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抗ヘルペスウイルス薬による水痘・帯状疱疹の治療

(IASR Vol. 39 p144-145: 2018年8月号)

水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus: VZV)に対する抗ヘルペスウイルス薬には, 核酸アナログであるアシクロビル, バラシクロビル(アシクロビルのプロドラッグで消化管から吸収された後アシクロビルとなる)およびファムシクロビル(ペンシクロビルのプロドラッグで消化管から吸収された後ペンシクロビルとなり, 帯状疱疹にのみ適用)が使用されている()。これらの抗ウイルス薬は, ウイルスが増殖する際に発現されるチミジンリン酸化酵素と細胞由来のリン酸化酵素で最終的に三リン酸化される。この三リン酸体がウイルス遺伝子合成を阻害することにより抗ヘルペスウイルス活性を発揮する。また, 最近, 新たな機序の抗ヘルペスウイルス薬として, ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬であるアメナメビル(後述)が, 帯状疱疹に対する治療薬として承認販売された()。

抗ヘルペスウイルス薬の水痘への治療効果は, 有熱期間短縮,新規皮膚病変出現抑制, 皮疹数減少および水疱消失までの期間短縮である1,2)。一方で, 合併症の予防効果はなく, 効果は限定的である3)。また, 皮疹出現後24時間以内に抗ウイルス薬が投与されることが治療効果を得るためには必要で, 72時間以降に投与されても, 治療効果は期待できない。米国では, 1993年に米国小児科学会が「12歳以下の健常小児水痘に対する抗ヘルペスウイルス薬のルーチン投与は推奨しない」との声明を出している4)。一方, 日本では健康小児の水痘治療として, 上記の抗ヘルペスウイルス薬が用いられることが多い5)。日本では学校保健安全法により, 「すべての発疹が痂皮化するまで」登校できないことになっている。痂皮化までの期間を短縮することは, 特に就労中の親にとって望ましい場合がある。また, 成人, 妊娠女性や免疫不全患者等では水痘は重症化するリスクが高く, また, 致死的な場合もあり, 速やかに抗ウイルス薬による治療を開始することが重要である。アメナメビル以外の抗ヘルペスウイルス薬は, 主に腎臓から排泄されるため, 腎臓機能が低下した患者への投与は, クレアチニンクリアランスに応じた用量・用法の調節が必要となる。

2014年に, 日本で水痘ワクチンの定期接種が始まった。一般的に水痘ワクチン接種後の水痘罹患は, 発疹数が少なく, 水疱形成まで至らず, 発熱や合併症もない軽症水痘であることが多く6), 診断も難しいことがある。

帯状疱疹に対しても, 前述の抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル, バラシクロビル, ファムシクロビル)が治療薬として用いられる。原則として, 皮疹出現後72時間以内に投与を始め, 7日間使用する。ただし, 皮疹出現5日以降であっても, 新規の皮疹出現が続いている場合, 合併症を伴う場合, 帯状疱疹後神経痛(PHN)発症リスクが高い場合には, 抗ヘルペスウイルス薬を投与した方が良いと考えられる7)。治療により, ウイルス排出期間の短縮, 新規皮膚病変の出現抑制, 皮膚病変の治癒の促進効果が期待される。帯状疱疹に対する治療効果は, 疼痛期間の短縮と重症度の低減効果による生活の質(quality of life: QOL)の向上である。バラシクロビルおよびファムシクロビルは, 急性期疼痛およびPHNを含めた帯状疱疹関連疼痛(ZAP)の消失までの期間を有意に短縮させることが報告されている8-10)。この効果は, アシクロビルのそれよりも高いとされている。高齢者の腎機能は若い世代のそれよりも低いことが知られており, 高齢者の帯状疱疹の治療として抗ヘルペスウイルス薬を投与する際には注意が必要である。

2017年7月にアメナメビル(1日1回400mg)が帯状疱疹の治療薬として承認された。その作用機序はアシクロビルやペンシクロビルのそれと異なる。アメナメビルの第III相治験が日本でも行われた。日本人の帯状疱疹患者751名に, 発疹出現後72時間以内に投与を始め, 1日に1回200mgまたは400mg経口投与を7日間行い, その効果(4日目までの新規病変形成の停止率, 痛みの消失, ウイルス排出量など)および安全性をバラシクロビル(1,000mgを1日3回投与)のそれらと比較した。その結果, 400mg投与においてバラシクロビル投与と同等の効果および安全性が認められた11)。さらにアメナメビルは, 主に糞便中に排泄されることから, 腎機能の低下した人や高齢者においても, 腎機能の指標となるクレアチニンクリアランスのレベルに応じて投与量を調節する必要性がない。アメナメビルとリファンピシン等の代謝経路が重なる薬剤との併用は禁忌または注意を有する。

抗ヘルペスウイルス薬治療による問題として, 薬剤耐性ウイルスの出現がある。しかしながら, 薬剤耐性VZVの出現は極めて稀なことであり, 特に, 免疫健常者においては全く報告がない。一方で, 免疫抑制患者, 特に移植後患者においては, 他のヘルペスウイルスによる日和見感染の予防的投与を含めて長期に抗ヘルペスウイルス薬の投与が行われることがあり, VZVの薬剤耐性株の出現も認められることがある12)。その場合は, DNA合成酵素(ポリメラーゼ)に直接作用するフォスカルネット13)やアメナメビルへ変更することを検討する。

 

参考文献
  1. Balfour HH, et al., J Pediatr 116(4): 633-639, 1990
  2. Dunkle LM, et al., N Engl J Med 325(22): 1539-1544, 1991
  3. Klassen TP, et al., Cochrane Database Syst Rev 2: 2004
  4. American Academy of Pediatrics Committee on Infectious Diseases, Pediatrics 91: 674-676, 1993
  5. 長尾美香ら, 小児感染免疫 26(4): 519-522, 2014
  6. 前田明彦, 医学のあゆみ 244(特別号1): 92-96, 2013
  7. 渡辺大輔ら, 臨床医薬 28: 161-173, 2012
  8. Tyring S, et al., Ann Intern Med 123(2): 89-96, 1995
  9. Tyring SK, et al., Arch Fam Med 9: 863-869, 2000
  10. Degreef H, et al., Int J Antimicrob Agents 4, 241, 1994
  11. Kawashima M, et al., J Dermatol 44: 1219-1227, 2017
  12. von der Beek MT, et al., Clin Infect Dis 56: 335-343, 2013
  13. Safrin S, et al., Ann Intern Med 115: 19-21, 1991

 

国立感染症研究所ウイルス第一部
 山田壮一 福士秀悦 原田志津子  藤井ひかる 西條政幸

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