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マルチプレックスPCRによるロタウイルスのVP7遺伝子型判定法

(IASR Vol. 40 p205-206:2019年12月号)

背 景

A群ロタウイルス(Rotavirus A:RVA)は乳幼児の感染性胃腸炎の主な原因ウイルスである。ワクチンは, 2011年11月(Rotarix®)および2012年7月(RotaTeq®)から任意接種ワクチンとして導入されているが, 2020年10月からは定期接種化される予定である。RVAのゲノムは2本鎖RNAから成る11本の遺伝子分節で構成されており, その中でも, ウイルス粒子の外殻タンパク質を構成するVP7の遺伝子型(G型)が, そのウイルスの抗原性を把握する上で重要である。前記事「ロタウイルスワクチン導入後の流行株の変化」でも述べた通り, RVAの主要な流行遺伝子型は, ワクチン導入以前はG1, G2, G3, G4, G9型の5種類とされていたが, ワクチン導入後は, 非典型的な遺伝子型構成を持つDS-1-like G1やDS-1-like G3(equine-like G3), 以前はマイナーだったG8(bovine-like G8)など, 新規の流行株が続々と出現し, わが国においても広く流行が認められている1-3)。海外では既に広く流行しているG12型が4-6), わが国に侵入して流行を引き起こす可能性も否定できない。このような状況から, RVAの検査体制の重要性はますます高まっている。VP7遺伝子型の判定法としては, マルチプレックスPCR法(semi-nested multiplex-PCR)が従来から行われている。この方法は, シークエンスを解析することなく遺伝子型を調べることができるため, 簡便かつ非常に有用な検査方法である。ただし, IASR 2017年8月号にて指摘した通り7), 従来まで使用されていたプライマーセット(Gouvea’s primer set)は, 近年の流行株では誤判定となる例が多数見受けられる。そこで, 我々は, 近年の流行株に対応した新しいプライマーセットを開発したので, ここに紹介する。

新規プライマーセットによるVP7遺伝子型判定法

我々が新たに設計したプライマーセットをに示す。まず, RNA検体について65℃, 5分間の熱変性を行った後, 保存性の高い領域に設計した1st PCR用共通プライマー(VP7 C-040F(30)およびVP7 C-941R(29), 終濃度各0.4 μM)でRT-PCRを行う。この1st PCR産物を滅菌蒸留水で50倍に希釈し, 2nd PCR用共通リバースプライマー(VP7 C-0932R(20))および各遺伝子型特異的フォワードプライマー(G1-297F, G2-401F, G3-809F, G3e-757F, G4-478F, G8-179F, G9-606F, G12-669F, 終濃度各0.2 μM)を混合したプライマーセットで2nd PCR(マルチプレックスPCR)を行う。この2nd PCR産物について, 1.5%アガロースゲル電気泳動でサイズを確認し, G型の判定を行う。その結果例をに示す。このプライマーセットにより, G1型, G2型, G3型(従来のヒトG3), equine-like G3(ウマ様G3(G3e)), G4型, G8型, G9型, G12型の8種類を区別して判定することが可能である。G3型に関しては, 従来から流行しているヒトG3(lineage 3)と, 近年流行し始めたウマ様G3(lineage 1)の塩基配列が大きく異なっており(塩基配列の相同性は82%程度), 1つのプライマーで両者を検出することは困難であると考えられたため, プライマーは個別に設計し, 区別して検出できるように配慮した。また, 各遺伝子型間のサイズの差はおおむね100bp程度(最小で124 bp, 最大で754bp)となるように設計されており, 一般的なアガロースゲル電気泳動で容易に判定できるように設計した。詳細な方法については, 2019年6月に改訂した病原体検出マニュアル (第2版) に収載されている (https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Rotavirus20190619.pdf)。また, 同内容については既に論文8)でも報告されているので, 参考にしていただきたい。

おわりに

今回新たに設計したプライマーセットは, 現在ヒトの間で流行しているRVA株のほとんどをカバーできると考えられる。しかし, RVAの流行株は近年, 非常に多彩であり, これまでに流行していなかった遺伝子型が突然出現し, 流行し始める可能性も十分考えられる。今後もRVAの流行株について継続的な調査を行い, どのような遺伝子型が流行しているかを把握し, 検査方法やプライマーの配列も流行株に合わせて適宜改変していくことが求められる。

謝辞

本研究は, 日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「下痢症ウイルスの病原性発現機構の解明及び新規治療薬・ワクチン等の開発に向けた研究」(研究代表者:染谷雄一, 課題管理番号:18fk0108034j0202)および「ワクチン導入後のロタウイルスのフルゲノム解析に基づく分子疫学研究」(研究代表者:藤井克樹, 課題管理番号:18fk0108078j0001)の研究活動の一環として実施された。

 

参考文献
  1. Fujii Y, et al., Front Microbiol 10: 38, 2019
  2. Komoto S, et al., J Med Virol 90(5): 890-898, 2018
  3. Kondo K, et al., Emerg Infect Dis 23(6): 968-972, 2017
  4. Bowen MD, et al., J Infect Dis 214(5): 732-738, 2016
  5. Dhital S, et al., BMC Pediatr 17(1): 101, 2017
  6. Motayo BO, et al., Heliyon 5(10): e02680, 2019
  7. 藤井克樹, IASR 38: 172-174, 2017
  8. Fujii Y, et al., Front Microbiol 10:647, 2019
 
 
国立感染症研究所ウイルス第二部 藤井克樹
Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan