立病院機構横浜医療センター院長 
日本産婦人科医会常務理事 平原史樹

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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