国立感染症研究所

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A型肝炎ウイルスによる食中毒

(IASR Vol. 40 p154-155:2019年9月号)

1.事例内容

2018(平成30)年6月, 京都市内の医療機関から複数のA型肝炎患者発生の届出が本市にあり, それぞれの患者について感染症および食中毒の両面による調査を実施したところ, 飲食店Bを共通利用していることが判明した。患者らの疫学調査および喫食調査の結果, 同一日に飲食店Bの利用はなかったが, 他に感染症を疑うエピソードもないことから, 食中毒が強く疑われた。

そこで, 本市による検便を実施したところ, 患者4名(E, F, G, およびJ)から, A型肝炎ウイルス(IA型, RIVM-HAV16-090株)が検出された()。

検便未実施2名を含む患者6名の飲食店Bにおける喫食から発症までに要した時間は33日(中央値)であり, A型肝炎ウイルスの感染から発症までの潜伏期間にもおおよそ合致していた。

飲食店Bの施設調査および調理従事者24名の検便を実施したところ, 従業員CおよびDからA型肝炎ウイルス(IA型, RIVM-HAV16-090株)が検出された()。

このうち, 従業員Dは, 飲食店Bのホール担当であり, 調理には直接携わっていないが, 従業員Cについては本件探知以前に, 既にA型肝炎患者として本市医療機関から発生の届出があり, 従事施設である飲食店Bへの報告について指導していたが, 飲食店Bの店長Xに病状について報告することなく調理に従事し続けていた。

また, 原因食品を追求するために, 患者6名の喫食調査を実施したが, 施設利用日から1カ月を超えていたため, 詳細な喫食調査ができず, 統計学的解析による原因食品の推定を行うことができなかった。

しかし, 飲食店Bにおける喫食メニュー調査からEおよびFはランチ, G~Jはディナーを利用していたことが判明した。EおよびFからの聴取内容では異なるメニューを注文していたが, 店長Xからの聴取により, ランチはセットメニューとして提供しており, メインのパスタおよびピザ以外の前菜等は同一のものであることが判明し, 従業員Cが作り置きしていたキッシュ(前菜の1つ)が含まれていた。患者5名(F~J)の飲食店Bの利用日には, 従業員Cが勤務, 調理を行っており, 患者Eは従業員Cの勤務日でない日に飲食店Bを利用しているが, 従業員Cにより作り置きされたキッシュを喫食した可能性があると思われる。

さらに, 飲食店Bの全従業員は調理従事中に手袋の着用はなく, 素手で調理や盛り付け等の作業を行っていることが分かった。

なお, 従業員Dは従業員Cがトイレで嘔吐した直後にトイレを使用していたことから, 従業員Cからの感染が疑われた。

以上のことから従業員Cから調理食品を介しての食中毒であると断定し, 飲食店Bに3日間の営業停止を命令した()。

2.課題および検討

(1)法的に就業制限措置を講じられない問題

感染症法に基づく4類感染症への就業制限規定はないため, 患者や無症状保菌者(患者等)に対して法的な制限はないが, 食品を取り扱う業務に従事していた場合, 業務の制限について指導することになる。しかし, 指導に従わなかったとしても, 個人情報保護の観点から, 患者等の了承なく, 行政側から従事施設に感染症の情報を伝えることはできない。現在のところ, 患者等への理解と協力を求める以外に方法はないと考える。

(2)潜伏期間が長いことによる問題

A型肝炎は潜伏期間が長く, 散発的な患者発生となることが多いため, 原因施設の早期特定は困難となる場合が多い。このため関係者の記憶が曖昧になり正確な聴取や確認ができず, 十分な調査が実施できないので, 感染症担当との情報共有により, 原因施設の迅速な特定を図ることが重要である。また, 患者への聴取は各々の記憶に頼るほかはないが, 施設側が衛生管理を記録することにより円滑な調査が可能になると考える。

3.考察

A型肝炎など感染症法に基づく就業制限を課すことができない調理従事者に対して, 我々食品衛生監視員の対応手腕が問われる事例であり, 行政指導の在り方や食中毒予防に向けた技術的助言の提供方法について再度熟考し, 効果的な対応につなげていかなければならないと考える。

また, 潜伏期間が長期となる食中毒の原因究明にあたり, 食品調理施設側の記録は重要なデータとなり得ることから, 今後, 食品衛生法の改正に伴い, HACCP(国際的な食品衛生管理手法)の考え方を取り入れた衛生管理が導入されることによって, 営業者の衛生管理に関する意識が向上し, 食品の安全性が高まることが期待される。

謝辞:本事例に関して遺伝子解析等を実施していただいた国立感染症研究所の職員の皆様, 京都市衛生環境研究所の職員の皆様, 関係各位に深謝いたします。 

 
 
京都市医療衛生センター南東部方面担当
 中村雄一 塩田幸弘 福田光治(*)
 渡辺真由美 齊藤貴之 亀山壽晴
 *:現京都市衛生環境研究所

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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