国立感染症研究所

IASR-logo
 

台湾における急性A型肝炎アウトブレイク

(IASR Vol. 40 p151-152:2019年9月号)

2015年6月以降, 台湾において急性A型肝炎アウトブレイクが発生した。このアウトブレイクに関連して行われた台湾での2つの調査研究にかかわる論文の要旨をまとめた。

台湾疾病管理予防センター(台湾CDC)は, 2015年6月に全数報告対象疾患である急性A型肝炎の増加を探知した。2014年の初めには, 台湾CDCは強化サーベイランスとして, 患者と環境の検査, 仮説作成のための質問票によるインタビューが開始されていた。急性A型肝炎患者の血清もしくは便のサンプルは, ウイルス検出と遺伝子配列検査のために国立の検査室に送られた。下水を用いた環境サーベイランスはポリオ根絶対策の一環として台湾全土の排水処理施設10カ所について2012年に開始されており, 2015年7月にA型肝炎ウイルス(HAV)検査が開始された。

アウトブレイク症例は, 2015年6月以降に発症し, TA-15アウトブレイク株(GenBank登録番号:KX151425, 遺伝子型IA)との塩基配列の違いが0.5%未満である急性A型肝炎患者と定義された。強化サーベイランスが開始された2014年1月~2016年2月までの期間の, アウトブレイク症例(145例)と非アウトブレイク症例(154例)について, 症例の特徴と食品の曝露を解析した。

2015年6月~2017年9月までに報告された急性A型肝炎患者1,563人の, 年齢中央値は31歳(四分位範囲 (IQR): 26-38), 男女比は8.8, 585人(37%)がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していた。 TA-15株は, 遺伝子配列の結果が得られた急性A型肝炎患者の82%(852/1,033), 2015年7月以降に検査された下水サンプルの14%(74/540)で検出された。TA-15株による感染は, HIV感染, 性感染症(STI), 直近の口腔-肛門性交, 男性間性交渉者(MSM)と関連していた。

台湾CDCは, 2016年1月から急性A型肝炎患者の濃厚接触者と性的パートナーに無料のHAVワクチン接種を開始した。2016年10月以降, 無料のHAVワクチンキャンペーンの対象を拡大し, 1977年以降に出生し, HIV感染者であるか, 最近梅毒か淋病と診断された者を対象とした。2017年3月以降は, 1977年以前の出生でHAV抗体陰性のHIV患者もキャンペーンの対象に加えられた。2017年9月18日までに, 対象の62%(15,487/24,879)が少なくとも1回のHAVワクチン接種を受けた。

2016年にヨーロッパにおいてMSMにおけるHAVアウトブレイクが発生しており, 今回のTA-15株は, オランダや他のヨーロッパ諸国で検出されたEuroPride株(RIVM-HAV16-090)と類似していた。同様のアウトブレイク株は, 2017年にも米国で検出されていた。

今後も, リスク集団へのHAVワクチン接種, および対策の効果をモニタリングするための継続的なサーベイランスが推奨される。

もう一方の研究では, 2015年6月以降, 台湾でMSMにおいて発生した前例のない急性A型肝炎のアウトブレイクに際し, HIV治療の最も大きな拠点病院であるNational Taiwan University Hospital(NTUH)において, HIV陽性患者におけるHAV感染に関する血清疫学, およびHAVワクチン接種と急性A型肝炎の発生の関連を明らかにすることとした。

2012~2016年までのHIV陽性者のHAV抗体保有状況, ワクチン接種歴, 臨床的特徴を後方向視的にレビューし, 急性A型肝炎の関連因子を特定するために症例対照研究を実施した。また, アウトブレイク期間中におけるHAV抗体陰性者のHAVワクチン接種率と急性A型肝炎罹患率の推移が調査された。

54カ月の調査期間中に, NTUHを受診したHIV陽性患者のうち, 過去にHAVの抗体検査を一度も受けていない771例(27.0%)が調査対象から除かれ, 2,088人が対象に含められた。調査対象の, 年齢平均値は37.7歳, MSMが90.2%であった。全体のHAV抗体保有率は34.3%であったが, 40歳以下のMSMにおいては19.6%であった。フォローアップ期間中において, 46例が急性A型肝炎と診断され, これらはすべてMSMであった。うち4例はワクチン接種後に発症した。症例対照研究において, 急性A型肝炎の関連因子は, 直近の梅毒感染およびHAVワクチン未接種であった。

調査期間中に, HAV抗体陰性者のうち68.9%(944/ 1,371)が少なくとも1回のHAVワクチンを受けた。それらのほとんどは, アウトブレイクが発生して以降に, ワクチン接種を受けた。HAV抗体陰性者のHAVワクチン接種率は, アウトブレイク初期においては4.7%であったが, 調査期間終了時には70.6%に上昇した。

アウトブレイク中の急性A型肝炎罹患率は, 52.6/ 1,000人年であった。HAVワクチン接種者またはHAV抗体保有者の割合が65%に達したときに, 集団における急性A型肝炎罹患率が減少した。

今回の調査を通じて, HIV陽性患者において, HAV抗体陽性割合が全般的に低く, 特に40歳以下のMSMにおいて低いことがわかった。これが, リスクのある性行動とHAVワクチン接種推奨に従わないことと相まって, 急性A型肝炎のアウトブレイクの進展を促進した可能性がある。アウトブレイク中のHAVワクチン接種による集団免疫の上昇によって, HIV陽性のHAV抗体陰性者における急性A型肝炎予防が達成された。

 
 
(Euro Surveill 24(14): pii=1800133, 2019)
(Chen GJ, et al., Liver Int 38: 594-601, 2018)
(抄訳担当:感染研感染症疫学センター 渡邉佳奈 藤倉裕之 松井珠乃)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version