印刷
IASR-logo
 

大阪府北河内地域を中心とした麻疹アウトブレイクの概要と対応

(IASR Vol. 40 p58-59: 2019年4月号)

事例の概要

2018年11月, 保健所管内在住の20代男性(患者1)が発熱し, 第6病日にA病院を受診したが感冒として経過観察となった。翌日から発疹も出現したが自宅療養を続け, 第11病日に解熱した。続いてその第1子(患者3=幼児)が患者1の第14病日に発熱したためB病院を受診。さらに妻 (患者2) が患者1の第15病日に発熱し, 4日後には呼吸困難感を自覚し, 患者2, 3に発疹が出現したため, 第2子(患者4)を伴って家族4人でA病院を受診した。

患者3が肺炎を発症しA病院では対応困難なためB病院を紹介受診となり,患者2, 3, 4について麻疹と臨床診断され, 患者1も問診により麻疹と診断された。患者1~4については, PCR法で麻疹ウイルス遺伝子が検出されたため麻疹と検査診断された。患者2~4についてはB病院でも対応困難だったため, 3名ともにC病院へ救急車にて転院搬送され入院となった。

接触者調査の対象は, 患者1~4が受診したA, B, C病院の職員や来院者, 患者が転院の際に利用したタクシーの運転手や救急車の救急隊員, 患者3が通う保育園の職員や園児など, 合計約300名を健康観察者として注意喚起を行った。また, 接触状況やワクチン接種歴, さらに病院職員等一部の接触者については事前に把握していた麻疹抗体価等に応じて緊急にワクチン接種を行い(計39名), 6か月未満児に対してはγグロブリン製剤を投与した(計3名)。

その後, 健康観察者のうちA病院の職員3名とC病院の職員2名, 転院搬送を行った救急隊員1名が発症したが(計6名), 症状は比較的軽症だった(1名が麻疹, 5名が修飾麻疹)。いずれもワクチン接種歴があり, それぞれの接触者からの感染拡大はなかった。発症者の感染可能期間に最終接触以降4週間新たな麻疹患者の発生がなかったため, 2019年1月に入り, 事例の終息を確認した。

本事例では感染症法に基づく届出基準に準じ, 10名が症例定義に合致した。なお, 修飾麻疹における届出に必要な臨床症状については, 37℃以上の発熱をすべて「発熱」とした。患者のうち男性は3名(30%), 年齢中央値は18歳であった(0~36歳)。10名全例(100%)が検査診断例で, 遺伝子型D8の麻疹ウイルスが検出された。ワクチン歴については, 10名中7名が記録によるワクチン接種歴〔麻疹風疹(MR)または麻疹単独〕が確認された。

ウイルス検査については, 大阪健康安全基盤研究所にて患者1~4, A病院職員2名, 救急隊員1名, 計7名について, PCR検査で麻疹ウイルス遺伝子が検出され陽性となった。また, 麻疹ウイルスの遺伝子型別領域N遺伝子(450塩基)について, 塩基配列を解析したところ, すべて同一の配列であることがわかった。遺伝子型を調べるためにNational Center for Biotechnology InformationのBasic Local Alignment Search Tool(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて解析した結果, D8型であることがわかった。

考察とまとめ

初発事例の感染源については, 10月上旬~中旬に患者1との接触があったものと考えられた。府内で患者1とほぼ同時期に発症して同一の遺伝子型の麻疹ウイルスが検出されている患者がいたが, 患者1をはじめとする今回の事例との接点は不明である。患者1は麻疹ワクチンの接種歴が2回あった一方で, 家族である患者2~4はいずれも麻疹ワクチンの接種歴がなかった。家族内での濃厚接触とワクチン未接種による高感受性によって最初の感染が広がったと考えられた。

患者1~4が受診した医療機関等では, 麻疹ワクチンを2回以上接種している者でも, 患者と濃厚接触があった職員等から麻疹を発症した者がいた。特に患者3は肺炎を発症していたことから, 大量の麻疹ウイルスを排出していたと推測され, 医療機関等で処置等を通じて濃厚接触があった場合には, ワクチンを2回以上接種していても麻疹を発症することがあると推測された。

患者1, 2は患者3が通う保育園に送迎目的でごく短時間の立ち寄りがあり, 麻疹ワクチン未接種の0歳児を含む複数の乳幼児との接触があったことから, 一部の接触者については緊急ワクチン接種の対応を行ったが, 結果として約100名の健康観察者からの発症者はなかった。患者1~3が保育園へ行った時期はいずれも発症初期だったことなどから, まだウイルスの排出量も少なく, 感染が拡大しなかった要因ではなかったかと推測された。

医療機関での対応については, 近年では国内において麻疹の排除状態が続いてきた一方で麻疹患者の診療経験を持つ医師が急速に少なくなっており, 麻疹を疑って検査診断につなぐためには診断技術や精度を向上させるための何らかの方策が必要と考えられる。緊急ワクチン接種やγグロブリン投与の適応を評価するための情報が少なく現場の医師が対応に苦慮したことから, 麻疹診断後の対応に関する情報提供や適切なアドバイスができる専門家との早期からの連携は課題であった。

さらに, 緊急ワクチン接種をする際に, ワクチンの供給量が定期接種分以上の供給には十分ではなく, また, γグロブリンは日常的に使用する薬剤ではないため, 緊急に投与を行うための確保に苦慮した。今後こういった緊急時の薬剤供給についても何らかの対応策を検討する必要があると考えられた。

今回, 管内のA, B病院において接触者調査や緊急ワクチン接種等緊急の対応が必要となったが, 患者や家族に連絡や個人情報の取り扱いに関する承諾を迅速に得る点は課題であった。今後はできるだけ早期対策に必要な情報が共有できるよう個人情報の取り扱い方法等を事前に整理して関係機関間で共有しておく必要があると考えられることから, 発生早期に関係保健所が集まって合同対策会議を開催することも必要と考えられる。

また今回の事例では, 1人の患者の居住地, 勤務地, 勤務先の健康管理部門, その患者の受診先医療機関のそれぞれを所管する保健所がすべて異なるような事例であったため, 当保健所は, 患者情報の迅速な一元化が行えるよう対応するなどの工夫を行った。初発の患者家族全員が保健所管内のA, B病院から他自治体管内のC病院へ搬送されて入院となったことから, 患者調査はC病院を所管する自治体へ依頼することとなった。しかし, 当保健所, 大阪府庁, 他自治体の本庁, その出先と各関係機関を経由して患者や家族との連絡調整が行われたため, 異なる自治体間で現場同士の危機感やスピード感の共有に課題があった。特に患者家族への連絡の行き違いやタイムラグが生じないように努め, 関係保健所との迅速な情報共有や連携体制の確立が重要であると考える。

 

大阪府寝屋川保健所
 宮園将哉 衣笠幸恵 田中真弓
大阪健康安全基盤研究所
 倉田貴子 上林大起 本村和嗣

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan