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RSウイルス感染症サーベイランスの変遷と今後について

(IASR Vol. 39 p210-211: 2018年12月号)

わが国におけるRSウイルス(RSV)感染症サーベイランスは, 2003年の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)の改正に伴い, 感染症発生動向調査事業の一部としてスタートした。この改正において, RSV感染症は5類感染症(小児科定点把握)に追加され, 以来, 小児科定点に指定された全国約3,000の医療機関から, RSV感染症と検査診断された患者数が週単位で性別・年齢群別に報告されることになった。小児科定点には, 病院(入院病床を有する), 診療所(基本的には入院病床を有せず外来のみ)が含まれる。2003年のRSV感染症サーベイランス開始当初は, RSV抗原検査の公的医療保険の適用範囲は「3歳未満の入院患者」のみであった。その後, 2006年4月に「全年齢の入院患者」へと適用範囲が拡大され, 2011年10月17日からは, 入院患者に加え, 外来の乳児, およびパリビズマブ製剤の適用となる患者にも保険適用されることになった。RSV感染症の発生動向の解釈においては, このような検査(届出に必須)の保険適用範囲の拡大等, 届出上の周辺制度の変遷を十分に考慮したうえで, 患者報告数の推移を評価する必要がある1)

実際に, 2006年以降のRSV感染症報告医療機関(RSV感染症を年間に1例以上報告した医療機関)数の推移をみると, 2012年頃までは顕著な増加傾向がみられた()。この間にはRSV感染症の患者報告数にも顕著な増加傾向がみられ, これはRSV感染症を報告する医療機関数自体の増加と連動している可能性が考えられる。このような報告医療機関数の変動の影響を取り除くため, 当初2008年からRSV感染症を報告していた医療機関に限定して患者報告数の推移をみると, 患者報告数の顕著な上昇傾向はみられなくなった2)。ただし, このように医療機関を限定したとしても, その医療機関で行われた検査数の増減が不明であるため, 患者報告数の推移の評価には, なおも注意が必要である。実際に, 2011年の外来患者への保険適用拡大後には報告数の増加が認められ, 特に診療所(外来患者が主であり外来への保険適用拡大の影響がより大きいと想定される)において増加がより顕著であることから2), この増加は保険適用拡大による医療現場での検査数の増加が影響していたことが推察できる。

RSV感染症サーベイランスが開始されてから今年で15年が経過した。サーベイランス開始当初は, 外来の検査が保険適用外であったことなどから, RSV感染症を報告した定点医療機関数は小児科定点の半数にも満たない状況であった。このため, 感染症週報(IDWR)においては, RSV感染症は他の小児科定点とは異なり, 「定点当たり報告数」ではなく「報告数」の推移で動向が把握されてきた3)。しかし, 保険適用範囲の拡大とそれに伴う検査の普及等の理由から, RSV感染症を報告する医療機関数が増加し, その割合は過去3年以上は毎年8割以上を維持している。このように安定的な運用となってきたことがうかがわれることから, 2018年第9週より, 他の小児科定点と同様「定点当たり報告数」としての表記が開始されることになった。また, RSV感染症は, 日本国内でも地域による流行時期の違いが指摘されており, 医療現場でのパリビズマブ予防投与の適切なタイミングを検討する観点からも, 地域ごとの流行開始時期の評価には意義がある。「定点当たり報告数」が利用可能になったことで, 流行開始時期の系統的な閾値設定の検討なども今後は期待される。また, RSV感染症の発生動向状況や規模の評価においては, 行われた検査の数の情報を加味して解釈することが理想であり, 検査情報の収集や発生動向調査以外の情報ソース等とも合わせて総合的に評価することが重要である。

 

文 献
  1. IASR 35: 137-139, 2014
  2. Kanou K, et al., Jpn J Infect Dis 24 71(3): 250-255, 2018
  3. IASR 29: 271-273, 2008
 
 
国立感染症研究所感染症疫学センター
 

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