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G遺伝子に重複配列を有するhuman metapneumovirus変異株の動向―横浜市

(IASR Vol. 39 p217-218: 2018年12月号)

Human orthopneumovirus(human respiratory syncytial virus: HRSV)においては, G遺伝子に60塩基または72塩基の重複配列を有する変異株が出現後, 急速に世界各地に伝播し, 現在は主要な流行株となっている1,2)。近年, HRSVと同じニューモウイルス科に属するHuman metapneumovirus(HMPV)において, G遺伝子に180塩基または111塩基の重複配列を有する変異株が出現した3-5)。これらの変異株の横浜市における検出状況について報告する。

HMPVは2001年に発見され, 血清学的調査によって, 少なくとも60年以上前からヒトの間で流行していたことが示された6)。乳幼児や小児における急性呼吸器疾患の主要な起因病原体の一つで, 5歳までにほぼすべての小児が感染する。終生免疫は獲得できないため, 生涯を通じて繰り返し感染し, 成人においても重篤な急性呼吸器疾患の原因となることがある7,8)。ウイルスゲノムはマイナス一本鎖RNAで, 8個の遺伝子(N, P, M, F, M2, SH, G, L)が存在する。塩基配列や抗原性の差異に基づいて, HMPVは2つのグループ(A, B)に大別され, 各グループはそれぞれ2つのサブグループ(A1, A2, B1, B2)に分類される。さらに, A2は2つのクラスター(A2a, A2b)に分類される9-12)

横浜市の感染症発生動向調査において, 2013年1月~2018年9月までの期間に, 急性呼吸器疾患の患者の鼻咽頭検体から検出されたHMPV166株中149株(90%)について, G遺伝子の系統解析によるサブグループ分類を行った()。その結果, サブグループA2bに分類された66株中16株(24%)は180塩基, 21株(32%)は111塩基の重複配列の挿入という大きな変化を持つ変異株(A2b180nt-dup, A2b111nt-dup)であった。A2b180nt-dup株は2014年, A2b111nt-dup株は2017年にそれぞれ初めて検出され, 以降, 検出が続いている。これまでに, A2b180nt-dup株は仙台市13), 三重県14), スペイン4), ベトナム15)および中国において, また, A2b111nt-dup株はスペイン4)およびベトナム15)において検出されており, 国内外の各地で流行していると推察される。サブグループA2b株のG遺伝子の部分塩基配列に基づく分子系統樹をに示す。横浜市において検出されたA2b180nt-dup株およびA2b111nt-dup株は, 2015~2016年にスペインおよび中国において検出されたA2b180nt-dup株ならびに2014~2015年に検出された重複を持たないA2b株(横浜市において検出された4株およびスペインにおいて検出された1株)とクラスターを形成した。このことは, 塩基の重複が, 近年, このクラスター内で起きたことを示唆する。塩基の重複により推測される挿入アミノ酸配列は, A2b180nt-dup株では60アミノ酸残基, A2b111nt-dup株では37アミノ酸残基の重複であり, いずれもG蛋白の膜外ドメインに位置していた3,5)。変異株が検出された患者と, 他のサブグループの株が検出された患者との間で, 臨床症状に差異は認められなかった3,4)。現在, HMPVのF蛋白を効率的に開裂するプロテアーゼ:TMPRSS2を恒常的に発現するVeroE6細胞を用いてウイルス分離を試みており, これまでに, A2b111nt-dup株11株を分離した。G遺伝子の塩基配列解析の結果, これらの分離株はいずれも111塩基の重複配列を有していたことから, G遺伝子に111塩基の重複配列を持つHMPVが培養細胞で増殖可能であること, また, 111塩基の重複配列が分離株のウイルスゲノムに維持されていることが示唆された。

本調査により, 横浜市において, 2014年にA2b180nt-dup株, 2017年にA2b111nt-dup株がそれぞれ初めて検出され, 以降, 持続的に流行していることが示された。これらの変異株は, 横浜市のみならず, 国内外の各地で流行していると推察される。HMPVにおけるG遺伝子の塩基配列重複の臨床的意義は, まだ明らかにされていない。今後, 変異株の動向を監視するとともに, 病原性や抗原性の変化について検討する必要がある(本調査は, 平成28年度 横浜市衛生研究所倫理審査委員会の承認を受けて実施された)。

 

参考文献
  1. Trento A, et al., J Virol 80: 975-984, 2006
  2. Duvvuri VR, et al., Sci Rep 5: 14268, 2015
  3. Saikusa M, et al., Front Microbiol 8: 402, 2017
  4. Pinana M, et al., Future Microbiol 12: 565-571, 2017
  5. Saikusa M, et al., Microbiol Immunol 61: 507-512, 2017
  6. van den Hoogen BG, et al., Nat Med 7: 719 -724, 2001
  7. Boivin G, et al., J Infect Dis 186: 1330-1334, 2002
  8. Falsey AR, et al., J Infect Dis 187: 785-790, 2003
  9. van den Hoogen BG, et al., Emerg Infect Dis 10: 658-666, 2004
  10. Biacchesi S, et al., Virology 315: 1-9, 2003
  11. Bastien N, et al., J Clin Microbiol 42: 3532-3537, 2004
  12. Huck B, et al., Emerg Infect Dis 12: 147-150, 2006
  13. Nao N, et al., 第65回日本ウイルス学会学術集会抄録, 2017
  14. 矢野拓弥ら, 三重保環研年報 63: 27-34, 2018
  15. Le MN, et al., 第66回日本ウイルス学会学術集会抄録, 2018

 

横浜市衛生研究所
 七種美和子 川上千春 宇宿秀三 田中伸子 大久保一郎
国立感染症研究所ウイルス第三部
 直 亨則 竹田 誠

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