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風疹HI抗体価(1:8以下)の読み替えに関する検討

(IASR Vol. 40 p137-138:2019年8月号)

はじめに

風疹の抗体価測定は, 従来より赤血球凝集抑制試験(hemagglutination inhibition test:HI法)により実施され, 一般的にHI抗体価が発症予防や予防接種が必要な目安として用いられてきた。しかし, HI法は血清の希釈列の作成が必要であり, 一度に多数の検体を測定するのは煩雑であることや, 使用する血球の動物種が限定されている等の課題がある。

わが国において2013年に風疹の全国的な流行がみられ, 診断および感受性者の判別等, 抗体価測定の需要が高まっていたが, HI法で使用するガチョウ血球の入手が困難となり, HI法以外の方法で抗体価を測定する必要が生じた。そこで, 我々は同一血清におけるHI法, 酵素免疫法(enzyme immunoassay:EIA法), ラテックス免疫比濁法(latex turbidimetric immuno-assay:LTI法)等による測定結果を用い, HI抗体価1:16以下に相当する各抗体価の目安を検討した(2019年2月一部改訂)1)

2018年には都市部を中心に再び風疹の流行が発生し, 報告患者の多くは30~50代の男性であり, これまでに定期接種として風疹含有ワクチンの接種機会がなかった世代であった2)。この世代における感受性者対策として, 2022年3月31日までの間に限り, 1962年(昭和37年)4月2日から1979年(昭和54年)4月1日までの間に生まれた男性(対象世代の男性)が風しんに係る定期の予防接種における第5期の対象者として追加された。ただし, 風疹のHI抗体価が1:8以下相当の者に限られ, 抗体価測定を事前に行う必要がある。そこで今回は複数の方法で測定された抗体価について, HI抗体価1:8以下に相当する目安を検討した。

対象と方法

本検討は国立感染症研究所 ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会の承認の下に実施し, 本人の同意を得て成人ボランティアから採取された血清182検体を用いた(下記③には181検体, ⑦および⑧には178検体を用いた)。今回の検討においては, ①ウイルス抗体EIA「生研」ルベラIgG(デンカ生研株式会社), ②バイダス アッセイキット RUB IgG(シスメックス・ビオメリュー株式会社), ③エンザイグノストB風疹/IgG(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社), ④ランピア ラテックスRUBELLA(極東製薬工業株式会社), ⑤アクセス ルベラIgG(ベックマン・コールター株式会社), ⑥i-アッセイCL風疹IgG(株式会社保健科学西日本), ⑦BioPlex MMRV IgG(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社), ⑧BioPlex ToRC IgG(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)の8キットを用いた()。

HI抗体価1:8以下に相当する抗体価については, 各測定方法で得られた抗体価からROC解析により検討し, 理想的なカットオフ値である感度100%・特異度100%を示す点(基準点)からROC曲線上の最も距離が近い値を示した抗体価, およびYouden index(感度+特異度-1)が最も大きい値を示した抗体価とした。

結 果

風疹HI抗体価1:8以下に相当する抗体価は, ①のキットでEIA価6.0未満(基準点からの距離/Youden index:0.19/0.73 ※以下同じ), ②のキットで25 IU/mL未満(0.09/0.88), ③のキットで15 IU/mL未満(0.09/0.88), ④のキットで15 IU/mL未満(0.04/0.96), ⑤のキットで20 IU/mL未満(0.06/0.94), ⑥のキットで抗体価11未満(0.17/0.77), ⑦のキットで1.5 AI未満(0.14/ 0.81), ⑧のキットで15 IU/mL未満(0.12/0.85)であった。

なお今回の検討結果については, 国立感染症研究所のホームページ上(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/Rubella-HItiter8_Ver2.pdf)にも掲載されている。

おわりに

2018年にみられた風疹の流行は2019年も継続しており, 第23~25週は1週間あたり50~60例の患者が届出されている。また, 第1~25週までの累積届出数をみると男性の約半数(700例/1,473例)は40~50代であり, 全体の約4割(700例/1,848例)を占めていた(2019年6月26日現在)3)。この世代の男性は第5期の対象者であり, 今後, 抗体価測定者の増加ならびに低抗体価(HI抗体価1:8以下相当)の者の接種率の上昇が期待される。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 風疹HI抗体価(1:16以下)の読み替え等に関する検討
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/RubellaHI-EIAtiter_Ver3.pdf
  2. 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査2018年速報データ
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/3086-rubella- sokuhou-rireki.html
  3. 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査2019年第25週速報データ
    https://www.niid.go.jp/niid//images/idsc/disease/rubella/2019pdf/rube19-25.pdf

 

国立感染症研究所
 感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子
 ウイルス第三部 森 嘉生

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