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福祉施設における腸管出血性大腸菌O121による集団感染事例―大分県

(IASR Vol. 40 p80-81: 2019年5月号)

2018年9月に, 大分県内の1福祉施設において腸管出血性大腸菌(EHEC)O121:H19(VT2)を原因とする集団感染事例が発生したので, その概要と, 分離された菌の特徴について報告する。

事例の探知および経過

2018年9月4日に, 県内医療機関から管轄保健所にEHEC O121の患者発生届があった。患者は70代女性で, 入所する福祉施設で8月31日に血便が確認されたため医療機関を受診し, O121(ベロ毒素陽性)が検出された。管轄保健所は直ちに患者が入所する施設の調査を開始した。

患者から分離された菌株は当センターに搬入され, EHEC O121(VT2)と確認された。接触者検便対象者として, 施設入所者64名(男性35名, 女性29名), 職員40名, 別棟への通所者9名, 施設外の接触者(家族等)7名, 計120名の検査を実施したところ, 入所者18名(うち女性13名), 職員1名, 通所者1名の計20名からEHEC O121(VT2)が検出された。職員1名(下痢あり)を除き, 他の保菌者には明確な症状が認められなかったことが特徴であった。施設12カ所の拭き取り検査については, EHECは検出されなかった。

当該施設では入所者は3食, 通所者は昼食のみ同じ食事を喫食していた。施設の浴室は男女別室で, 入浴日に男性, 女性全員がそれぞれの大浴槽で入浴していた。お湯は午前と午後で入れ替えを行っていた。患者の血便を発見したのは患者が入浴した後のことだった。

検便や調査の結果, 保菌者が女性に多かったこと, 初発患者を入れた浴槽を他の女性も使ったことなどから, 施設の食事が原因ではなく, 入浴で感染が広がったと推察される。男性の保菌者については, 入所者は初発患者と同じホールを使用しており, ソファや窓の桟など患者が触った場所に付着した菌から感染が広がったと考えられる。通所者の男性は, 初発患者が使用した食堂のテーブルで食事をしており, 保菌者の女性と同一のイスを使用することもあったことから, 食堂で感染した可能性が高いと考えられる。また, 職員は, 患者の排便介助をしており, その際に感染した可能性が高い。初発患者は, 発症前に一時帰省しており, その間に感染した可能性も考えられるが, 帰省先家族には特に異常は無く, 原因となるような食事も見当たらず, 感染源ははっきりしなかった。

9月22日に最後の保菌者の陰性化を確認, その後, 健康調査の結果, 新たな患者の発生がないことを確認し, 9月25日に本事例は終息した。

MLVA法による解析

本事例で検出された計21株のEHEC O121について, 国立感染症研究所(感染研)に送付して反復配列多型解析(MLVA)法による解析を依頼したところ, 4種類のMLVA型が検出され, 初発患者を含め大多数が17m5027, 他に18m5034, 18m5033, 18m5035であった。17m5027に対して, 18m5034は1遺伝子座において異なる (SLV), 18m5033, 5035は2遺伝子座において異なる(DLV)で類似していた。17m5027と18m5033や18m5035との間のDLVはプラスミドの脱落が原因とみられる変化であったので互いに類縁株と考えられた。

なお, 同時期に県外でハンバーガー店を原因施設とするEHEC O121 (VT2) 集団発生が起きていたが, MLVA型は異なり, 関連性は見当たらなかった。また, 県内で同年に検出されたO121 (18m5007, 18m5008) ともMLVA型は異なっていた。

過去にも県内でO121による集団事例が2009年に1件起きており, 本事例(2018年事例)初発患者の帰省先に隣接する市町村の保育施設で発生していたので, 関連性の有無を調べるため, 2009年事例株についても感染研にMLVA解析を依頼した。

その結果, 2009年の事例株のメジャータイプは16m5009で, 2018年事例のメジャータイプ17m5027とはDLVであった。しかし, このDLVはプラスミド以外の変化に起因していたため類縁ではないと判定され, 2009年の事例と本事例との関連性は見い出せなかった。

検査における工夫

当センターでは, 選択性の高さからEHECの分離にクロモアガーSTEC培地(関東化学)を多用しているが, 本事例のEHEC O121株は, この培地上で24時間培養後の時点では発育が抑制されており, 通常の大きさにコロニーが発育するのに48時間を要した。そこで, DHL寒天培地(栄研化学), XM-G寒天培地(日水製薬) の使用を検討したところ, 本O121株はDHL寒天培地上で24時間培養後の時点では糖非分解コロニーを形成し, その後徐々に赤色化することが分かった。検査の効率化を図るため, 便乳剤をクロモアガーSTEC培地とDHL寒天培地に画線塗抹すると同時にTSB培地(Becton Dickinson)に接種して一晩培養し, TSB培養液からDNAを抽出してPCR法によりベロ毒素(VT)遺伝子を検索, VT遺伝子陽性となった検体に対応するDHL寒天培地から糖非分解コロニーを目印に釣菌するという方法をとった()。TSBでVT遺伝子陽性であった検体の中にはこの方法で菌分離ができないものもあり, その際には48時間培養後のクロモアガーSTEC培地から釣菌や, O121免疫磁気ビーズを繰り返し使用して分離した。

謝辞:本事例の調査にあたり, MLVA解析を実施していただきました国立感染症研究所細菌第一部の皆様に深謝いたします。

 

大分県衛生環境研究センター
 佐々木麻里 神田由子 後藤高志 成松浩志
大分県福祉保健部
 古河美由紀 田代潔子 鳴海有紀子 藤原清美 樫山浩士 大神貴史

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