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新潟県でHUS患者が多発した腸管出血性大腸菌O157アウトブレイク

(IASR Vol. 40 p77-78: 2019年5月号)

2018年8~9月にかけ, 新潟県内において腸管出血性大腸菌(以下, EHEC)感染症が多発した。そのうち, 患者(無症状病原体保有者を含む)49名がEHEC O157 VT2(以下, O157 VT2)に感染し, 12名が溶血性尿毒症症候群(以下, HUS)を発症した。患者およびその家族(以下, 患者等)の共通行動, 購入食材の遡り調査等を実施したものの, 原因究明には至らなかったO157アウトブレイク事例を報告する。

1. 探知

2018年8月24日, 新潟県長岡地域振興局管内の医療機関から, O157 VT2の感染症発生届出が1件あり, その後, 4週間にわたり新潟県および新潟市管轄の5保健所(長岡, 柏崎, 三条, 新津, 新潟市)に届出が相次いだ。本件に関する最終の届出は9月19日であった。

2. 患者情報

患者は8月16日~9月12日かけて発症し, 検便等の検査の結果, O157 VT2感染者は無症状病原体保有者3名を含め32家族49名であった。なお, そのうち5名はO157 VT型不明 (患者血清中の抗O157 LPS抗体陽性で判明したもの) であったが, 本アウトブレイクに関連し, O157 VT2であると強く疑われることから, 患者に含めて計上している。

感染者の男女比では女性が34名(69.4%)と多く, また, 年齢は中央値が28歳(範囲:1~86歳), 0~9歳が13名(26.5%), 10~19歳が10名(20.4%) と, 若年層で多かった。感染者のうち, 患者(有症者) 46名の症状に関しては, 腹痛が42名(91.3%)で最も多く, 次いで水溶性下痢が41名(89.1%), 血便が30名(65.2%), 発熱が14名(30.4%) であった。また, HUSの発症者が12名(26.1%)であり, 2017年における全国の有症者に占めるHUS発症割合4.3%(それまでの過去最高: 4.3%)1)と比較して有意(カイ二乗検定, p<0.05) に高かった。

3. 遺伝子検査

O157 VT2が分離・同定された44検体に関し, 国立感染症研究所(感染研)細菌第一部および新潟県保健環境科学研究所においてMLVA(multilocus variable-number tandem repeat analysis)法による遺伝子解析を実施した。MLVA typeは18m0241(42名)が最も多く, 次いで18m0264および18m0322が1名ずつ分類された。これらはすべて同一MLVA complex 18c031であった。

4. 患者の行動状況調査

患者等に対して, 行動状況調査を実施したところ, 外食, 旅行等の共通行動は認められなかった。また, 他自治体においてMLVA complexが一致した感染者14名についても県内の患者等と外食, 旅行等の共通行動は認められなかった。

最も発症の早い患者の発症日(8月16日)の8日前から, 発症のピークがみられた8月27日の前日までの期間(8月8~26日;以下, 感染期間)について, 患者等24家族が利用した小売店の購入履歴(レシートおよびポイントカードに記録された履歴)の確認および遡り調査を行ったところ, 以下のとおりであった。

(1)キュウリ

感染期間に22家族がキュウリを購入し, そのうち17家族がA社系列のスーパー(以下, A社)の9店舗から購入していた。

A社の各店舗はキュウリをB社から仕入れており, 感染期間にB社に納品されたキュウリは, C県(81.5%, 1,294箱中1,054箱)の産地が最も多かった。

また, B社にキュウリを最も多く卸していたE社(85.7%, 1,294箱中1,109箱)では, キュウリを箱のまま仕入れ, 小分けせずに出荷していた。キュウリは, C県から出荷されていたが, さらに詳細な産地情報を得ることができなかった。

なお, B社およびE社の従業員には, 体調不良は認められていなかった。

(2)キャベツ

感染期間に17家族がキャベツを購入し, そのうち12家族がA社7店舗から購入していた。

また, A社の各店舗はキャベツをB社から仕入れており, 感染期間にB社に納品された産地として最も多かったのは, D県(54.4%, 2,923箱中1,591箱)であった。

(3)その他の食品

感染期間に購入した上記以外の食品については, いずれも購入家族数は15家族以下であった。

また, 感染研の協力のもと, 以下の症例定義について, 食料品を曝露要因として症例対照研究(結果:発症 交絡因子:性別, 年齢, 食料品 解析方法:ロジスティック回帰分析)を行った。

(1)症例:2018(平成30)年8月17日~9月6日において, 食品の購入履歴がレシートおよびポイントカードにより確認され, かつ検便検査の結果, MLVA type 18m0241が検出された者(31人)

(2)対照:①2014(平成26)年8月および②2015(平成27)年8月にEHEC O157陽性となった者の対照者としてインターネット調査により集められた者(①644人②150人 計794人)(感染研 旧砂川班)

症例に対しては, 家族内で最も早く発症した者の発症日から2週間前の購入履歴, 対照に対しては, 発症日から1週間前の喫食を曝露とし, オッズ比(OR: odds ratio)とその95%信頼区間(CI: confidence interval)を算出した。

分析の結果, 購入家族数の多いキュウリにおいて, 最も高いOR(粗OR=12.06, 95%Cl 1.63-89.02)を示した。さらに, 性別・年齢の調整を行ったところ, キュウリ(調整OR=11.09, 95%Cl 1.50-82.20)と購入家族数が7家族と少ないものの, もやし(調整OR=2.54, 95%Cl 1.04-6.18)で統計学的に有意な結果が得られ, キャベツには有意な結果は得られなかった(調整OR=1.47, 95%Cl 0.64-3.38)。もやしについては, キュウリでさらに調整を行ったところ, 有意な結果は消失した(調整OR=1.93, 95%Cl 0.79-4.75)。このことからキュウリと発症との関連が疑われた。

5. 考察・結論

本事例では, 患者等に外食, 旅行等の共通行動がみられなかったことから, 患者等の食材の購入履歴について調査を実施した。その結果, A社の店舗で購入したキュウリの関与が疑われたものの, 以下の理由から, 感染原因の特定には至らなかった。

(1)患者等の購入履歴が最も多く確認されたキュウリについて, 患者が喫食した残品や同一ロット品を入手できず, EHECの検査を実施することができなかった。

(2)患者等がそれぞれ地理的に離れたA社の複数店舗を利用していること, および発症時期が一時期にまとまっていたことから, A社の特定の1店舗でEHECに汚染されたとは考えられなかった。また, 流通の際に経由するB社およびE社においては, 従業員に体調不良が認められなかったこと, ならびにキュウリが小分けされず箱のまま出荷される流通形態であったことから, 流通の途中でキュウリが汚染されたとも考えにくい。このことから, キュウリがA社, B社およびE社でEHECに汚染された可能性は低いと考えられた。

(3)キュウリの産地について, 具体的な地域を特定する情報を得ることができなかった。

本調査にご協力いただきました国立感染症研究所感染症疫学センターの第2室の皆様, 関係自治体の皆様に深く感謝いたします。

 

参考文献

 

新潟県福祉保健部健康対策課
 笹嶋真嵩 渡辺和仁 井上陽子 堀井淳一
新潟県福祉保健部生活衛生課
 弦巻恭太 石動政直 吉岡 丹 阿部健博
新潟県保健環境科学研究所調査研究室細菌科
 青木順子 紫竹美和子
※所属は平成31年3月末現在

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan