国立感染症研究所

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急性脳炎の病原体検索に関する地衛研の取り組み―茨城県

(IASR Vol. 40 p95-96:2019年6月号)

はじめに

急性脳炎は5類感染症の全数把握疾患である。診断したすべての医師に届出が義務づけられており, 急性脳炎を引き起こす感染症の実態を解明することが重要な課題となっている。そのため, 当所では本県医師会と連携・協議し, 茨城県感染症発生動向調査事業実施要項の改定を行い, 2014年から本県独自様式を用いた急性脳炎の病原体検索を実施している。

急性脳炎検査の流れ

検査工程は図に示した通りである(図1)。

保健所から検査依頼があった際は, 「一類感染症, 二類感染症, 三類感染症, 四類感染症, 五類感染症, 新型インフルエンザ等感染症及び指定感染症検査票(病原体)」, 「急性脳炎発生届」の写しおよび「急性脳炎病歴及び症状等記入用紙」(本県独自様式)を用いて患者情報の把握に努めている。「急性脳炎病歴及び症状等記入用紙」(本県独自様式)には, 髄液検査所見やMRI所見等の急性脳炎に特異的な記入欄を設けている。また, 診察した医師が関与を強く疑う病原体に順位をつける欄も設けることで, 検査対象となる病原体を選定する重要な情報となっている。

神経症状を呈する場合の検査は, 急性脳炎の原因病原体を網羅的に判定可能なリアルタイムPCR法を確立し, 導入している。さらに, 呼吸器症状や胃腸炎症状を呈している場合はそれらに関与する病原体の検査も積極的に実施している。検査終了後は, 診察した医師から「最終診断名及び転帰」(本県独自様式)の情報提供を受け, 検査結果と紐付けを行っている。

検査および検出状況

過去3年間(2015年1月~2017年12月)の検査数は計215例(2015年65例, 2016年66例, 2017年84例)であり, 年間を通じて検査依頼があり季節性はなかった。また, 病原体が検出された症例は122例(56.7%)であり, 3歳未満児が多く91例(74.6%)を占めた。なお, 病原体が検出された中で急性脳炎と最終診断された症例は53例(43.4%)であった()。

急性脳炎確定症例における検出病原体は, ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6), インフルエンザウイルス, A群ロタウイルス(ARV)の順に多く, 計14種のウイルスが検出された(図2)。神経症状に加えて呼吸器症状を呈した症例からはインフルエンザウイルスの他に, RSウイルス(RSV)やヒトパラインフルエンザウイルス2型(HPIV2)が, 胃腸炎症状を呈した症例からはARVの他に, ノロウイルス(NoV)GIIが検出された。4症例(HHV-6, RSV, NoVGII, ARVおよびNoVGIIを検出)においては, 中程度または重度の後遺症を残した。 

まとめ

急性脳炎は後遺症が残ることもある重篤な疾病であり, 病原体の特定は正確な急性脳炎症例の確定に重要である。原因病原体も多岐に渡るため, 本県では積極的に多項目の病原体検査実施および患者情報の把握に努め, 正確な急性脳炎の届出に寄与している。今後も引き続き急性脳炎の病原体検索を実施し, 医療機関と連携し, 知見の集積に努めていきたい。

 

茨城県衛生研究所
 後藤慶子 大橋慶子 齋藤 葵 大澤修一 本谷 匠
 岩間貞樹 梅澤美穂 永田紀子 柳岡利一

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