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2016/17シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2017/18シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況―2017年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 39 p193-195: 2018年11月号)

はじめに

感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする事業であり, 感受性調査(抗体保有状況調査)に関しては2013年4月から予防接種法に基づく調査となった。

毎年, 健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施しており, そのうちのインフルエンザ感受性調査は, インフルエンザの全国的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し, 抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的としている。

対象と方法

2017年度のインフルエンザ感受性調査は, 北海道, 山形県, 福島県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 千葉県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 富山県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 京都府, 愛媛県, 高知県, 佐賀県, 宮崎県の22都道府県で各198名, 合計4,356名を対象者数の目安とし, 2017年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)の採血時期を原則として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県に加え宮城県, 大阪府, 山口県, 福岡県でも実施された)。

インフルエンザに対する抗体価の測定は, 対象者から採取された血清を用い, 調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。2017年度の調査株は2017/18シーズンのインフルエンザワクチン株として選ばれた以下の4つであり, HI法には各インフルエンザウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原として用いた。

・A/Singapore/GP1908/2015[A(H1N1)pdm09亜型]
 ・A/Hong Kong/4801/2014[A(H3N2)亜型]
 ・B/Phuket/3073/2013[B型(山形系統)]
 ・B/Texas/2/2013[B型(Victoria系統)]

なお, 本稿では抗体保有率として, 感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示した。

結 果

1) 2016/17シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況

2017年度の調査において2016/17シーズン(前シーズン)の予防接種状況について調査が行われ, 7,483名の結果が得られた。図1には1回接種者, 2回接種者, 回数不明接種者, 未接種者, 接種歴不明者の割合を年齢あるいは年齢群別に示した(上段:接種歴不明者を含まない, 下段:接種歴不明者を含む)。接種歴が不明であった者はすべての年齢層で10~20%程度存在し, これら接種歴不明者を除いた6,537名についてみると, 1回以上の接種歴を有していたのは全体で52%(1回接種者:35%, 2回接種者:12%, 回数不明接種者:5%)であり, 2016年度調査(2015/16シーズン接種歴調査)の結果よりやや高かった(n=7,500, 1回以上48%:1回31%, 2回12%, 回数不明5%)。年齢あるいは年齢群別にみると, 0歳はほとんどが未接種者であり, 1歳でも約70%は未接種者であった。しかし, 2歳以上12歳までは約60~70%の者に, 13歳以上では概ね50%前後の者に1回以上の接種歴があった。また, 2回の接種が推奨されている1~12歳において, 接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)のうち2回接種者の割合をみると, 56~91%が2回接種者であり, 13歳以上の年齢層(2~41% ※13歳を除くと2~19%)と比較して高かった。

2) インフルエンザ抗体保有状況

2017年度(2017/18シーズン前)および2016年度(2016/17シーズン前)のインフルエンザ抗体保有状況の比較を図2に示した。

2017年度は合計で5,864名の対象者についてHI抗体価の測定が実施された。5歳ごとの各年齢群における対象者数は, 0~4歳群で約700名, 5~54歳の各年齢群で約400~500名, 55~59歳群および60~64歳群で約200~300名, 65~69歳群および70歳以上の年齢群で約100名であった。

A(H1N1)pdm09亜型について2017年度の結果をみると, 15~19歳群をピークに10~24歳(63~69%)の各年齢群はその他の年齢群より抗体保有率が高かった。5~9歳群, 25~29歳群, 30~34歳群は40%以上(41~50%)であったが, 0~4歳群および35~69歳の各年齢群では約20~30%程度(18~31%)の抗体保有率であり, 特に70歳以上群で10%と低かった。また, 2017年度は2016年度(A/California/7/2009)と調査株が異なることから一概に比較することはできないが, 10~24歳の各年齢群およびその前後の年齢群の抗体保有率がその他の年齢群と比較して高い傾向は類似していた。

A(H3N2)亜型について2017年度は2016年度と同じ調査株が用いられた。2017年度はすべての年齢群で2016年度より抗体保有率が上昇しており, 5~19歳の各年齢群は10~20ポイント上昇の80%前後(78~86%)を示し, その他の年齢群と比較して高い抗体保有率であった。また, それ以外の年齢群では0~4歳群(40%)を除き, 概ね50~70%(47~70%)の抗体保有率であり, 2016年度と比較して14~29ポイントの上昇であった。

B型(山形系統)については2016年度と2017年度で同じ調査株が用いられた。両年度の抗体保有率はほとんどの年齢群で同程度(70歳以上群を除き±10ポイント以内)であり, 全体では5ポイントの上昇であった。2017年度の調査では, 2016年度と同様に15~34歳の各年齢群の抗体保有率(61~69%)がその他の年齢群より高かった。また, 10~14歳群および35~59歳の各年齢群は40%前後(36~45%)の抗体保有率であったが, 0~9歳および60歳以上の各年齢群は約20~30%程度(16~33%)であった。

B型(Victoria系統)についても2016年度と2017年度で同じ調査株が用いられたが, 両年度の抗体保有率はほとんどの年齢群で同程度(70歳以上群を除き±10ポイント以内)であり, 全体では3ポイントの上昇であった。本調査株に対する抗体保有率はその他の調査株と異なり, ほとんどの年齢群で40%未満であり, 10~19歳(34~39%)および35~44歳(35~42%)の各年齢群を除くほとんどの年齢群で10~20%台の抗体保有率であった。特に65~69歳群の抗体保有率は8%と低かった。

まとめ

2017年度の調査の結果, A(H1N1)pdm09亜型では10~24歳, A(H3N2)亜型では5~19歳, B型(山形系統)では15~34歳の抗体保有率が他の年齢層と比較して高い傾向がみられ, 抗体保有率のピークを示した年齢層は型・系統により異なっていた。また, A(H3N2)亜型を除き, 0~4歳群および65歳以上の年齢群における抗体保有率は, 相対的に低い傾向がみられた。

本調査結果については, 2017/18シーズンの速報としてWeb上に掲載し, 当該シーズンのワクチン株に対して抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起を行った。

最後に, 本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ, 保健所, 医療機関等, 関係機関の皆様に深謝申し上げます。

 

 

国立感染症研究所感染症疫学センター
 佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳
同 インフルエンザウイルス研究センター
 渡邉真治 小田切孝人
2017年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県
 北海道 宮城県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 千葉県
 東京都 神奈川県 新潟県 富山県 福井県 山梨県 長野県 静岡県
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