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SRC(日本レトロウイルス研究会)のご紹介

(IASR Vol. 40 p173-174:2019年10月号)

本稿では, SRC(Summer Retrovirus Conference)のご紹介をさせて頂きたい。当研究会は, 米国のCold Spring Harbor Laboratory Meetingを範とし, 日本でレトロウイルス研究に携わる若手研究者の研究交流を図る目的で1998年に第1回が開催された会である。その後, 歴代世話人の先生方を始め多くの方々のご支援により, 会はほぼ毎年開催されている。所属・ポジション・年齢などの壁を取り払い, 朝から晩までフランクに, 自由に討議することを主旨とした研究会であり, SRCをきっかけとした留学や共同研究なども生まれている活発な会合である。

本年度は筆者が世話人を拝命し, 7月29~31日の2泊3日で, 熱海市の伊豆山研修センターにてSRC2019 (第22回) を開催させて頂いた。国内14機関の48名のご参加を頂き, 盛会であったとの温かいお言葉にホッとしている現在である。3日間にわたり, 複製・病原性・動物モデル・伝播(細胞/個体/集団)・多型と宿主防御・感染in vivoモニタリング・細胞工学/介入療法・ウイルス/宿主共進化の8セッション, ならびに複製・病原性・免疫・共進化の4コアレクチャーと2つの関連他分野セッションを消化する日程であった。本年に限らず, 幅広いセッションが設けられているのがSRCの特徴といえる。一人当たりの持ち時間を多めに取り, 非常に活発な質疑が得られたと感じられた。夜の懇親会も, 時間制限が(一応)ないので, ディープな話に花が咲いた。

筆者は第6回(2003年)から参加しており, 本研究会が若手研究者育成, およびレトロウイルス研究の発展に確かな影響力を持つと感じている。ご存じの通り, 本邦の研究者はHIV, 成人T細胞白血病ウイルス(HTLV)を代表とするレトロウイルス研究において重要な役割を担ってきた。HIV研究では, HIV株の樹立, 抗HIV薬の作出, T細胞免疫の重要性実証, ワクチン開発などの重要な役割を果たしてきている。また急性T細胞性白血病(ATL)は1970年代に本邦で発見され, 以降HTLV病原性の解明, 母乳遮断等による伝播阻止, コホート解析など, 基礎―臨床―疫学の三位一体の取り組みにより疾患の克服が目指されている。これらの流れを保ち, 伸ばして行く意味でも, 分野の裾野を広げるこのような研究会はいつの時代も非常に意義深いものと考えられる。

この普遍性の一方で, 時代とともに研究会の位置づけは変わる面もある。SRC第1回の1998年はインターネットが黎明期で, 古い論文誌は図書館で探す必要があり, マイクロアレイは新手法であった。研究会の立ち位置には, 「一回の機会における研究知見の集積」という意義があったはずである。現在では, 知見は電子アーカイブで取れるようになり, シングルセル解析が浸透中である。この時世に, 研究会を開催する意義付けとは何か, それはやはり「研究の本音」を交わせることかと思われる。実際に会を開いた後も, この所感は強くなった。研究知見には必ず意図があり, それをカジュアルに語らうことができるのがSRC等の研究会である。特に若い方にとっては, 尋ねにくいことも直に肉声に触れられる貴重な機会と言える。著者も思い出補正のせいか, 昔どのような見地で研究していたか, シニアの先生方とやりとりをしていたのか忘れてしまうことがあり, それを呼び起こさせてくれる良い契機であった。今回, 学部や大学院の方とお話ししていて感じたのは, 感受性が非常に柔軟だということである。世代によって気風も少しずつ変化して行っているのは感じるところで, SRCは世代をまたいで研究が続いていくための潤滑油のような役回りかもしれない。

レトロウイルスは, 純ウイルス学的な研究対象であることに加え遺伝子導入ツールとしても汎用されている。さらに内在性レトロウイルスの研究も進展し, レトロウイルス学は当初のイメージより大きな広がりを持った存在へと変わってきている。従って, ご専門がレトロウイルス関連でなくともSRCに参加して得られるものは多いはずである。例えば今回は, レトロウイルス学を専門としない招待演者の先生方にもご登壇頂き, 非常に好評であった。レトロ縛りはどこに…と思いきやそうとも限らない。最近は学際的な研究が増えており, 見えないつながりが, 一見関係ない研究分野に眠っているかもしれない。こういったことも, 皆さんが敏感に感じ取って下さっていたように思う。アカデミックであれば自由で良い, という多少のゆるさにより, 硬直化せずに会が続いていける面もありそうである。新規の参加者が毎年得られていることからも, それはうかがえる。

2020年は熊本大学の門出先生のご主幹にて, 熊本で開催される予定である。ご関心をお持ち下さった方はぜひ筆者(h-yamatoアットマークnih.go.jp)にご一報をお願いしたい。お会いできますことを楽しみにしています。

 
 
国立感染症研究所エイズ研究センター
 山本浩之
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