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成人侵襲性肺炎球菌感染症に対する23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンの有効性

(IASR Vol. 39 p115-117: 2018年7月号)

背景と目的

2014年より65歳以上成人および60~65歳の基礎疾患を有する者に対して23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine, PPSV23)が定期接種として使用されるようになった。成人の侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)に対するPPSV23の有効性については, 海外(米国, 西欧諸国)から複数の報告があるが1-6), 本邦における同様の報告は我々の知る限りない。

また, 現行の経過措置におけるPPSV23定期接種は2018年度までであり, その後の定期接種対象者の設定や追加接種の意義について検討が予定されている。

成人IPDに対するPPSV23接種の有効性を評価することを目的に, 「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランス構築に関する研究」班で収集された10道県におけるIPD患者情報を用いて以下の解析を行った。

方 法

2013年4月1日~2017年3月31日の期間にIPDを発症し研究班に登録された15歳以上の患者のうち, 無菌的検体から肺炎球菌が分離され, 莢膜膨化法あるいはmultiplex PCR法により血清型が判明した症例を対象とした。

ワクチンの効果(vaccine effectiveness: VE)はindi-rect cohort design(Broome法)を用いて算出した7)。症例をPPSV23に含まれる血清型(ワクチン血清型)によるIPD患者, 対照をPPSV23に含まれない血清型(非ワクチン血清型)によるIPD患者, 曝露を5年以内のPPSV23接種とした症例対照研究で, オッズ比(odds ratio, OR)よりVE=1-ORと算出した。血清型別VEは, 症例数が30例以上の原因血清型について算出した。

統計学的解析に関して, 症例と対照の臨床特性の比較にはχ2検定, Fisherの正確検定, ウィルコクソン順位和検定を用いた。各VEの算出にはロジスティック回帰分析を用い, 性別, 年齢, 基礎疾患, Body Mass Index, 年度, シーズン(疫学週第23~48週をオフシーズン, その他の疫学週をオンシーズン)を交絡因子として多変量解析を行った。

結 果

対象期間に本研究班に登録された者のうち解析対象となった症例は897例だった。

各血清型別のVEをに示した。PPSV23血清型IPDに対するVEは45%(95% CI, 6 to 67), 13価肺炎球菌結合型ワクチン(13-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV13)血清型IPDに対するVEは38%(-14 to 67), PPSV23に含まれる血清型のうちPCV13に含まれる血清型を除いた血清型によるIPDに対するVEは52%(17 to 72)であった。各血清型別VEでは血清型12FによるIPDに対するVEは87%(33 to 97)であった。血清型3, 19A, 10AによるIPDに対するVEの点推定値は40~50%と算出されたが, いずれもサンプルサイズが小さく信頼区間が広かった。また年齢群別VEでは, 15~64歳群のVEは75%(10 to 93), 65歳以上群のVEは39%(-7 to 65)だった。対象期間を2017年12月までとし, 1,125例を対象とした追加解析では15~64歳群のVEは60%(21 to 79), 65歳以上群のVEは39%(1 to 63)だった。

考 察

本研究において, PPSV23が成人のワクチン血清型によるIPD発症を45%減少させることが確認された。海外の先行研究では, PPSV23に含まれる血清型によるIPDに対するVEは40~70%と報告されており, 今回の結果と類似していた1-6)。これは, 高齢者およびハイリスク者に対して行っている現行のPPSV23定期接種の意義を裏付けるものであると考えられる。また, PPSV23には含まれるがPCV13に含まれない血清型によるIPDに対するVEは, PCV13ワクチン血清型によるIPDに対するVEと同等, ないしやや高い傾向を認めた。小児に対するPCV接種の間接効果によりPCV血清型による肺炎球菌感染症が成人においても減少する中で, 成人の肺炎球菌ワクチン戦略におけるPPSV23の有用性を示唆する結果である。

単一の血清型別解析では血清型によってVEに差がみられ, 血清型12FによるIPDに対するVEが最も高かった(VE: 87%, 33 to 97)。血清型3, 19A, 10AによるIPDに対しても中等度の有効性がある傾向がみられたが, いずれも統計学的有意差は確認されなかった。血清型ごとにVEが異なる所見は先行研究でも観察されており, 特に血清型12FによるIPDに対する高い有効性はこれまでにも報告されている1,2)。また, 追加解析によって, 定期接種の対象である65歳以上の成人に対するワクチン効果が確認された。今後は症例を蓄積し, 推定の精度を高めていくことが重要であると考えられた。

制約として, 今回の解析に使用したBroome法では対照をIPD患者から選んでおり, 実際のVE値よりも推定値が高く算出される可能性がある8)。本研究の登録数(910例)は感染症発生動向調査における10道県の報告数の約半数であり, 代表性に影響している可能性は否定できない。また, 回答が得られないか不明の項目が複数あり, 結果に影響している可能性が考えられる。

 

参考文献
  1. Gutierrez Rodriguez MA, et al., Euro Surveill 19: 1-9, 2014
  2. Andrews NJ, et al., Vaccine 30: 6802-6808, 2012
  3. Singleton RJ, et al., Vaccine 25: 2288-2295, 2007
  4. Bliss SJ, et al., Arch Intern Med 168: 749-755, 2008
  5. Moberley S, et al., Vaccine 28: 2296-2301, 2010
  6. Butler JC, et al., JAMA 270: 1826-1831, 1993
  7. Broome CV, et al., N Engl J Med 303: 549-552, 1980
  8. Andrews N, et al., PLoS ONE 6: e28435, 2011

 

国立感染症研究所
 感染症疫学センター
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 細菌第一部 常 彬
長崎大学熱帯医学研究所 
 臨床感染症学分野 鈴木 基

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