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急性脳炎として感染症発生動向調査に届出されたロタウイルス脳症の疫学

(IASR Vol. 40 p210-212:2019年12月号)

背 景

感染症に伴う急性脳炎は病原体が頭蓋内で直接炎症をおこしているもの, 急性脳症は感染を契機とした生体反応による中枢神経の機能障害と区別されることが多い1)。小児においてロタウイルス感染症とけいれんとの関連は従来より指摘されており, 意識障害が持続する症例でロタウイルス脳症と診断される症例もあるが, 発生機序については明らかになっていない2,3)。意識障害の持続はロタウイルス感染症の神経系合併症の一つであり, 2020年10月からの定期接種化が予定されているロタウイルスワクチンによる効果を評価する上でもこれらの症例の疫学を把握する事は重要と考えられる。本稿では, 急性脳炎として感染症発生動向調査に届出されたロタウイルス脳症症例の疫学についてまとめた。

方 法

5類感染症全数把握疾患である急性脳炎は, ウエストナイル脳炎, 西部ウマ脳炎, ダニ媒介脳炎, 東部ウマ脳炎, 日本脳炎, ベネズエラウマ脳炎およびリフトバレー熱を除く急性脳炎・脳症(以下, 急性脳炎)が届出対象である。本稿におけるロタウイルス脳症は, 感染症発生動向調査に2007年第1週~2019年第43週に報告された急性脳炎症例のうち, 原因病原体・検出病原体としてロタウイルスが記載されているものとした。ロタウイルスを含む複数の病原体が記載されているものも症例に含めた。

一方, 感染性胃腸炎(病原体がロタウイルスであるものに限る)(以下, ロタウイルス胃腸炎)は, 5類感染症基幹定点把握疾患として2013年第42週からサーベイランスが始まっており, 2019年第43週までに報告された症例を集計した。

結 果

急性脳炎は集計期間に6,018例が報告され, そのうちロタウイルス脳症は160例であった(他の病原体検出が記載されている14症例を含む, 2019年11月6日時点)。ロタウイルス脳症は各年3~5月に報告が多く, ロタウイルス胃腸炎の報告時期と一致した (図1)。

ロタウイルス脳症報告例の年齢中央値は3歳, 範囲は0~12歳で, 全症例が15歳未満の小児であり, 1歳の報告が最も多かった(, 図2)。基幹定点から報告されたロタウイルス胃腸炎は, 小児例が大半を占めたが20歳以上の成人例も601例 (10%) が報告された。

届出票に記載されている症状・検査所見のうち, 発熱を認めたものは134例(84%), けいれんは111例(69%), 嘔吐は83例 (52%), 髄液細胞数増多は11例(7%)であった()。

ロタウイルス脳症と診断した根拠となる病原体診断の方法は, 便を検体として迅速診断キットでロタウイルスが検出された症例が14例(9%), PCR法でロタウイルスゲノムが検出された症例が11例(7%)あったが, 検査法やロタウイルスが検出された検体の記載がなかった症例が多かった(n=133, 83%)。

届出時点で死亡と報告された症例は11例であり, 1歳が最多で6例, 最も年長の報告例は8歳であった(図2)。発症月は4月が最も多く4例, 次いで5月が3例, 1月が2例, 2月と3月がそれぞれ1例であった。移植治療後の症例も含まれていた。

まとめ

感染症発生動向調査で急性脳炎として報告された症例のうち, 病原体がロタウイルスと報告された症例は毎年報告されており, ロタウイルス胃腸炎の報告時期と一致して春期に多かった。届出時点に既に死亡と報告された症例が7%含まれていた。重症化予防を期待して, 2020年10月からロタウイルスワクチンの定期接種化が予定されているが, 定期接種化に伴ってロタウイルス脳症の疫学の変化を継続して評価していく事が重要と考えられた。

制 約

感染症発生動向調査に基づく急性脳炎の届出において原因病原体の記載は必須ではなく, 病原体不明として報告された症例にロタウイルス脳症が含まれている可能性がある。また届出後に死亡した症例の転帰を把握できないため, 前述の死亡報告数は実際より少ない可能性がある。

謝辞

平素より感染症発生動向調査にご協力いただいている関係者の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 日本小児神経学会, 急性脳症の概念と疫学
  2. Park SH, et al., Brain Dev 37(6): 625-630, 2015
  3. Rath BA, et al., Clin Pediatr (Phila) 52(3): 260-264, 2013
 
 
国立感染症研究所感染症疫学センター

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