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腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2018年

(IASR Vol. 40 p82-83: 2019年5月号)

溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の一つである。感染症発生動向調査で2018年に報告されたEHEC感染症のHUS発症例に関してまとめを報告する。

HUS発生状況

感染症発生動向調査に基づくEHEC感染症の報告数(2019年3月20日現在, 以下暫定値)は, 2018年〔診断週が2018年第1~52週(2018年1月1日~2018年12月30日)〕が3,851例(うち有症状者2,580例:67%)で, そのうちHUSの記載があった報告は69例であった。性別は男性22例, 女性47例で女性が多かった(1:2.1)。年齢は中央値が6歳(範囲:1~79歳)で, 年齢群別では0~4歳が27例(39%)で最も多かった。有症状者に占めるHUS発症例の割合は全体で2.7%, 年齢群別では0~4歳が6.5%で最も高く, 次いで5~9歳が4.8%, 6歳以上が2.6%の順であった()。

EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体

診断方法は, 菌の分離が47例(68%), 患者血清によるO抗原凝集抗体の検出が21例(30%), 便からのVero毒素(VT)検出が1例(1%)であった()。

菌が分離された47例の血清群と毒素型は, 血清群別ではO157が全体の70%(33例)を占め, 毒素型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が87%(40例;複数菌分離の1例を除く)を占めた。また, 患者血清のみで診断された21例のうち, O抗原凝集抗体が明らかになった10例の内訳は, O157が8例, O111, O121が各1例であった。

感染原因・感染経路

確定または推定として報告された感染原因・感染経路は, 経口感染が39例(57%), 接触感染が6例 (9%), 動物・蚊・昆虫等からの感染が4例(6%), 「記載なし」または「不明」の報告が20例(29%)であった。経口感染と報告された39例中19例に肉類の喫食が記載され, うち生肉(ユッケ, レバー, 牛刺し, 加熱不十分な肉等)の記載は5例(馬刺し2例, ユッケ1例, 生センマイ1例, 生の鶏肉1例)であった。

臨床経過(症状・転帰)

保健所への届出時に報告された臨床症状は, 昨年と同様に腹痛, 血便の出現率がそれぞれ83%, 80%と高く報告されていた。また, 届出時に脳症を合併していた症例は8例(12%) であった。届出時点で報告されていた死亡は1例(5歳未満)で, HUS発症例全体での致命率は1.4%であった。

考察

2018年に報告されたHUS発症69例は, 現在の届出基準で比較可能な2006年以降で過去最少であり, 有症状者に占めるHUS発症例の割合2.7%は過去最低であった。10歳未満の小児が多数を占め, 女性が多いという傾向は従来通りであった。

感染原因・感染経路では, 例年同様 「肉類の喫食」 が一定数報告されており, うちEHEC感染リスクが高いとされる生肉喫食の記載も依然として数例報告されていた。EHEC感染に伴うHUS等の重症化の要因は不明な点が多いため, EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHEC感染予防として, 生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること, 食事前の手洗い, 調理時の食品の適切な取り扱い等の基本的な食中毒予防だけでなく, 保育施設や家庭内での患者との接触後や, 動物との接触後に十分な手洗いを行うなどの注意を払うことも重要である。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター

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