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病院におけるカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE) 検査方法

p>(IASR Vol. 40 p22-24: 2019年2月号)

カルバペネム系薬に耐性を示す腸内細菌科細菌の増加が世界的に問題となっており, わが国では2014年に5類感染症に指定された。中でもカルバペネマーゼを産生する腸内細菌科細菌 (carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)においては, β-ラクタム系以外の抗菌薬に耐性を示す場合も多く, 特に注意を要する。CPEについては国内の検出状況は未だ低いが, 海外などの流行地域において医療行為を受けた患者から検出される例や院内感染事例もあり1), 迅速かつ正確な検出が求められている。

国内で検出されるCPEの遺伝子型はIMP型が多く, 欧米の遺伝子型とは異なる。IMP型の中でもIMP-6などにはカルバペネム系薬の薬剤感受性結果が必ずしも耐性を示さない“ステルス型”と呼ばれる株が存在し, カルバペネム系薬のみを指標としたスクリーニングでは見逃す可能性もある。こうした背景から, 自動機器で課題となっていたカルバペネム系薬の低濃度(minimum inhibitory concentration;MIC値1μg/mL以下)測定が可能になりつつある。自動機器でメロペネムのMIC値が0.25~1μg/mLで感性と判定される株については, カルバペネマーゼを含む何らかの耐性因子を保有している可能性を鑑み, 積極的にカルバペネマーゼ産生試験などを実施する必要がある。

CPEを検出する方法として, Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)2)では Carba NP test, modified Carbapenem Inactivation Method(mCIM)法が推奨されているほか, 各種β-ラクタマーゼ阻害剤を利用した検出法などがあり, これらの検査は遺伝子検査を行っていない施設においても実施可能である。Carba NP testは, カルバペネマーゼにより抗菌薬が加水分解された際のpH変化をとらえ, 指示薬であるフェノールレッドが黄変することにより判定を行うものである。mCIM法は, メロペネムディスクと菌を接触させ, カルバペネマーゼ産生菌であればメロペネムが分解され抗菌活性が消失する。そのディスクを, Escherichia coli ATCC 25922に作用させ, 阻止円径により判定する方法である。Carba NP testと比較して特別な試薬を必要とせず, カルバペネマーゼ活性の弱い菌株に対しても, 反応が良好とされており, 日常検査に導入している施設も多い。また, KPC型に対してボロン酸, メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌に対してメルカプト酢酸(SMA)などのβ-ラクタマーゼ阻害剤を利用し, ディスク阻止円拡大の有無によって判定する方法があり, これらも多くの施設で実施されている。しかし, これら表現型における検査方法では検出不可能な耐性機序も存在するため, 最終的にpolymerase chain reaction(PCR)法による遺伝子型の確認が必要となる。さらに近年, イムノクロマト法を利用したCPE迅速検査キット(図-a)や数種類の薬剤ディスクを用いて阻止円径の差から酵素型を判定するCPE鑑別ディスク(図-b)など, 様々な検出法が開発されている()。こうしたキットは, 各種β-ラクタマーゼ阻害剤を利用した既存の方法と比較し, 複数の試薬購入, 試薬の濃度調整などが不要となることから日常検査へ導入しやすい。

また, CPEは腸管内常在細菌叢の中に長期間にわたって定着する特徴を考慮し, 保菌が疑われる患者に対しては, 入院時に糞便検体を用いたスクリーニング検査が推奨される。各種CPE選択培地を用いて, 発育したコロニーを前述の検出法, 薬剤感受性試験およびカルバペネマーゼ産生確認試験を併せて実施することが望ましい。

しかしながら, こうした確認試験での検出では未だ限界があることも事実であり, PCR法など, 薬剤耐性に関連した遺伝子型の検出が用いられる。腸内細菌科細菌については, 既報に基づき, 各種β-ラクタマーゼ産生遺伝子(IMP型, VIM型, KPC型, NDM型, OXA型, GES型)の検出が可能である。また, 数種類の遺伝子を同時に検出可能なmultiplex PCRを利用したカルバペネマーゼ産生遺伝子の検出用試薬(図-c, d)も開発されており, 手技の煩雑さが軽減され, 遺伝子検査のさらなる迅速化が期待される。また, キットにはコントロール試薬が含まれており, 精度管理の問題についても対応可能である。

腸内細菌科細菌の耐性機序は多種多様であり, カルバペネム系薬の耐性がカルバペネマーゼだけでなく, ESBL産生やAmpC産生に外膜蛋白変化が加わることでも耐性化することもある。これらを踏まえ, 耐性菌検出については, 施設ごとにフローチャートを作成し, 各培地や検査法の特性を把握したうえで, 薬剤感受性結果と併せて有効に活用して判断することが重要である。

 

参考文献
  1. 荒川宣親, 日本化学療法学会雑誌 63: 187-197, 2015
  2. CLSI, Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, 27th Informational Supple-ment, 2017

 

京都橘大学健康科学部臨床検査学科
 藤原麻有 中村竜也

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan