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ロタウイルスワクチン導入後の流行株の変化

(IASR Vol. 40 p204-205:2019年12月号)

背 景

A群ロタウイルス(Rotavirus A: RVA)は, 乳幼児の感染性胃腸炎の主な原因ウイルスである。衛生環境によらず世界中に広く分布しているウイルスであり, 5歳までにほぼ100%のヒトがRVAに一度は感染すると考えられている。世界では, 5歳未満児のRVA感染による死亡者数は, 2013年の時点で年間215,000人と推計されているが, その大半はアフリカや東南アジア等の開発途上国で占められている1)。世界で広く利用されているRVAワクチンとしては, 単価のRotarix®(GSK)と5価のRotaTeq®(MSD)があり, いずれも経口の弱毒生ウイルスワクチンである。これらのワクチンの導入により, 5歳未満児の死亡者数は年々減少傾向にある。わが国でも2011年11月にRotarix®, 2012年7月にRotaTeq®が導入されて以降, ロタウイルス胃腸炎の患者数は大幅に減少しつつある2-4)

RVAの遺伝子型

RVAのゲノムは11本の遺伝子分節からなる2本鎖RNAであり, 6種類の構造タンパク質(VP)と6種類の非構造タンパク質(NSP)がコードされている。各遺伝子分節には20以上の遺伝子型が存在しているため(), その遺伝子型の組み合わせは多岐にわたる。その中でも中和抗原を有する2種類のタンパク質, VP7(外殻タンパク質, G型)およびVP4(スパイクタンパク質, P型)の遺伝子型が血清型を反映していることから, これら2つの遺伝子型別調査が従来から重視されてきた。ワクチン導入以前は, 世界的にG1P[8], G2P[4], G3P[8], G4P[8], G9P[8]の5種類がヒトRVA流行株の大半を占めることが知られていた5)。しかし, RVAは分節型のゲノムを持つため, 複数のウイルス株が同一個体に重複感染した際に遺伝子再集合(リアソートメント)が起こり, 新しい遺伝子型構成のウイルスが発生することがある。そこで, このような遺伝子再集合体(リアソータント)を区別するため, 2008年にRotavirus Classification Working Group(RCWG)により全遺伝子型の表記法が提案された。それによると, 各遺伝子型をVP7-VP4-VP6-VP1-VP2-VP3-NSP1-NSP2-NSP3-NSP4-NSP5の順に, Gx-P[x]-Ix-Rx-Cx-Mx-Ax-Nx-Tx-Ex-Hx(xは型番号)のように羅列表記する。この表記方法が普及した結果, ヒトRVA流行株のほとんどは, Wa遺伝子群(G1-P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-H1), DS-1遺伝子群(G2-P[4]-I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2), AU-1遺伝子群(G3-P[9]-I3-R3-C3-M3-A3-N3-T3-E3-H3)のいずれかの典型的な遺伝子型構成を有することが示されている。実際には, G1P[8], G3P[8], G4P[8], G9P[8]のほとんどがWa遺伝子群の遺伝子型構成を有するため, ワクチン導入前のヒトRVA流行株の大半はWa遺伝子群のウイルスであったと考えられている。G2P[4]はDS-1遺伝子群であるが, ワクチン導入前に検出されていた割合は全体の約12%であった5)

近年発生した新しいRVA流行株

近年は, 遺伝子解析技術の向上により, フルゲノム解析による流行株の調査が行われることも多くなってきている。その結果, わが国にワクチンが導入された直後に当たる2012年に, 非典型的な遺伝子型構成を持つDS-1-like G1P[8]株(G1-P[8]-I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2)が初めて検出され, わが国をはじめ世界各国で流行を引き起こしていることが明らかとなった6-9)。この株は, 典型的なWa-like G1P[8]株とDS-1-like G2P[4]株との間で, VP7およびVP4遺伝子の2つがリアソートメントを起こした結果, 生まれたウイルスであると考えらえる。この株は2015年頃までは, わが国でも流行していたが, 現在は後述のDS-1-like G3P[8]株に置き換わり, 検出は稀となっている。

2014年には, 北海道においてG8P[8]株(G8-P[8]-I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2)の流行がみられた。G8型は, 以前は主にアフリカ大陸において散発的に流行が確認されていたが, 北海道で検出されたG8P[8]株は遺伝的にこれとは異なり, ウシRVAのG8型と近い配列(bovine-like G8)を持つウイルスであった。現在も日本を含め東南アジアを中心に流行が広がっている10-12)

2015年頃からは, 前述のDS-1-like G1P[8]株のVP7遺伝子のみが, ウマRVAに近いG3型に組み換わったDS-1-like G3P[8]株(equine-like G3P[8]株)(G3-P[8]-I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2)の流行が, ヨーロッパ, オーストラリア, 東南アジア等でほぼ同時に確認され, わが国においても主に2016年頃から広く流行が認められるようになっている12-15)

2018年には, G9P[8]株のNSP4遺伝子のみがE2型に組み換わったモノリアソータント株 (G9-P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E2-H1) が, 東京および大阪で検出されている。このウイルスは現在のところ国内のみの報告であるが, 今後の動向に注視が必要である12,16)

現在のところ国内での報告は稀だが, 海外では, 以前までマイナーだったG12株(G12-[6]/P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-H1)による大規模な流行が報告されており, わが国への侵入も懸念される17-19)

まとめ

RVAの遺伝子型分布はシーズン間および地域間の差が大きいため, 流行株の傾向を把握することは容易ではなく, 幅広い地域での継続的な調査が求められる。近年新しく流行がみられたウイルス株のうち, DS-1-like G1P[8]株, G8P[8]株, DS-1-like G3P[8]株はいずれもDS-1遺伝子群に属するウイルスである。また, ワクチン導入後に検出割合が上がっているG2P[4]株も典型的なDS-1遺伝子群である9,12,20)。これらはワクチン導入前に主流と考えられていたWa遺伝子群とは遺伝子型構成が大きく異なるが, この流行遺伝子型の大幅な変化に, ワクチン導入による選択圧の影響があったのか否かは定かではない。また, 上記のうち, G8P[8]株とDS-1-like G3P[8]株は, 動物のRVA由来と考えられる遺伝子を含んでいる点も軽視できない。現在のG9型流行株(lineage 6)も, ブタRVAと共通祖先を持つことが知られており21), 今後も, 同様に動物RVAの遺伝子の一部がヒトRVAとリアソートメントを起こすことにより, 新しい流行株が発生する可能性はある。現行ワクチンは, 開発当時に主要な流行株であったG1, G2, G3, G4, G9型の5種類のG型に対する防御効果が認められている。ワクチン接種や野生株への感染によって得られる免疫応答は幅広い交差反応性を示すことが知られているが, それらの研究は限定的であり, 近年の流行株との交差反応性の検証は今後の課題である。

 

参考文献
  1. Tate JE, et al., Clin Infect Dis 62 Suppl 2: S96-S105, 2016
  2. Asada K, et al., Western Pac Surveill Response J 7(4): 28-36, 2016
  3. Fujii Y, et al., BMC Pediatr 17(1): 156, 2017
  4. Araki K, et al., Vaccine 36(34): 5187-5193, 2018
  5. Santos N, et al., Rev Med Virol 15(1): 29-56, 2005
  6. Fujii Y, et al., Infect Genet Evol 28: 426-433, 2014
  7. Komoto S, et al., PLoS One 10(11): e0141739, 2015
  8. Luchs A, et al., Sci Rep 9(1): 2210, 2019
  9. Fujii Y, et al., Front Microbiol 10: 38, 2019
  10. Kondo K, et al., Emerg Infect Dis 23(6): 968-972, 2017
  11. Tacharoenmuang R, et al., PLoS One 11(11): e0165826, 2016
  12. Fujii Y, et al., Jpn J Infect Dis 2019(in press)
  13. Komoto S, et al., J Med Virol 90(5): 890-898, 2018
  14. Utsumi T, et al., Infect Genet Evol 61: 224-228, 2018
  15. Cowley D, et al., J Gen Virol 97(2): 403-410
  16. 左近直美ら, IASR 40: 109, 2019
  17. Bowen MD, et al., J Infect Dis 214(5): 732-738, 2016
  18. Dhital S, et al., BMC Pediatr 17(1): 101, 2017
  19. Motayo BO, et al., Heliyon 5(10): e02680, 2019
  20. IASRシーズン別ウイルス検出状況(胃腸炎ウイルス)
    https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data96j.pdf
  21. Phan TG, et al., Infect Genet Evol 7(5): 656-663, 2007
 
 
国立感染症研究所ウイルス第二部 藤井克樹

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