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2015年以降の日本国内HIV/AIDS発生動向分析

(IASR Vol. 39 p151: 2018年9月号)

HIV感染症は感染症発生動向調査において全数報告が義務付けられている5類感染症である。日本国内で診断されたHIV感染者数およびAIDS患者数はエイズ動向委員会を通して広く公表されている。1984年の調査開始以降, 日本国内の新規報告数に基づいて考えると, 1985~2005年前後まで新規報告数が時間の経過とともに継続的に増加した時期と, その後2006年から現在まで1,400~1,500件が続くいわゆる横ばい期間の2期に分けられる。このうち2006年以降の新規報告数は年ごとに若干の変動はあるものの, その内訳は, 初回報告時AIDS未発症の新規「HIV感染者」は概ね1,000件, 初回報告時AIDS指標疾患を伴う「AIDS患者」が400~500件で推移し, 新規報告数に占めるAIDS患者の割合は30%前後を維持している。それでは, 国内HIV/AIDSの新規HIV感染者数に変動はなく平衡状態なのであろうか。本稿では地域, 性別, 国籍別などの観点から, 近年, 特に2015年前後から認められる報告数の変動の特徴を考えてみたい。

2015年前後からみられる一つ目の特徴として, 地域において報告数の増減傾向が異なることが挙げられる。2017年の都道府県別新規報告数, および人口10万人当たりの報告数を表(特集表を参照)に示した。2015年以前より報告数としては東京都, 大阪府, 愛知県, 神奈川県などの人口の多い都府県が上位を占める。この傾向は2017年でも変わりない。しかしながら地域内での新規報告数の増減に着目すると, 沖縄を含む九州以外の地域では新規報告数は横ばいからやや減少であるのに対し, 九州地域ではHIV感染者, AIDS患者を合わせた新規報告数に増加が認められている。九州地域の新規報告数は2010年前後は100件前後であったが, 2015年以降は3年連続で150件を超えた。また人口10万人当たりの報告数の比較においては, 2014年には沖縄県の人口10万人当たりのAIDS患者数が全国1位に上がったことを始めとし, 2015年, 2016年も九州, 四国地方の自治体が上位に入った。2017年ではこの傾向がさらに顕著となり, 人口10万人当たりの報告数上位10県に, 沖縄県を含む九州地域および四国地域からHIV感染者では6県(沖縄県, 福岡県, 香川県, 鹿児島県, 宮崎県, 熊本県), AIDS患者についても6県(沖縄県, 福岡県, 鹿児島県, 高知県, 香川県, 徳島県)が上位10県に入った。全体として人口10万人当たりの報告数が多い自治体が西日本に集中している。今後, 九州以外の地域においても報告数が再び増加するのか, 注意深く見ていく必要がある。

二つ目に, 国籍, 性別により新規報告数をみた場合, 日本国籍男性の報告数の緩やかな減少と外国国籍報告数の増加が2015年以降により顕著となったことが特徴として挙げられる。1985年の調査開始直後は外国国籍報告例が報告数の半数以上を占め, 1992年には300件を超える報告があったものの, それ以降外国国籍報告数は減少し, 2010年代前半は概ね100件前後で推移していた。しかしながら, 近年外国国籍報告例数の再増加が認められ, 2013年には約150件, 2017年は約200件(196件)に達した。外国国籍報告例は新規報告数の約十数%程度に過ぎないが, 今後さらに報告数が増加するのか注意深く見ていく必要があると考えられる。その一方で, 新規報告件数の約80%を占める日本国籍男性については, 毎年1,000件以上の新規報告数があるものの, その数は2013年(1,401件)をピークとし, 2017年(1,150件)まで4年連続で緩やかな減少が認められる。

HIV感染症は5~10年の無症候期があるため, HIV感染後も検査を受けなければ自身の感染に気が付かず, また報告にも上がらない。故に「新規報告数=診断に至った症例数」であり, 実際に新たに感染した人の数ではないことをここでもう一度考えておきたい。さらに無症候の期間を考慮すると, 新規HIV感染者報告数と新規AIDS患者報告数の関係は, HIV報告数は5年未満程度の比較的近い過去のHIV発生数を, AIDS患者報告数は5年以上前の比較的遠い過去のHIV感染者数を反映しうる指標の一つと考えられる。よって, 日本国内のHIV/AIDS発生動向を考える際には, HIV感染者報告数とAIDS患者報告数の増減を個別に比較するのではなく, 新規報告数(HIV感染者とAIDS患者の合計)と新規報告数に占めるAIDS患者比の両方を見ていくことが重要であろう。

 

参考文献

平成27年エイズ発生動向年報
 平成28年エイズ発生動向年報
 平成29年エイズ発生動向年報

 
国立感染症研究所  エイズ研究センター 松岡佐織
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan