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熊本県での無菌性髄膜炎関連患者からの病原体検出状況(2010~2017年)

(IASR Vol. 39 p97-98: 2018年6月号)

はじめに

熊本県での感染症発生動向調査(2010~2017年)で病原体定点から無菌性髄膜炎(206名), 脳炎・脳症等(65名)で提出された472検体〔髄液263件, 咽頭ぬぐい液141件, 糞便48件, その他(血清, 尿等)20件〕の病原体の検出状況についてとりまとめたので報告する。

ウイルス検出状況

臨床検体から核酸抽出後, エンテロウイルス(EV), ヘルペスウイルス(ユニバーサルプライマーを用いた)のPCR法による遺伝子検査を行った。EV陽性と判断された場合は, CODEHOP法を用いてVP1領域を標的としたシークエンス解析をした。検出されたウイルス遺伝子は, コクサッキーウイルス, エコーウイルス, 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV), ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)など様々な種類のウイルス遺伝子であった(図1)。2017年にコクサッキーウイルスB2型(CV-B2)の検出(5件), 2012年にコクサッキーウイルスB5型(CV-B5)の検出(8件)が多かったことから, CV-B2, CV-B5については, ML法よる系統樹解析(274bp)を行った。CV-B2の系統樹解析の結果, 2016~2017年の流行株は2013年に熊本県内で検出された株とは別のクラスターに分類された。またCV-B5についても, 2016年株は2012年株とは別のクラスターに分類された(図2)。これらCV-B2およびCV-B5遺伝子が検出された患者年齢は, 0か月~3か月児が9割程度を占めた。

無菌性髄膜炎の流行状況

年間患者数は, 20件程度で推移しており, 警報レベル(5人/定点)を超える大きな流行はない。全国的にエンテロウイルスの流行があった2016年では, 県内の症例数も増える動向があり, 患者報告数(週報)のピークは2016年の第28週(7月11日~7月17日)の6名(0.27人/定点)であった。(図1)。

まとめ

2016~2017年に無菌性髄膜炎関連検体からCV-B2, CV-B5の検出数が増加した。また, 手足口病等の原因となる他のEV群の全国的な流行が認められた時期にも熊本県内の無菌性髄膜炎患者が増える傾向が認められていることから, EV流行時には無菌性髄膜炎の発生にも注意する必要がある。CV-B2, CV-B5は生後間もない新生児検体からの検出が多く, 母体からの移行抗体がなかったことが強く示唆される。IASRで長崎県での2016年のCV-B2, CV-B5による無菌性髄膜炎の流行が報告されている(IASR 38: 204-205, 2017)。2016~2017年に熊本県内で検出されたCV-B2, CV-B5は, 系統樹解析から2012~2013年の遺伝子とは別のクラスターに分類されており, アミノ酸配列の変異もみられた。

今後, さらに長い領域での遺伝子解析, また, 臨床症状との関連性等も考慮し, さらに詳細に解析する必要がある。

 

熊本県保健環境科学研究所
 酒井 崇 小原敦美 橋本慎太郎*1 吉岡健太*2 日高直子*3 原田誠也 大迫英夫
  *1熊本県阿蘇保健所
  *2熊本県健康危機管理課
  *3熊本県水俣保健所
国立感染症研究所感染症疫学センター第四室 藤本嗣人

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