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パリビズマブ投与の臨床的意義

(IASR Vol. 39 p219-220: 2018年12月号)

I.パリビズマブ

パリビズマブはRSウイルス(RSV)のエンベロープ蛋白であるF蛋白のグループA, B株共通のエピトープに結合する単クローン抗体である。ヒト化はマウス抗体の相補性決定部位(complementarity determining region: CDR)を遺伝子組み換え技術により, ヒトのIgG1に移植することでなされた。分子量は約148,000で, アミノ酸213個の軽鎖2分子と, 450個の重鎖2分子からなる。この抗体はグループA, B株に対し, in vitroおよびin vivo(コットンラット)の系で同等の強い中和活性を示す1)。RSVの細胞への感染は, もう一つのエンべロープ蛋白であるG蛋白が細胞膜上の受容体(未同定)に接着した後, F蛋白に構造変化が起こり, それによりウイルスの被膜が宿主の細胞膜に融合することから始まる。パリビズマブはF蛋白に結合することで構造変化を阻害し, 宿主細胞との融合, および細胞内への侵入を阻止する。

パリビズマブは当初, RSVによる重症の下気道炎に対する治療薬として期待されたが, 効果が明らかでなく, 早産児や心肺に基礎疾患を有しRSV感染にハイリスクである児に対する予防薬として用いられることとなった。パリビズマブ15 mg/kgを30日ごとに計2回筋肉内投与すると, 有効血中濃度である30μg/mL以上を示す割合は, 初回投与後30日目で80%を超え, 2回目投与30日目では90%後半に達していた。

II.臨床試験

1.海外第III相臨床試験(早産児, BPD児対象のIMpact-RSV study)

在胎35週以下, 6か月齢以下の早産児と, 24か月齢以下で過去6カ月以内に気管支肺異形成(bronchopulmonary dysplasia: BPD)により呼吸管理を受けた児を対象に, パリビズマブの有効性がランダム化比較試験(randomized controlled trial: RCT)で評価された。プラセボ群とパリビズマブ投与群の入院率は10.6%と4.8%であり, 54.8%の入院率の減少が認められた。また, RSV感染による総入院日数, 酸素投与日数, ICU入院率も有意に減少させた2)

2.海外第III相臨床試験(CHD児対象, Cardiac Palivizumab study)

根治術未実施で24か月齢以下の, 明らかに血行動態に異常のある先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)を有する児を対象に, パリビズマブの有効性がRCT試験で評価された。プラセボ群とパリビズマブ投与群の入院率は, それぞれ9.7%と5.3%であり, 45.0%の入院率の減少が認められた。この効果はチアノーゼの有無には関係なかった。また, RSV感染による総入院日数, 酸素投与日数, ICU入院率も有意に減少させた3)

III.パリビズマブの保険適用対象, および投与計画

わが国においてパリビズマブは2002年に導入されたが, その保険適用対象は, RSV感染により重篤な下気道疾患を発症するリスクが高いとされる乳幼児である。詳細については添付文書等を参照いただきたい。パリビズマブの初回投与日と投与期間についてであるが, パリビズマブの有効性を高めるためには, ウイルス流行開始時までに血清抗体価を予防に必要なレベルまで高めておく必要がある。このため, 初回投与はRSVの流行が開始する前に行い, 流行が終了するまで継続する必要がある。導入当初は日本の多くの地域では, RSV流行期は通常10~12月に開始し, 3~5月に終了するとされ, 一応の目安とされた4)。しかし, 近年, RSVの流行開始が1~2カ月早まり, また, 通年性の発生があるなど, 従来と大きく変わってきたことを受け, 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会では, 2018年4月に「各年度のRSV流行時期は年度によって変動している。さらに都道府県において各年度のRSV流行開始時期にばらつきがあることから, 感染症発生動向調査等を参考に, 投与開始時期と終了時期を決めることが重要である」とのアナウンスを出している。

IV.国内市販後成績

1.早産児, CLD児

パリビズマブ導入前の1997~1998年シーズンには, 在胎週数32週以下の早産児, あるいは慢性肺疾患(chronic lung disease: CLD)を有する児の9.1%がRSV感染により入院した5)。パリビズマブが導入された2002~2003年, 2003~2004年シーズンにおいては, パリビズマブを投与された在胎32週以下の早産児, CLDを有する児の入院は, それぞれ2.9%, 2.2%であり, 平均72%の低下が認められた6)

2.CHD児

日本小児循環器学会研究委員会では2009年から全国規模の 「CHD児のRSV感染予防に関する実態調査」 を実施している。直近の3シーズンにおいては, 24か月齢以下のCHD児におけるRSV感染による入院率は1.5%前後となっている6)。パリビズマブ導入前の全国規模のデータが無いが, 海外の第III相のRCT試験ではパリビズマブ投与群でも5.3%が入院しており, パリビズマブ投与のみの効果とすることはできないが, 本邦の臨床データは非常に優れているといえよう。

ダウン症候群を合併しているCHD児のRSV感染による入院率は直近の3シーズンでは, 3.14%, 2.00%, 1.99%であり, ダウン症候群を合併していないCHD児に比較して, RSV感染による入院率が高くなる傾向がみられ, ダウン症候群がRSV感染重症化のリスク因子であることが改めて認識された7)

3.反復性喘鳴に対する効果

乳児期のRSV下気道炎が, その後の反復性喘鳴(reactive airway disease: RAD)をもたらすとの多くの報告がある。そこでパリビズマブを投与した早産児と, 投与しなかった早産児を対象にRADの発症率が比較された。2年間の観察期間において, パリビズマブ投与により, その後のRADが約半分に低下することが示された8)。わが国においても同様な結果が得られている9)

おわりに

わが国において, パリビズマブの投与は海外の臨床試験と比べても概ね良好なRSV感染重症化の予防効果を示している。一方, やはり高価な薬剤であり, 投与対象については十分な検討が望まれる。さらに流行時期の変化などもあり, 適切な投与計画の策定も必要である。

 

文 献
  1. Johnson S, et al., J Infect Dis 176: 1215-1224, 1997
  2. The Impact-RS Study Group, Pediatrics 102: 531-537, 1998
  3. Feltes TF, et al., J Pediatr 143: 532-540, 2003
  4. パリビズマブの使用に関するガイドライン作成検討委員会, RSウイルス感染症の予防について 日本におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン, 日児誌 106: 1288-1292, 2002
  5. 武内可尚ら, 日児誌 107: 898-904, 2003
  6. Kusuda S, et al., Pediatr Int 53: 368-373, 2011
  7. 日本小児循環器学会研究委員会:先天性心疾患児のRSV感染予防に関する研究 2015-2016, 2016-2017, 2017-2018シーズン実態調査結果, 日本小児循環器学会ホームページ
  8. Simoes EA, et al., J Pediatr 151: 34-42, 42, e1, 2007
  9. Yoshihara S, et al., Pediatrics 132: 811-818, 2013
 
 
済生会西小樽病院みどりの里 堤 裕幸
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