印刷
IASR-logo

神奈川県における無菌性髄膜炎患者の発生動向とウイルス検出状況, 2012~2017年

(IASR Vol. 39 p94-96: 2018年6月号)

神奈川県では, 感染症発生動向調査事業において, 基幹定点からの臨床診断に基づいた無菌性髄膜炎の週別患者報告数および無菌性髄膜炎患者検体からの起因ウイルスの調査を行っている。今回, 2012~2017年の神奈川県における無菌性髄膜炎の患者発生の推移とウイルス検出状況について報告する。

1.無菌性髄膜炎患者の発生動向

神奈川県域(横浜市, 川崎市, 相模原市を除く)での過去6年間の無菌性髄膜炎の週別患者報告数は, 2012年は第37週(9/10~9/16)に定点当たり0.75人, 第51週(12/17~12/23)には定点当たり1.0人となったが, 2013年以降は定点当たり0.5人を下回っており, 小規模な流行に留まっている。全国的にみても, 過去10年間の無菌性髄膜炎の定点当たり報告数は0.12人を下回っており(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1658-17aseptic.html), 近年, 大きな流行はみられていない。

2.無菌性髄膜炎患者からのウイルス検出状況

神奈川県域の病原体定点医療機関から搬入された無菌性髄膜炎患者検体について, ウイルス分離検査(RD-A, A549, VeroおよびVeroE6細胞)およびエンテロウイルス1-3)核酸増幅検査を実施した。また, エンテロウイルス遺伝子が不検出であった検体については, ヒトパレコウイルス4), ムンプスウイルス5)およびヒトヘルペスウイルス6)核酸増幅検査を実施した。

2012~2017年の6年間に204症例(男性128例, 女性74例, 未記載2例)516検体の検査依頼があり, 124症例(60.8%)から246株のウイルスが検出された。年齢別では, 0歳児が最も多く91例で, その中でも0~3か月の乳児が76例(84%)を占めた。以降, 年齢が高くなるにつれて症例数は減少したが, 成人の患者も散見された()。

検出ウイルスはエンテロウイルス, ヒトパレコウイルス, ライノウイルス, ムンプスウイルス, ヒトアデノウイルスおよびヒトヘルペスウイルスと多岐にわたっていた(表1)。エンテロウイルスおよびヒトパレコウイルスの血清型を年ごとにみたところ, 2012年はエコーウイルス(E)6型, 2013年はコクサッキーウイルスB(CV-B)3型, 2014年はヒトパレコウイルス3型(HPeV-3), 2015年はコクサッキーウイルスA(CV-A)9型, 2016年はCV-B5, 2017年はE-6とエンテロウイルスA(EV-A)71型が多く検出されていた(表1)。

患者検体別のウイルス検出状況を表2にまとめた。無菌性髄膜炎は, 髄液からウイルスが検出された場合, 病原的意義が大きいとされる。当所では, ウイルス検出率を高めるため, 急性期の髄液を確保するとともに, 咽頭ぬぐい液や糞便等についても同時採取を依頼している。エンテロウイルスの検出率は糞便が一番高く, 続いて咽頭ぬぐい液, 髄液, 血清, 尿の順であった(表2-1)。髄液検体からはエンテロウイルス(15血清型), HPeV-3, 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)およびヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が検出され, ウイルス検出割合はエンテロウイルスが70%, HPeV-3が20%, VZVが5.6%, HHV-6が3.7%であった(表2-1, 表2-2)。ライノウイルスが髄液から検出された例はなかった。

3.無菌性髄膜炎症例からのEV-A71の検出

EV-A71は手足口病の原因ウイルスの一つであるが, EV-A71による手足口病の流行時には, 無菌性髄膜炎や脳炎等, 中枢神経合併症の頻度が高くなり7), また, 日本においても死亡例が報告されていることから8), その動向には注意が必要である。神奈川県では, 無菌性髄膜炎患者から2013年に1例, 2017年は2例よりEV-A71が検出された。これら症例の年齢は, 2013年は0歳2か月, 2017年は2例とも0歳1か月の乳児であり, 臨床症状は発熱(38℃台)と発疹であった。2017年の1例は手足口病を発症しており, 髄液からEV-A71が検出された。2017年の手足口病患者からの検出ウイルスは, 8月下旬までCV-A6が主体であったが, 第35週(8/28~9/3)以降からEV-A71が検出され始め, 2018年1月下旬まで検出が続いた。2017年の2例は10月と11月に無菌性髄膜炎を発症しており, EV-A71による手足口病患者の増加との関連が考えられた。

まとめ

2002年にE-13による全国的な無菌性髄膜炎の流行があったが9), それ以降は大きな流行はみられていない。しかし, 近年検出されていないウイルスにより再び大流行が起こる可能性もあることから, 平時の起因ウイルスの調査は重要である。今後も経年的な流行状況の把握と迅速な情報還元に努めていきたい。

 

参考文献
  1. 川俣 治ら, 新潟医学会雑誌 111: 633-646, 1997
  2. 宗村徹也ら, 感染症学雑誌 82: 55-57, 2008
  3. Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
  4. Harvala H, et al., J Clin Microbiol 46: 3446-3453, 2008
  5. 木所 稔, ムンプスウイルス病原体検査マニュアル, 平成27年1月
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Mumps2015.pdf
  6. Johnson G, et al., J Clin Microbiol 38: 3274-3279, 2000
  7. 清水博之, IASR 30: 9-10, 2009
  8. Fujimoto T, et al., Microbiol Immunol 46(9): 621 -627, 2002
  9. 国立感染症研究所,IASR 30: 1-3, 2009

 

神奈川県衛生研究所微生物部
 佐野貴子 嘉手苅 将 渡邉寿美 近藤真規子 黒木俊郎
神奈川県衛生研究所感染症情報センター
 田坂雅子 大塚優子 寺西 大 中村廣志
藤沢市保健所
 舟久保麻理子 片山公美 吉村 通 江添 忍 阿南弥生子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan