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高齢者の肺炎球菌ワクチンによる定期接種について

(IASR Vol. 39 p121-123: 2018年7月号)

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は幼児や老人に髄膜炎, 敗血症, 肺炎など重篤な症状を引き起こす。現在, 高齢者の重篤な肺炎球菌感染症の予防に肺炎球菌の莢膜多糖体抗原を用いた23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が使用されている。莢膜ワクチンは成人健常者や幼児を重篤な肺炎球菌感染症から予防することに有効である。また, 脾臓摘出患者, 慢性臓器不全患者, 鎌状赤血球症患者および高齢者など免疫系の低下した人々にもある程度の防御効果を与える結果がでていることが, 1999(平成11)年世界保健機関(WHO)から公表されている1)。また, これら成人健常者や幼児および免疫の弱まったグループへの莢膜ワクチンの使用は, 重篤な肺炎球菌感染症を予防することに有効であり, ワクチン接種を推奨する。しかし, 2歳以下の乳幼児に対しては, 莢膜ポリサッカライドワクチンを接種しても十分な防御効果を与えることができず, また, 接種による副反応も大きいため, 使用することは難しいとの記載もある1)

2010(平成22)年2月に公表された, 「予防接種制度の見直しについて(第一次提言)」に, 定期接種となっていない疾病・ワクチンの一つとして肺炎球菌が挙げられ, どう評価し, どのような位置づけが可能かといった点について, さらに議論が必要である, と記載されており, 以降, 議論を行っていくこととなった。

同年7月, PPSV23に関するファクトシートがまとめられ, 第11回 厚生科学審議会感染症部会 予防接種部会で報告された。その後, ファクトシートをもとに, 厚生科学審議会感染症部会 予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会で議論が行われ, 2011(平成23)年3月, 肺炎球菌ワクチン作業チームにより, 「肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(成人用)作業チーム報告書」 が報告された2)。本報告書では, 「肺炎球菌ポリサッカライドワクチンの効果については種々の報告があるものの, わが国のデータにおいて, (ワクチンの導入によって)75歳以上で有意に肺炎による入院頻度が低下している事実は注目すべきであって, 今後のさらなる高齢化を考慮すれば, わが国において本ワクチンを定期接種に導入することが正当化されると考えられ, これはインフルエンザワクチンとの併用が推奨される」 と結論づけられた2)。また, 導入に当たっての課題として, 以下の4点が挙げられた2)。すなわち, ①ワクチンによる免疫は徐々に減衰していき, 免疫のメモリは誘導されない。このため, 追加接種の必要性が議論されてきた。米国予防接種諮問委員会(ACIP)は65歳未満でPPSV23を接種し, その後5年経過した場合には再接種を推奨しており, 日本でも2009年10月より再接種が可能となった。しかしながら, 再接種は初回接種ほどの抗体価の上昇は認められないとされており(注1), 再接種の効果については今後も検討されるべきである。②ワクチンは肺炎球菌性肺炎の罹患や死亡に対して一定の効果は認められるものの, その持続期間や免疫原性については今後も改善の余地がある。③現在, 小児においては7価肺炎球菌コンジュゲートワクチン(小児用肺炎球菌ワクチン) が導入されている国が多い(注2)が, これらによって成人におけるワクチン含有血清型の侵襲性肺炎球菌感染症も減少することが報告されている。わが国においても, 小児用7価コンジュゲートワクチンの接種率上昇に伴い, 同様な変化が予想されるものの, わが国における成人の侵襲性感染症由来の肺炎球菌株の7価コンジュゲートワクチンによるカバー率は38.5%3)と低いことにも留意する必要がある。成人肺炎球菌感染症の継続的なサーベイランスと, その結果に基づく本ワクチンの定期的な再評価が必要である。④各国で13価コンジュゲートワクチンの成人に対する治験が開始されている(注3)。わが国における成人由来肺炎球菌のサーベイランスデータおよび知見で得られる免疫原性のデータに基づき, 13価コンジュゲートワクチンと23価ポリサッカライドワクチンの接種方法の検討が必要である2)

(注1)現行のPPSV23に関するファクトシートでは, IgG抗体は初回以上に上昇しないものの, オプソニン活性は初回と同等に上昇することが記載されている4)

(注2)2018年5月現在, 小児の肺炎球菌感染症に対しては, 一部PCV10を導入している国もあるが, 多くの国でPCV13が導入されている。

(注3)2018年5月現在, 成人の肺炎球菌感染症に対して, PCV13が使用できる国は, 約30カ国である(厚生労働省調べ)。

その後, 2012(平成24)年5月に, 予防接種制度の見直しについて(第二次提言)がとりまとめられ, 予防接種法の対象となる疾病・ワクチンの追加に関しては, 7ワクチン(HPV, ヒブ, 小児用肺炎球菌, 水痘, おたふくかぜ, 成人用肺炎球菌, B型肝炎 について, 広く接種を促進していくことが望ましいと記載された。また, 2013(平成25)年4月の予防接種法改正において, 衆議院および参議院の附帯決議で, 成人用肺炎球菌を含めた4ワクチン(水痘, おたふくかぜ, 成人用肺炎球菌, B型肝炎)について, 平成25年度末までに定期接種の対象疾病に追加するか結論を得るまたは得るように努めることとされた。

2013(平成25)年7月開催の第3回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において, 接種対象者および接種方法について議論され, 導入時のキャッチアップとして, 5歳年齢ごとに毎年接種するという案が了承された。

2014(平成26)年1月開催の第4回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において, 水痘ワクチンと共に, 成人用肺炎球菌ワクチンは, 平成26年度中, 10月から定期接種に導入する方針が了承された。

平成26年10月から, 肺炎球菌感染症(高齢者がかかるものに限る)を, 定期接種B類疾病に位置づけた。対象者は, 65歳の者, 60歳以上65歳未満の者であって, 心臓, 腎臓もしくは呼吸器の機能の障害またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有するものとして厚生労働省令で定めるもの, とした。対象者の経過措置として, 平成30年度までの措置として, 「65歳の者」とあるのは, 「65歳, 70歳, 75歳, 80歳, 85歳, 90歳, 95歳または100歳となる日の属する年度の初日から当該年度の末日までの間にある者」とした。

接種率に関しては, に示すとおりであるが, 65歳相当の接種率が最も高く, 年齢が上がるごとに接種率は低下していく傾向があることがわかる。

2019(平成31)年度以降の定期接種の対象者について議論するにあたり, 国立感染症研究所にファクトシートのアップデートを依頼し, 2018(平成30)年5月開催の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会で, 新しいファクトシートが報告された4)。今後, このファクトシートに基づいて議論を行っていく予定である。

 

引用文献
  1. WHO, WER 74(23): 177, 1999
  2. 肺炎球菌ポリサッカライドワクチン (成人用) 作業チーム報告書, 2011年3月
  3. Chiba N, et al., Epidemiol Infect 138: 61-68, 2010
  4. 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン (肺炎球菌ワクチン) ファクトシート, 2018年5月

 

厚生労働省健康局健康課
 予防接種室 黒崎 亮

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