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PPSV23の高齢者肺炎球菌性肺炎に対する予防効果

(IASR Vol. 39 p117:2018年7月号)

 

肺炎球菌は, 小児において髄膜炎などの侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を起こし, 肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)による小児IPDの予防効果は明白である。世界各国において定期接種化されており, わが国でも2013年から定期接種化された。肺炎球菌は高齢者肺炎においても主要な起炎菌であり, 65歳以上に対しては13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)と23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が使用可能である。中でもPPSV23は, 2014年から65歳以上に対する定期接種に組み込まれた。多価PPSVは開発が始まった1940年代からワクチン効果の検証が進められ, ここで焦点をあてる成人の肺炎球菌性肺炎に対する予防効果についても, 古くから研究されメタ解析も出されているが結論を出すのは難しかった1-3)。しかし, 我々のグループは, 血清型別にワクチン効果を算出することによってより正確な効果を明らかにした4)

1. 成人肺炎球菌性肺炎の疫学

我々の検討では, 高齢者肺炎においても肺炎球菌は重要な起炎菌であり, その発生率は65歳から急激に上昇し, 65~74歳で8.7/1,000人・年 , 75~79歳では16.9/ 1,000人・年であった5)。このことは超高齢社会における肺炎球菌性肺炎の疾病負荷の大きさを物語っている。これまでに, PPSVおよびPCVのIPDの予防に対する有効性は十分に知られている2)。しかし, 本邦での成人肺炎球菌性肺炎においては血液培養陽性の頻度は低い(5%未満)ので5), 菌血症を伴わない肺炎に対するワクチンの有用性を正確に評価することが不可欠である。

我々の2012年の時点での検討では, 15歳以上の肺炎球菌性肺炎における血清型カバー率はPPSV23で67%, PCV13で54%であったが5), 2016年5月から行った調査ではPPSV23で49%, PCV13で32%(暫定値:解析中)であり, 小児に対するPCV定期接種の集団免疫による間接効果であると考えられる。

2. 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPV23)の65歳以上の肺炎に対する効果

肺炎球菌性肺炎に対する肺炎球菌ワクチンの効果を証明することが難しかった理由の一つは, ワクチン含有株という限られた肺炎球菌性肺炎に対する発症予防効果を「全肺炎」や「全肺炎球菌肺炎」をアウトカムとすることで, 効果が検出されにくいことである。筆者らは, Fluidigm社のnano-fluidic Dynamic Arrayを用いた肺炎球菌血清型multiplex PCRシステムを開発した6)。この血清型multiplex PCRを肺炎球菌性肺炎の診断法として精度を求め7)採用したことにより, 従来よりも正確なワクチン効果の推定ができると考え, APSG-J研究5)のサブ解析をtest negative designにより行った。その結果, PPSV23の全肺炎球菌性肺炎に対する効果を27.4%(95%信頼区間 3.2~45.6), ワクチン含有血清型株による肺炎に対する予防効果を33.5%(95%信頼区間 5.6~53.1)と推定した4)。接種後5年で効果が減衰することも確認し, また有意差はなかったが, 74歳以下, 女性, 大葉性肺炎, 医療・介護関連肺炎において, より予防効果が高かった4)

成人肺炎に対する肺炎球菌ワクチンの有用性は, 医療経済学的指標を用いた費用対効果によって評価される。この点で, 2012年にKawakamiらがPPSV23の接種による医療費抑制効果を示した論文が重要である8)。これによるとPPSV23は, 接種後1年目で発生する肺炎の入院患者を9%から6.4%へと抑制し, 結果として肺炎患者一人当たりの医療費を76,000円削減できるなどとした。費用対効果の評価によってPPSV23の高齢者に対する定期接種が行われているが, 今後の健常高齢者に対する長期的ワクチン政策については, ①PPSV23定期接種を継続, ②PCV13を導入, ③PPSV23の2回目の接種を推奨, ④二つのワクチンの連続接種を推奨, などの考えられる選択肢に対し, それぞれのワクチンの有効な期間, 接種年齢による効果の違い, そもそも③や④の肺炎発症予防効果が不明であること, 前述した血清型置換による血清型の変化など不確定要素が多く, 医療経済学的に正当な結論を出すには慎重な検討が必要である。

 

参考文献
  1. Jackson LA, et al., N Engl J Med 348(18): 1747-1755, 2003
  2. Moberley S, et al., Cochrane Database of System-atic Reviews(Online)1: CD000422, 2013
  3. Maruyama T, et al., BMJ 340: c1004, 2010
  4. Suzuki M, et al., Lancet Infect Dis 17(3): 313-321, 2017
  5. Morimoto K, et al., PLoS ONE 10(3): e0122247, 2015
  6. Dhoubhadel BG, et al., J Med Microbiol 63(Pt_4): 528-539, 2014
  7. Kakiuchi S, et al., J Clin Microbiol 56(5): e01874-17-10, 2018
  8. Kawakami K, et al., Vaccine 28(43): 7063-7069, 2010

 

長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症学分野
 森本浩之輔 鈴木 基

 

 

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