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風しんの全数検査移行に伴う地方衛生研究所の対応状況―愛知県

(IASR Vol. 40 p133-134:2019年8月号)

1.はじめに

一部改正「風しんに関する特定感染症予防指針」1)の2018(平成30)年1月適用に伴い, 愛知県も2018年より, 風しん疑い事例には原則として全数にウイルス遺伝子検査を実施する体制に移行した。本稿では全数検査対応について, 愛知県衛生研究所が担当しているウイルス検査(名古屋市内医療機関提出分を除く), および患者情報提供(名古屋市はじめ保健所設置市からの報告を含む)を中心に述べる。

2.愛知県における風しん患者報告状況と風疹ウイルス(RUBV)検査体制の変遷

に, 風しんが全数届出対象となった2008年以降2018年までの各年について, 名古屋市を含む愛知県内からの風しん患者報告数, 届出患者におけるウイルス検出検査(遺伝子あるいは分離同定)実施率, 抗体検査(IgM検出あるいはペア血清)実施率を示した。2008年の全数届出への移行当初より, 医療機関からの風しん届出はおおむね検査診断に基づいて行われており, 医療機関による抗体検査提出率は, 毎年50%を超えている。一方, 保健所等を通じて地方衛生研究所(地衛研)に検体が提出されるウイルス検査実施率は指針改正以前は2016年の25%が最高であったが, 改正後の2018年は64%に達した。

に, 2012年1月~2018年12月の期間に当所が担当した, 名古屋市を除く年別ウイルス検査状況を示した。前回の風しん流行が始まった2012年には, Koplik斑などの所見に基づき「麻しん」として提出された検体のウイルス検査を実施したところ, 風しんウイルス(RUBV)が検出された事例2)を複数経験した。

当所では2010年遺伝子型D9輸入麻しん検査対応3)を契機に, 麻しん疑い検体にnested RT-PCR法による麻しんウイルス(MeV)HおよびN遺伝子検査を実施し, 2011年からは, MeV陰性事例にconventional PCR法によるパルボウイルスB19(B19V)およびnested double RT-PCR法によるRUBV NS遺伝子検査を追加実施している。風しん患者報告数増加に対応して2012年7月からMeVとRUBV検査を同時に実施4)することとし, 2019年4月にnested double RT-PCR法からリアルタイムRT-PCR法5)に切り替えて現在に至っている。遺伝子陽性例は, RT-PCR産物のダイレクトシークエンスにより遺伝子型決定を行うが, コピー数が少ない等の理由で遺伝子型を決定できないことがある。さらに新鮮な患者検体を扱う機会に恵まれている地衛研の使命としてウイルス分離チャレンジを継続しており, 国立感染症研究所へのMeVとRUBV提供実績がある。

3.患者発生情報提供体制の変遷

風しん検査体制の強化に併せて, 愛知県では風しん患者調査事業が開始された6)。2007年2月より継続中の麻しん患者調査事業と同様に, 保健所設置市を含む愛知県で発生した風しん患者に関する情報を, 原則として情報到着から1開庁日以内に, 当所企画情報部がウェブページに公開している。

4.地衛研によるRUBV検査の意義

愛知県の推計人口は, 2019年5月1日現在7,547,239人(うち名古屋市2,324,793人)と都道府県別では国内で4番目に多い。また愛知県の在留外国人は, 東京都に次ぐ242,978人(2017年末現在)を数え, 国籍はブラジル, 中国, フィリピンなどが多い。麻しん, 風しん常在国との人的交流は, 輸入事例を疑うMeV, RUBV検査依頼が途切れないことにも反映されている。

潜伏期が長く軽症例の多い風しんは, 麻しんに比べ感染源の特定に至らない事例が多い点は千葉県等7)と同様である。麻しん, 風しん疑い患者検体からRUBVが検出2)されれば, 診断精度の向上に加えて分子疫学解析による感染源の探索や排除達成に必要な分子疫学情報(排除状態 vs 土着株の継続)の把握8)にもつながる。MeV9)と同様RUBVについても, 遺伝子検出および遺伝子配列決定検査精度を確保する必要がある。一方ウイルス検出率の高い時期の検体が得られなかった症例では, 引き続き医療機関による抗体検査が欠かせない。近い将来, MeVとRUBVを含む発疹症病原体のPOCT(point-of-care test)スクリーニングキットが開発されることを期待したい。

謝辞:感染症発生動向調査および愛知県麻しん風しん患者調査事業にご理解ご協力いただいている関係者, 医療機関, 行政および名古屋市衛生研究所の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 厚生労働省 風しんに関する特定感染症予防指針(平成29年12月21日一部改正)
  2. Kimura H, et al., Front Microbiol 10: 269, 2019
  3. 安井善宏ら, IASR 31: 271-272, 2010
  4. Yasui Y, et al., JJID 67: 389-391, 2014
  5. 森 嘉生ら, IASR 39: 35-36, 2018
  6. 麻しん・風しん患者調査事業を実施しています(愛知県衛生研究所ウェブページ)
    http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/2f/msl/msl.html
  7. 小川知子ら, 臨床とウイルス46: 353-362, 2019
  8. Minagawa H, et al., Vaccine 33: 6043-6048, 2015
  9. 調 恒明ら, IASR 40: 61-62, 2019

 

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