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HHV-6脳炎・脳症

(IASR Vol. 40 p104-105:2019年6月号)

はじめに 

Human herpesvirus 6(HHV-6)は6番目に発見されたヒトヘルペスウイルスで, 二つのspeciesに分けられている。乳幼児期の熱性発疹性疾患である突発性発疹(突発疹)の起因ウイルスはHHV-6Bであり, 本邦をはじめとした先進国でのHHV-6A感染は極めて稀で初感染臨床像も未だ明確になっていない。HHV-6Bの中枢神経病原性はこれまでのin vitro, in vivo研究で明らかになっており, 初感染時の熱性けいれん, 脳炎・脳症例に加え, 臓器移植患者をはじめとした免疫不全宿主でのウイルス再活性化に伴う脳炎も問題となっている。 

初感染時の脳炎・脳症 

突発疹罹患時には大泉門膨隆を認めることが多く, 熱性けいれんの合併率も他の熱性疾患に比べて高いため, HHV-6B発見前より突発疹起因病原体の中枢神経系への直接侵襲の可能性が示唆されていた。HHV-6B初感染時の中枢神経合併症の中で, 最も重篤な合併症である脳炎・脳症は, 全国調査の結果本邦で年間約60~100例程度発生していると推計されており, HHV-6とHHV-7をまとめると, わが国ではインフルエンザウイルスに次いで2番目に多い起因ウイルスである1)。神経症状は有熱期あるいは解熱後発疹が出現してから認められるものなど様々である。髄液中ウイルスDNA量は初感染時の脳炎・脳症例では検出率も低くその量も極めて少ない2)。また, 患者血清や髄液中バイオマーカーの解析結果から, 初感染時の脳炎・脳症発症にはインフルエンザ脳症などと同様サイトカインが重要な役割を演じていることが明らかになっている。さらに, 血清や髄液中IL-6濃度が神経学的後遺症の予測に有用とする報告もある2)。 

初感染時のHHV-6B脳炎・脳症について, 臨床症状や神経放射線学的所見に基づき病型分類が可能になっている。当初, インフルエンザウイルスと同様にHHV-6Bが急性壊死性脳症(図A)の起因病原体として注目されたが, その後は有熱期にけいれん重積で発症し一旦意識障害が改善したのち, 解熱し発疹が出現した頃に再びけいれんが群発するけいれん重積型急性脳症(AESD)との関連性が注目されている。頭部MRIの拡散強調画像では皮質下白質に高信号病変を認め, その中には前頭葉を主として障害する乳幼児急性脳症(図B3), あるいは片側大脳半球の高信号域を認め, 反対側の麻痺を呈し, その後てんかんを発症する片側けいれん・片麻痺・てんかん症候群なども含まれる(図C3)。各脳症病型のサイトカイン解析から急性壊死性脳症の病態はサイトカインストームであるが, AESDは細胞興奮毒性が主要な病態と推察されている。 

免疫不全宿主における再活性時の脳炎 

造血幹細胞移植(HSCT)後のHHV-6B再活性化による合併症の中で, 脳炎が最も因果関係が明確な臨床像で移植患者の死亡率上昇にもつながっているため, 予防法, 治療法の開発が急務となっている。本邦の報告ではその発生頻度は2~3%である4)。脳炎発症の好発時期は移植後2週間~1カ月半頃の移植後早期に多く, リスクファクターとして男性, 臍帯血移植後HLAミスマッチ, 複数回の移植などが報告されているが, 移植片対宿主病(GVHD)の予防薬としてのカルシニューリン阻害薬やミコフェノール酸モフェチル投与をリスクファクターにとする報告もある。また, HSCT患者だけでなく, 固形臓器移植, 白血病の化学療法中, drug induced hypersensitivity syndromeという重症薬疹に伴うウイルス再活性化時にも脳炎の報告があるため, 移植後だけでなく他の免疫不全患者での脳炎・脳症の原因としてもHHV-6B再活性化を考慮する必要がある。移植後のHHV-6B感染に伴う脳炎は, 移植後急性辺縁系脳炎(post-transplant acute limbic encephalitis: PALE)の臨床病型をとることが多く, 前向性健忘, ADH不適合分泌症候群(SIADH), 軽度髄液細胞数増多, 側頭部の脳波異常を伴うてんかん発作, およびMRIにおける辺縁系の高信号が特徴的である4)。このような症例の髄液中ウイルスDNA量は非常に多く, 突発疹罹患時の脳炎・脳症例に比べ明らかに多量のウイルスDNAが存在している2)。PALEは成人例がほとんどで, 小児例は少ないと考えられる。 

移植後HHV-6B脳炎の病態は一次性脳炎と考えられ, 抗ウイルス剤投与は病態に合った治療戦略と考えられる。ウイルス特異的チミジンキナーゼを欠くHHV-6Bにはアシクロビルは無効だが, ガンシクロビル(GCV), ホスカルネット(PFA), およびシドフォビルについては抗ウイルス効果が確認されている。特にGCVおよびPFAは髄液中にウイルスDNAが検出された症例において, これらの抗ウイルス薬使用に伴いウイルスDNA量が速やかに減少, 消失した報告があり, 2019年3月には世界で初めて, わが国においてPFAがHSCT後HHV-6脳炎治療薬として承認された。 

まとめ 

HHV-6Bは, 乳幼児期の初感染時だけでなく主に免疫抑制状態下にある成人での再活性化時にも脳炎・脳症の原因として注目されている。造血幹細胞移植後のHHV-6脳炎に対して, わが国で世界に先駆けPFAが抗ウイルス薬として承認されたことは特筆すべき点である。

 

参考文献
  1. 森島恒雄, 小児の急性脳炎・脳症の現状, ウイルス 2009; 59: 59-66
  2. Kawamura Y, et al., J Clin Virol 51: 12-19, 2011
  3. Kawamura Y, et al., Brain Dev 35: 590-595, 2013
  4. Ogata M, et al., Clin Infect Dis 57: 671-681, 2013
 
 
藤田医科大学医学部 小児科学 吉川哲史
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