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6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性:2013/14~2017/18シーズンのまとめ(厚生労働省研究班報告として)

(IASR Vol. 40 p194-195:2019年11月号)

背 景

インフルエンザワクチンの有効性研究は, 「複数シーズンにわたり, 統一的な疫学手法で継続的に有効性をモニタリングする」という考え方が主流になっている。欧米諸国で採用されている疫学手法は, 症例・対照研究の一種であるtest-negative designである。検査確定インフルエンザを結果指標としながらも, 受診行動に起因するバイアスを制御できるという利点がある1-4)

厚生労働省研究班(研究代表者・廣田良夫)では, test-negative design により, 6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの有効性を継続的にモニタリングしている。本稿では, 調査開始以降5シーズン(2013/14~2017/18シーズン)のまとめを, 公表済みの研究報告書から抜粋して述べる5-7)。なお, 2013/14シーズンと2014/15シーズンの結果は2016年のIASRでも報告しているが8), その後のシーズンの結果も含めてまとめるにあたり, データの取り扱いを統一して再解析した5)。当該2シーズンについては, IASR既報告分とはワクチン有効率の推定値が若干異なっていることをご了承いただきたい。

方 法

デザインは多施設共同症例・対照研究(test-negative design)である。2013/14シーズンは予備調査として大阪府(4施設)で実施し, 2014/15~2017/18シーズンは大阪府と福岡県(1シーズンあたり9施設)で実施した。研究期間は, 各地域におけるインフルエンザ流行期である。

対象者の適格基準は下記の通りである。

① 研究期間に, インフルエンザ様疾患〔ILI:38.0℃以上の発熱+(咳, 咽頭痛, 鼻汁and/or呼吸困難感)〕で参加施設を受診した小児

② 受診時の年齢が6歳未満

③ 38.0℃以上の発熱出現後, 6時間~7日以内の受診

その他, 調査シーズン9月1日の時点で月齢6か月未満の者などを除外した。

本研究のソース集団(研究対象者を生み出す集団)から研究対象者(病原診断の検査結果を有する者)を選定する過程で, 選択バイアス(selection bias)が生じることを回避するため3,4), 「偏りのない登録と検査」 を達成しうる系統的な手順をとった()。登録時, 対象者の個人特性に関する情報(含:インフルエンザワクチン接種歴)を収集するとともに, 全例から鼻汁を吸引し, real-time RT-PCR法でインフルエンザウイルス陽性の者を症例, 陰性の者を対照とした。条件付き多重ロジスティック回帰モデルにより, 「医療機関受診検査確定インフルエンザ」に対するワクチン接種の調整オッズ比(OR)を算出し, ワクチン有効率は (1-OR)×100%で推定した。

結 果

に, インフルエンザワクチン接種のORを示す。すべてのシーズンにおいて, 1回接種と2回接種の調整ORは1を下回っており, ワクチンが有効であることを示していた。2回接種の調整ORは0.37~0.59, すなわち有効率は41~63%であり, いずれも統計学的に有意であった。

2回接種の有効率を各シーズンの主流行株(2017/18シーズンは混合流行であったため最多の株)別にみると, 2013/14シーズンはA(H1N1)pdm型に対して56%, 2014/15シーズンはA(H3N2)型に対して50%, 2015/ 16シーズンはA(H1N1)pdm型に対して65%, 2016/17シーズンはA(H3N2)型に対して37%, 2017/18シーズンはB型(山形系統)に対して60%であり, いずれも統計学的に有意であった。

考 察

6歳未満児におけるインフルエンザワクチンの2回接種は, いずれのシーズンも有意な発病予防効果を示した。各シーズンの主流行株(混合流行のシーズンは最多であった株)と, 対応するワクチン株の抗原性の合致度は, 2013/14シーズン, 2015/16シーズン, および2017/18シーズンは良好であり9-11), 2014/15シーズンと2016/17シーズンは乖離していたと報告されている12,13)。シーズンごとの有効率の違いは, ワクチン株と流行株の抗原性の合致度を一定程度反映していると考えられた。

 

参考文献
  1. Jackson ML, et al., Vaccine 31: 2165-2168, 2013
  2. Foppa IM, et al., Vaccine 31: 3104-3109, 2013
  3. Fukushima W, et al., Vaccine 35: 4796 -4800, 2017
  4. Ozasa K, et al., J Epidemiol 29: 279-281, 2019
  5. 福島若葉, 他. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine prevent-able diseases)対策への適用に関する分析疫学研究 平成28年度総括・分担研究報告書, pp 30-44, 2017
  6. 福島若葉, 他. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究 平成29年度総括・分担研究報告書, pp 23-36, 2018
  7. 福島若葉, 他. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究 平成30年度総括・分担研究報告書, pp 27-39, 2019
  8. 福島若葉, IASR 37: 230-231, 2016
  9. 中村一哉ら, IASR 35: 254-258, 2014
  10. 中村一哉ら, IASR 37: 214-219, 2016
  11. 中村一哉ら, IASR 39: 184-189, 2018
  12. 中村一哉ら, IASR 36: 202-207, 2015
  13. 中村一哉ら, IASR 38: 212-218, 2017
 
 
厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興 感染症及び予防接種政策推進研究事業)
ワクチンの有効性・安全性の臨床評価とVPDの疾病負荷に関する疫学研究
定点モニタリング分科会長:福島若葉(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学)
共同研究者:森川佐依子 松本一寛 藤岡雅司 松下 享 久保田恵巳
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